模擬戦闘訓練
今日は模擬戦闘訓練があるせいで、駐屯地があわただしい。
「お前ら全員集まったな!今日は模擬戦闘訓練日だ!今から作戦内容を発表する!耳かっぽじって聞けよ!」
「イエッサー!」
全員微動だにせず司令のアレスの方をジッと見ている。
周りは整備士の声や工具の音だけが響く。
「今回の作戦は紅白戦での人質の救出だ!ルールとしては、白組が人質の救出側、紅組が人質の監視側だ。実際にある街を再現している場所で、人質はガラス張りの5階建てのビルの中、着地地点はみな森の近くだ。メンバーはこちらで決めてある。ティシ、アレクト、ネイト、ウル、カリスが白組だ。残りの奴らは紅組だ。でカリスが今回白組にいるため、紅組にドルマを入れさせる。質問がある者はいるか!」
「はい!」
ネイトが手を挙げ質問した。
「ビルにいる人質は何階にいるのでしょうか」
「それは教えられん。実戦でも分からない場合があるのに、模擬戦闘で分かってたら意味が無いだろ」
「申し訳ありません!」
「それじゃ全員準備ができたら、目隠しをぞれぞれのヘリに乗れ!場所は極秘だから絶対に目隠しを外すなよ!以上だ!」
「イエッサー!」
全員それぞれの装備に着替え、目隠しをそれぞれのヘリコプターに乗った。
目隠しをしてるからか、気を紛らわすものがなく、緊張してる者が多く居た。
ヘリコプターの飛ぶ音と心臓の音が響く。
「よし白組のお前ら着いたぞ!目隠しを外して、ロープで地上に降りろ!頑張れよ新兵たち!」
そう操縦者に言われるとロープで地上に降り立ち、地面に足がついた瞬間、風圧と共にヘリコプターも飛び立った。
その直後、戦闘機が近づいてくる甲高い音と共に、ヘリにミサイルが命中した。
「メーデーメーデー!まずい墜落す…!」
轟音と共に熱風が地上まで押し寄せ、機体がぐるぐる炎を立ち上げながら空中を舞い、地面に激突した。土煙と黒煙が空高く上がる。
4人がその場に立ち止まり、アレスだけは4人を呼びかけるように大きな声を出し、逃げるように声を掛けた。
「お前ら逃げるぞ!一度森の中に隠れるんだ!」
5人は無我夢中で走り、息を切らしながら木々の間を抜けた。岩壁に穴が空いていたのでそこに隠れた。
そこは洞窟みたいで、薄暗く空気が冷たい場所だった。冷たい風が頬を擦る。荒い息遣いが5人分、狭い空間にこだました。
「な、なんでこんな目に…!」
アレクトが涙を目に浮かばせながらティシに抱きついた。
「大丈夫だよ。アレクト。落ち着いて」
「ねぇこれって駐屯地に戻れるの?」
ウルが口を震わせながら、みんなに質問する。
「わからん、場所も極秘だから来た道すら、わからない」
「た、多分だけど、私わかる」
「本当なのかネイト!」
4人はびっくりした顔でネイトを見つめ、アレクトは泣き止んだ。
「うん、飛んでる時間が暇すぎて、駐屯地からここまでの距離を測ってたの。あのヘリは最高時速250kmで約10分間東の方向に飛んでた。だから単純計算で、駐屯地までは直線距離で大体41km。でもヘリが常に最高時速で走るわけじゃないから、41kmよりは短いと思う」
「流石だネイト。まぁ来た方向とは逆の方向に41km進めばいいんだろ。歩いて10時間、車で1時間くらいの距離か…」
「ティシ。地図を見て現在地を調べてくれ」
「現在は…、ここ!」
地図の中心には模擬戦闘の会場、周りには一面緑の森、左右両端には野原がある。
ティシは森の中にある岩壁に指を指した。
「一旦、紅組の奴らと合流するために、模擬戦闘の会場へ行こう。大体距離的に10分くらいだろう」
4人はカリスの方を向き頷き、洞窟を後にした。
その後何事もなく、会場にたどり着いた。
会場には何も音がなく、自分たちの地面を踏みしめる音と風の音だけが鳴る。
全員壁沿いを移動した。
「ねぇ、こんなに静かなことある?」
静寂が走り、場を和ませようとウルが口を開く。
「かなり妙だ。多分だが、ビルに人質が用意されているはずだから、状況を知るために、一度ビルの方へ行こう」
手信号を駆使しながら、隠れながら進んだ。
ビルにも近づいてきた頃、上を見上げたティシが急に立ち止まった。
「ちょ、急に立ち止まらないでよ!」
「ねぇ、みんなあのビルの屋上見て」
ティシが声を震わせ言った。
「な!あれは!」
全員息を飲み込み、上を見上げた。
「血!?」
ビルの屋上には柵を超えて、血が流れていた。
「お前ら立ち止まるな!すぐに状況を確認しにいくぞ!」
息を切らしながら不安、怒り、苦しみを抱えながらビルの屋上へ向かった。
1階から5階まで特に争った形跡はなく、綺麗なままだった。その静けさが、逆に不気味だった。
急ぎながらも、慎重に屋上へ上がっていた。階段を上がるたび、鉄の匂いが濃くなっていく気がした。
「あともう少しで屋上だ。俺が最初にドアを蹴破る。その後は俺の後ろに付いてこい」
小声でカリスが言うと、4人は頷き、後ろに並んだ。
カリスが手信号でカウントダウンをすると、ドアを壊す勢いで蹴破り、続々と外へ出た。
すると目の前には異様な光景が広がっていた。
「な、なんだこれは!?」
「ヤバい、ウチ気持ち悪くなってきた」
「大丈夫!?アレクト!?」
アレクトは一度その場を離れ、ティシはアレクトを落ち着かせるために、付いて行った。
「こんなの人間がすることじゃない」
ネイトは拳を握り、怒りをあらわにした。
「これ早く逃げた方が良いんじゃない…」
5人が目にしたものは、床に大量の血を撒き散らし、頭部のない人間がまるで絡まったコードのように、絡まったままサッカーボールほどの大きさで死んでいた。
誰も、しばらく言葉を発せなかった。風だけが屋上を吹き抜けていく。
「まずは、こいつの調査だ。これは業を使った人間の仕業だが、始めて見るタイプの業だ。軍の調査書にもこんなのは見たことがない。よし、ティシはアレクトを落ち着かせながら、通信機で駐屯地に連絡を取ってくれ。ウルは周りの監視を、ネイトは俺と一緒にこいつの調査を、終わり次第ウルの監視を手伝う」
「イエッサー!」
淡々と指示をこなしながらも、誰の顔にも先ほどの光景の色が抜けきっていなかった。
40分ほど経った頃、カリスはティシの通信状況を聞くために近づいた。
「どうだ。繋がりそうか?」
「全く繋がらないです。もしかしたらですが、駐屯地が攻撃されたのかもしれません」
ティシは通信機のダイヤルを操作しながら言った。指先はまだ、微かに震えていた。
「そうか。お前ら!一度ここを離れて、駐屯地に向かうぞ!」
「イエッサー!」
出発の前、亡くなった人たちを地上へ降りた。5人は言葉少なに手を合わせ、亡くなった人たちを丁寧に埋葬した。誰も口を開かなかった。ただ、土をかける音だけが屋上に響いていた。
埋葬を終えると、5人は駐屯地に向かうために歩みを進めた。夕暮れの光が、5人の伸びた影を長く地面に落としていた。




