訓練兵・2
朝6時ぴったりに起床ラッパと共に全員が飛び上がり着替え、点呼をし、朝食を取り、前日に指定された射撃場へ向かった。朝靄がまだ地面に薄く残っている。
「お前らー!今日は待ちに待った射撃訓練だ!そしてお前らに一人一人に自動小銃のM3A2という名前の銃を渡す!その銃は死ぬまで一緒に過ごす銃だから、しっかり手入れとメンテナンスをするように!」
カリスがそう言うと一人一人に銃を渡された。
その銃は冷たく重かった。手のひらに伝わる金属の感触に、思わず息を止める。
「早速だが二人一組で射台の前に立ってくれ、銃の射撃までの取り扱いと射撃時の号令を説明するから、耳穴かっぽじって聞けよ!」
全員横に黒い仕切りがある射台の場所にアレクトと一緒に立つと、カリスから標準の合わせ方、弾の装填方法、持ち方などを教えてもらった。
「全員やり方は理解したな!じゃああの100メートル先の人型の的を撃ってもらう。そして今回は通常弾薬の5.56mm弾を使うが、戦場では5.56mm対業用弾薬ごうようだんやくを使う。この弾薬は先端に薬品が塗られていて、人間に使うと通常弾薬と変わらないが、業持ちは特別な血を持っているため、当たれば一時的だが能力を抑制させることができる」
「あのー、一時的ってどのくらいの時間なのでしょうか?」
ネイトがゆっくり手をあげカリスに質問した。
「いい質問だな。結論から言うと人によってバラバラだ。早い人で数秒で遅い人だと数分から数十分かかる」
早速射撃訓練が始まった。
アレクトから弾薬を受け取り、弾数確認、装填をし装填完了の報告をした。
カリスの「撃ち方、はじめ」という合図で射撃を開始し、「撃ち方、やめ」という合図で射撃を終了した。乾いた発砲音が連続して響き、耳の奥が痺れる。薬莢の確認、的に当たった弾数を確認した。
ティシは10発中5発、横でしていたウルは10発中10発でしかも全て頭に当たっていた。
(ウルの的全部当たってるし、しかも全部頭!?)
ウルの方を見て驚愕していると、アレクトに肩を叩かれた。
「ちょっと、早く交代しないと教官に怒られるよ」
そう小声で言われ、ハッとした様に急いで交代した。
アレクトの番になり先程の流れで射撃を終わらせ、的を確認すると10発中2発しか当たっておらず、ティシは背中を叩き励ました。隣のネイトは10発中9発も当たっていた。
全員が的への着弾を記録し終えると、カリスが結果を見て回った。
ウルの前で足を止めると、片眉を上げた。
「ウル、お前、狩人にでもなるつもりだったのか?全弾頭部命中とはな」
「姉と一緒に山で動物を仕留めてきましたから」
ウルは照れくさそうに笑いながら答えた。
次にネイトの前に立ち、的の穴の位置を指でなぞりながら頷いた。
「お前は集中力があるな。この調子で照準補正の計算も覚えておけよ」
「はい、教官」
そしてティシの番になると、カリスは何も言わず、しばらく的を見つめていた。
(怒られる……)
身構えていると、意外にも肩を軽く叩かれた。
「悪くない。だが、お前は身体で覚えるより先に頭で考えすぎる癖があるな。度胸と体は後からついてくる。焦るな」
その言葉に小さく頷いたが、内心では複雑だった。
アレクトのような俊足の血の業も、ウルのような研ぎ澄まされた技術も、ネイトのような頭の回転も、自分には無い。
(私には、一体何があるんだろう)
頬の古傷にそっと触れながら、ティシは的の向こうに広がる曇り空を見上げた。指先に触れた皮膚の感触は、いつもと変わらず、ただの傷跡でしかなかった。
最後にアレクトの結果を見たカリスは、腕を組んで少し考える素振りを見せた。
「二発か。まあ、お前の武器は銃じゃない、その足だ。だが最低限は当てられるようにしとけ」
「……はい」
アレクトは的から視線を逸らさずに答えた。声には悔しさが滲んでいた。
一通りの講評が終わると、カリスは全員を一列に並ばせ、腰の弾薬ポーチから一発の弾丸を取り出した。先端がわずかに緑がかった色をしている。
「これが対業用弾薬だ。見た目はほとんど変わらないが……ドルマ。的の代わりになってくれ」
ドルマは静かに頷きカリスの射線上に立ち、カリスは慣れた手つきで自身の銃に対業用弾薬を装填した。金属が擦れるかすかな音が、やけに大きく耳に残った。
乾いた発砲音が響き、ドルマの二の腕をかすめた瞬間、彼はピクリともしなかった。
するとドルマの二の腕からは緑の液体が流れていた。生々しい色に、何人かの訓練兵が息を飲んだ。
「ドルマ。投げてみろ」
ドルマは右ポケットに入れていた小石に力を込め投げると右腕はわずかに電撃が纏ったが、小石の勢いは一般人が投げた石と変わらない威力で、壁にコツンと当たった。
「弾が当たると、業持ちには緑色の血が流れる。緑なのは血と先端に塗られた薬品が反応を起こし、緑の血が流れる」
カリスが腕時計に目をやりながら言った。
「よし、ドルマもう一度投げてみろ」
また小石に力を込め投げると右腕にははっきりとした電撃が纏い、投げた。
コンクリートの壁は凹み、投げた小石は砕け散った。
「この通りだ。さっき言った通り、効き目には個人差がある。ドルマは……大体5秒ってところか」
カリスは一拍おいて、全員の顔を見回した。
「ドルマは特別短いが回復は個人差だ。もし戦地に行き初めて被弾したら、業持ちは必ず秒数を数え自分の業を使えない時間を覚えておけ。それと事前に調べる方法はあるのかとよく聞かれるが、被弾するしかない。理由としては先端に塗られている薬品と弾薬は世界中の国家で機密に製造、保管されているからだ。そしてもう化学兵器として使われないようにするためだ」
ティシはその光景を、黙って見つめていた。ドルマの腕を伝う緑の血の色が、妙に頭から離れない。
自分にはまだ「業」と呼べるものは何もない。だから、この弾薬で奪われるものも、今のところは無いはずだった。
そのはずなのに、なぜか虚しい気持ちになった。夕暮れ前の射撃場に、乾いた風だけが吹き抜けていった。




