電気
亡くなった人たちを埋葬した後、5人は駐屯地に向かうため歩きはじめた。
町中は日が暮れてきて街頭に明かりが点いてきた。
「ねぇ、この車とかって動かせないの?」
ティシは道に放置されたボロボロの車を指差し、質問した。
「動かせると思うが、ガソリンがないからな」
カリスが屈み込み、車体の下を覗き込みながら言った。
「あれ、でも……この車、給油口が無いよ」
車体を一周していたウルが、後部にあるはずの給油口の代わりに、四角い蓋のようなものを指差した。
カリスがその蓋を開けると、中には見慣れない差込口があった。
「これは……充電式の車か。しかもこれ昔駐屯地に置いてあったやつだ」
「昔駐屯地に?」
「あぁ。過去にソーラーパネル付きの電気軽装甲機動車を試しに入れてみようってなってな。それで導入したんだが全然ダメでな。走行距離はガソリン以下だし、ソーラーパネルでの充電量も微量であまり使い物にならなかったんだ。まさかここに捨てられてたとは…」
「充電式?ってことは、ガソリンいらないんですか!?」
アレクトが目を輝かせ、車に駆け寄った。
「いや、喜ぶのはまだ早い。電気で動くってことは、バッテリーが空ならガソリン車と同じでただの鉄の塊だ」
カリスは運転席に乗り込み、ダッシュボードの表示を確認した。緑色の小さなランプが、弱々しく点滅している。
「……生きてはいるが、空だな」
「じゃあどうするの?」
ウルが車の周りをぐるりと見渡しながら聞いた。あたりは夕暮れが迫り、廃墟のような街並みに長い影を落としていた。
「ここ、本物の街じゃなくて訓練施設だよね」
黙っていたネイトが、口を開いた。
「それがどうしたの?」
「訓練で使う街灯とか、監視カメラとか、さっきのビルの明かりも、全部本物の電気で動いてたはず。ということは、この街のどこかに、それを賄うための発電設備があるはず」
「……確かに。よし、手分けして探すぞ。ウル、周辺を索敵しながら電線か配電盤らしきものを探してくれ。見つけたら合図を送れ」
「イエッサー!」
ウルはすぐに物陰へと駆けていった。それから数分後、遠くから小さく口笛のような合図が響いた。
たどり着いた先は、街並みに紛れるように建てられた小さなプレハブ小屋だった。ドアには「関係者以外立入禁止」の札がぶら下がっている。
中に入ると、埃をかぶった制御盤と、工具箱、そして予備バッテリーらしき箱がいくつか並んでいた。制御盤からは、かすかに低い唸り音が聞こえている。
「予備バッテリーはあるが……この車の差込口とは規格が合わなそうだな」
カリスが箱を手に取り、顔をしかめた。
「配線、直接繋げられないの?」
ティシが制御盤の中を覗き込みながら聞いた。中には配線が何十本と束になり、複雑に絡み合っていた。しかもどれも同じ黒い被膜に覆われていて、外から見ただけではどれが生きていてどれが死んでいるのか、見当もつかない。
「見た目じゃ分からんな……。それに下手に触って感電したら洒落にならん」
日はすでに半分沈み、小屋の中は薄暗くなり始めていた。目を凝らしたところで、この量の配線を一本一本たどるのは時間がかかりすぎる。
沈黙が落ちる。誰もが顔を見合わせた中、ネイトがゆっくりと制御盤の前に膝をついた。
「……私、やってみる」
「え、ネイトできるの?」
「多分。今まで言ってなかったけど」
ネイトは小さく息を吸い、両手の手袋をゆっくりと外した。指先が、かすかに震えている。
「配線の中を流れてる電気が、なんとなく分かるの。強い流れと、弱い流れと、止まってる場所。血の業のおかげで、指先がすごく敏感になるみたい」
ネイトは目を閉じ、指先を配線の束に這わせるように動かした。まるでヒゲで空気の振動を読み取る小動物のような、繊細な仕草だった。見た目では判別できない何十本もの配線の中から、電気の流れが途切れている一本だけを、指先の感覚だけで探り当てていく。
「ここ……切れてる。中で断線してる。見た目は繋がってるように見えるのに」
束の中から一本を引き抜き、被膜を軽く剥がして見せると、たしかに中の芯線が内側で千切れていた。カリスとティシが覗き込んでも、剥がすまでは全く分からなかった箇所だった。
工具箱からニッパーとテープを取り出し、慣れない手つきながらも、断線箇所を的確に繋ぎ直していく。
「よし……多分、これで」
ネイトが最後の接続を終えると、制御盤のランプが一斉に緑色に灯った。低い唸り声のような音が、少しずつ大きくなっていく。
「繋がった。急いで車に戻ろう。ここから充電ケーブルを延ばせるはず」
見つけた延長ケーブルを引きずりながら、5人は車の元へと戻った。ネイトが充電口にケーブルを繋ぐと、ダッシュボードのランプの点滅が、ゆっくりと安定した光に変わっていった。
「……どのくらい溜まった?」
「わからない。でも、動くだけの分は、多分」
「よし、時間がない。日が完全に落ちる前に、少しでも距離を稼ぐぞ。全員乗れ!」
カリスの声に、4人は顔を見合わせ、頷いた。
エンジン音のない、静かな駆動音とともに、車はゆっくりと動き出した。
「うわ、意外と普通に走る!」
「油断するな。バッテリー10%で一応駐屯地まで行ける距離まではあるが、もし切れたら、その場でまた歩くことになる」
窓の外を流れていく廃墟の街並みを眺めながめた。
夕焼けが、傷跡を橙色に染めていた。
(早く、駐屯地に戻らないと)
車は不安定な唸り声を上げながら、沈みゆく夕日の中を、駐屯地のある方角へと走り続けた。




