模擬戦闘準備
射撃訓練と戦闘訓練を学び始めて4週間が過ぎ、軍での生活にもすっかり慣れた。
「お前ら!最初の時よりずいぶんと射撃の腕が上がってるぞ!特にアレクトお前は最初2発しか当たらなかったのに、今や安定して全部の弾を的に当てられてるな!」
今まで一度も笑顔を見せたことがないカリスがアレクトの肩を叩き笑った。
他の全員も横目に見ながら驚愕した。
「あ、ありがとうございます!」
アレクトはびっくりしながらも照れながら言葉を返した。
「じゃあ今日の訓練は終わりだ。最後に、あと1週間後に模擬戦闘訓練がある。実際の街を再現した場所での訓練だ。それまでに体調管理はしっかりしておけよ!」
「イエッサー!」
みな褒められて機嫌が良いのかいつもより大きな声で返事をした。
肩の力を抜きみんなで帰ろうとすると、
「それとウル。お前はここに残れ」
「え…?何か悪いことしたっけ?」
ウルは「待ってよー」と言わんばかりの顔をし、こちらを見つめている。
「じゃあ先帰ってるねー」
「説教がんばれー」
「日頃の行いだね」
ティシ、アレクト、ネイトはそう言うとそそくさと出ていってしまった。
カリスは全員が出ていったことを確認しウルに言った。夕暮れの射撃場に、2人分の影だけが長く伸びている。
「ウル。早速だがお前狙撃手にならないか?」
「え?」
説教をくらうと思っていたウルはキョトンとし、その場に静寂が走る。
「お前には初めての射撃の時からお前の腕は良かっただろう?だから今人手不足の狙撃手をやらないかと誘ってるんだ」
「ぜひ!」
ウルは目を輝かせ言った。
「よし!毎日この時間にこの場所に来てくれ。俺が元狙撃手だから教えてやる。あとこのことは秘密にしてくれ。もう今日は遅い休んで明日に備えろ」
「はい!ありがとうございました!」
ウルが部屋に戻ると、みんなウルの説教の内容を聞こうとウキウキとしていた。
「今日はなんで呼ばれたの?」
アレクトがポテトチップスを頬張りながら言った。
「それはちょっと秘密かなー?」
ウルはニヤニヤしながら、アレクトのポテトチップスを1つ取りベッドに座った。
ネイトは何かを察したのか、ハッとしたような顔をし言った。
「ま、まさか!体のか…モゴモゴ!」
「ち、ちがーう!そんなわけ無いでしょ!」
ウルはネイトの口を手で急いで塞ぎ苦笑いしながらいった。
するとテレビを見ていたティシが体を片腕で支えながら、振り返った。
「実際のところ何してたの?」
「教官に秘密にしろって言われたから、それは言えないかなー」
そう言いながら洗面所で汚れた手を洗った。
「言い方がもう、から…モゴモゴ」
ウルがアレクトの足を超えるような速度でアレクトに駆け寄り、濡れた手で口を塞いだ。
「ティ、ティシもそんな事言わないでよー!」
「ちょ、手濡れすぎ!」
「ごめんごめん」
ウルが謝ると消灯時間が近づいてきた。
4人は洗面所に向かい歯を磨きながらふざけたり、他愛もない話をしているのにもかかわらず、ティシだけは鏡をじっと見つめていた。鏡の中の自分の頬の古傷を、無意識になぞっていた。
「おーい」
アレクトがティシの目の前で手を振った。
ティシはびっくりしたように、アレクトを見つめ直した。
「ど、どうした?」
「なーんか、最近おかしいよねー。ぼーっとしたり、前にも消灯時間過ぎてるのに寝ずに考え事?してるし」
アレクトはティシの顔をじっくり見つめそう言った。
「な、なんでもないよー。逆になんでそんなに気づいてるんだよ」
「ウチはね、アンタが孤児院にいる時からの親友だよ?そんなの見逃すわけないじゃん!」
「ありがとう。でも本当になんでもないから」
「ならいいけど!でも本当に何かあったら言ってね」
そう言われティシはちょっと安心しながら、ベッドに潜り込み、みんなに「おやすみ」を言い眠った。
——それから数日、模擬戦闘の準備で駐屯地は慌ただしくなった。装備の点検、体力測定、行軍訓練。忙しさに紛れて、ティシもあの妙な感覚のことを考える暇がないまま日々が過ぎていった。
——6日後
バァン!
鋭い音が空中に響き、銃口の周りには砂埃が舞う。
「ウル。お前飲み込みが早いな。狙撃手には距離の計算に空気抵抗の影響力とかを考えなきゃいけないのに、お前は頭の中で全て考えてる」
「いや、昔からずっと狩りをしていたので、それが身についてなんとなくここに当たるだろうなって思って、撃ってるだけなので」
照れながら返事をして、次の弾を装填した。
「そうだとしたら、お前天才の領域を超えて神だぞ。でも一応勘が狂った時のために計算方法などは覚えておくんだぞ」
「イエッサー」
そう言いながら、息を吐き呼吸を止めた。
風が止む。周りの音が一瞬遠のき、スコープの向こうの的だけが、やけにくっきりと見えた。
引き金を引くと、砂埃が舞い、放たれた弾は1200メートル先の人型の的を撃ち抜いた。
「よしヒットだ。今日はこれくらいにして、明日の模擬戦闘のために体を休めてくれ。それと観測手なんだが、俺がすることになった」
「そうなんですか!?」
驚愕したウルはスナイパーライフルから手を離し、カリスの顔を見た。
「ああ、上の奴らに今から育てるのめんどくさいから、君やっておいてって言われてな。上の奴らは頭のおかしい奴しかいないから、しょうがないんだよな」
「そ、そうなんですね…!でも教官が相方で良かったです!」
「そうか、でも教官から相棒になったからって、手加減はしないぞ!」
「イエッサー!!」
ウルは片付けをし、教官に別れを告げ野外射撃場を後にした。夕日が長く伸びた影を、彼女の足元に落としていた。
「まさかあんな奴にこんな才能が当たったとはな」
フッと笑いカリスも野外射撃場を後にした。




