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第2話 私には小春だけでいい

「こはるん達は今日の部活何してたん?」

「え、えっとね、来月の部活勧誘用の冊子を作ってたんだよ」

「はえー イラストとか載せてんの?」

「そっ、そうだよお 幸地さ…みっ、美由さんは今日何してたの?」

「えーっとねぇ」


 誠に不本意ながら3人で校門を出て歩くこと数分。

 静かに決意を漲らせる私をよそに、小春と幸地さんは会話を続ける。


 小春は何度も幸地さんに絡まれたこともあってか、ある程度自然に会話ができているみたいだ。


 --ちょっと前まで私がいないとフリーズしちゃって全然まともに話せなかったくせに。


 この状況は私にとって非常に面白くない。


 このままではある時突然、小春が私の前から姿を消してしまうのではないか。

 ならばいっそ私が閉じ込めてどこにも行けなくしてしまおうか、なんて馬鹿げた考えが頭をよぎる。


 胃の中で黒くドロドロとしたものが渦巻いて、今にも口から飛び出てしまいそうな気持ち悪さを感じながら、わたしは足元の小石を蹴る。


「へいへーいさくらっち、さっきから黙ってるけど、どしたん?体調不良かい?」


 嫌気がさすほど眩しい笑みを浮かべながら、幸地さんがこちらを振り返る。


 彼女の綺麗な瞳に見つめられると、自分の黒い部分が見透かされているような気がして居心地が悪い。


 私は、彼女の視線から逃れるように俯くと、ぎりぎり聞こえるかどうかという声でつぶやいた。


「……べつに。なんともないです」


 自分でも呆れるほど無愛想な態度に、彼女は目を細めた。


「……なんかさくらっちって全然撫でさせてくれない猫ちゃんみたい。こはるんと2人の時もこんな感じなの?」

「う〜ん……いつも桜ちゃん、私とはたくさんおしゃべりしてくれるよ?」

「うう〜なんだよぉそれぇ〜私なんかしたっけ?」


 幸地さんは茶色がかった綺麗な髪をぐしゃぐしゃと掻きながら、恨めしそうな声を上げる。


 ……私だって、別に好きでこんな態度をとっているわけじゃない。できることなら友好的に、とまではいかずとも普通に会話ができればと思っている。


 ただ、小春を私から奪う可能性のあるものと接すると、どうしたって嫉妬心が出てしまうのだ。


 そもそも、無神経にも私と小春の間に挟まろうとするこの女が悪いのではないか。


 スクールカーストぶっちぎってる一軍様がなぜ私たち下々に構う必要があるというのだ。


 小春は世界一可愛いが、お世辞にも派手な見た目をしているとは言えない。


 艶やかな黒髪のショートヘアで、くりくりとした瞳の下にはいつも軽くくまができている。


 身長は少し低めで、スタイルは年相応、天地がひっくり返ろうとも一軍女子とウェイウェイするタイプではない。


 それに引き換え幸地 美由という女は、校則にギリギリ触れない程度の茶髪ボブで、整った目鼻立ちをし、スタイルも割といい。


 風の噂によると、モデルにスカウトされたことは一度や二度ではないとか。普段彼女が見せる自信に満ち溢れた表情には、いかに彼女が可愛がられ、愛されてきたかが伺える。


 せっかく恵まれた容姿をしているのだ、その幸福を享受しながらずっとクラスの真ん中で輝いていれば良いではないか。


 私には、彼女が小春や私に執拗に話しかけてくる理由がわからない。教室での彼女の周りにはモテそうなイケメンも、派手なお友達もいる。


 私たちに構うメリットなどないだろうに。


 一応、小春によれば、幸地さんも『幕⭐︎男』のファンだという共通点があるらしい。たまたま小春がつけていたキーホルダーを見かけて話しかけてきたそうだ。


 なんにせよ、私と小春の間に割り込んでくる以上、私が幸地さんと仲良くなることはありえない。


************************


 あれからおよそ40分、淀んだ空気を気にも留めず、マシンガントークを続ける幸地さんと無愛想に対応する私、ただただオロオロする小春という地獄みたいな時間が続き、やっと幸地さんが離脱してくれた。


 私と小春は家が隣なので最後まで一緒だが、幸地さんの家は私たちの家とは少し離れたところにあるらしい。


 ここから先の道は2人だけの聖域、いくら一軍といえど私たちの十余年には敵わぬのだよ。


 私は内心でほくそ笑んだ。


「……ねえ、桜ちゃん。桜ちゃんは美由さんのこと、嫌い?」


 不意に小春が口を開く。


「……べつに嫌いってわけじゃないよ。ただ、私には小春だけで良いから」


 私は混じり気なしの本音を口にする。


 そう、私には小春だけで良い。小春が私のものになるのなら、他に望むものは何もない。


「そっか」


 小春はどこか安心したような表情を浮かべ、突如として走り出した。


「桜ちゃん!先に家についた方の勝ちね!よーいどん!!」



 --フライングじゃん。

 そんなことを思いながら、私はいたずらな表情をした小春に見惚れ、大きく差をつけられることになったのだった。






「ぜぇ……ぜぇ……まっ、まっでよぉ〜ざぐらぢゃん」

「待たんよ。負けた方は明日ジュース奢りね〜」


ちなみに普通に勝負には勝った。昔から小春は威勢はいいが体力がない。


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