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究極が来た!

「あー、多かった。骨ばっかりでしばらくカルシウムはいらないかも」


おびただしい数のスケルトンを文字通り粉砕し終えたヒナタが手にした杖を肩に担ぎながら息を吐いた。

回廊の床には、二人が撒き散らした骨の破片で真っ白に染まっている。


「もうここにはいないみたいだし、あっちの奥の扉に何かいるんじゃないかな?」


ツムギが指差した先にはいかにも何かいそうな大きな扉が聳えている。2人は回廊の最奥にある扉を開き、ヒナタが中を見て顔をしかめる。


「……うわぁ、いかにもザ・ボスって感じのがいる」


禍々しいオーラが漂う玉座に、そいつは鎮座していた。他のスケルトンよりも一回りは巨大な体躯。ヴァイキングが被るような二本の角付き兜を戴き、自身の身長の半分はあろうかという分厚い大剣を地面に突き立てている。

二人の侵入に気づいたボスの眼窩に、ブワッと紅い業火が灯った。

ガガガガガッ!

激しい骨の鳴動と共に玉座から立ち上がったボスは超高速で距離を詰めると、その巨大な大剣を容赦なく振り上げ――ツムギの脳天を目がけて、全力で叩きつけた。

――ガンッ!!!

建物中に響き渡るような、凄まじい金属音が轟く。

次の瞬間、大剣は二人の異常な硬度に耐えきれず、まるでガラス細工のように根元からバキバキと粉々に砕け散った。


「ふふん、やっぱりね! あのボスっぽいのも、私らの敵じゃ――って、ツムギ? どうしたの?」


勝ち誇ろうとしたヒナタが、慌てて声を裏返した。

ツムギが両手で頭をがっつり抑え込み、その場にガクンと膝をついて激しくうずくまっていたからだ。


「ううう……っ! い、痛い……! この姿でも、痛いものは痛いみたいぃぃ……っ!」

「ええっ!? 大丈夫!? 血は……出てないね。あ、よしよし、痛いの痛いの飛んでけー!」


ヒナタは慌ててツムギの隣にしゃがみ込み、魔法カラーになった頭をヨシヨシと必死に撫でまわした。カバンの中からピピが呆れたように顔を出す。


「そりゃそうだゾ。戦闘少女の防御力は頑丈さであって、衝撃を無効化するスキルじゃないんだゾ。痛覚はあるし無敵じゃないんだゾ!」

「先に言って…それ…」


「ツムギの恨みだぁぁ!!」


大剣を折られて呆然と立ち尽くすボススケルトンに向かって、ツムギとヒナタが同時に地を蹴る。


「「せーのっ!!」」


息を合わせた二人の、渾身のダブルストレート。可愛いドレスの袖が風圧で激しく弾けた。

ドゴォォォォォン!!!

ツムギの一撃がボスの胸骨を砕き、ヒナタの一撃がボスの頭蓋骨を粉砕する。

苦戦するどころか、文字通り一瞬の出来事だった。ボススケルトンは断末魔の悲鳴を上げる暇さえなく、爆発的な衝撃波と共にバラバラに砕け散った。


「よし、終わったし脱出しよ!」

「うん!」


二人が出口へ入ると、次の瞬間には、学校の清々しい屋上へと戻っていた。背後の門は、サラサラと光の粒子となって空気中に溶け、完全に消滅していく。


「ふぅ……。ハンターが来る前に片付いて良かったね」


ツムギがホッと胸をな下ろした、その時だった。

キィィィィィン――!!!

遙か彼方の空から、空気を引き裂くような絶大な暴風の音が迫ってきた。


「ん!? 何あれ、鳥!?」


ヒナタが指差した先。長い髪を一本に無造作にまとめた一人の男が、背中に緑色の風を纏い、凄まじい速度で空を飛んでこちらに向かってきていた。

ドガァァァァァン!!!

男はそのまま、学校の屋上のコンクリートに派手なクレーターを穿ちながら着地した。

巻き上がる土煙。その中心で、男は前髪をかき上げながら、不敵な笑みを浮かべて言い放つ。


「おい、お前たち! その湧き上がる妖気、間違いなく特級だな! ……フッ、究極の俺様が持つ究極な勘が知らせてくれたのさ。この場所に、極上の特級が潜んでいるとなぁ!」


あまりにも情報量が多く、かつ最高に胡散臭い男の登場に、二人は完全に硬直した。


「……ねえツムギ、何あの人? 日本で有名な、プロのトップハンターとか?」

ヒナタが引きつった笑顔で耳打ちする。

「いや……あんな変な人知らない。そもそも私、あんまりハンターに興味ないし……」


二人のコソコソ話を無視して、男は自身の身体からブワッと強烈な風のプレッシャーを放ち、悦に入った表情で叫んだ。


「やはり俺の勘に狂いはなかった! 特級はいたんだな! しかも、同時に二人も拝めるとは、今日は最高の記念日だ! ――そういう訳で、この俺と戦え!!」


「「どういう訳で!!!???」」


二人の息の合ったツッコミが、誰もいない学校の屋上に木霊した。


「あの、勘違いしないでください! 私たち魔物じゃないです! ちゃんとした人間です!」

ツムギが必死に手を振って弁明するが、戦闘狂の男の耳には全く届かない。

「はっはっは! お前たちが特級の力を持つ存在であるなら、ハンターだろうが何だろうが俺は気にせん! 関係ない! 俺はただ強い奴と戦いたいだけだ!!」


完全に話が通じないタイプだ。

昨日のといい、今日のといい、どうしてハンターはこうも人の話を聞かないのか。

ツムギとヒナタはお互いの顔を無言で見合わせた。


「ヒナタ……こういう相手は……」

「うんツムギ。こういうのはさ……」


二人は息を合わせて、くるりと男に背を向けた。


「「逃げた方が良いね!!!」」


究極を自称するハンターに潔く背を向けると、ツムギとヒナタは屋上のフェンスを軽々と飛び越え、全力で校舎の外へと飛び降りた。

普通の人間なら即死する高さだが、戦闘少女の筋力があれば、ただのちょっとした飛び降りである。二人のフリルドレスが、パラシュートのようになびいた。


「なっ……!? この俺から逃げようなどと、いい度胸だ!」


背後から男の怒号が響く。


「この究極の俺様が、獲物を逃すと思うなよーーーっ!!」


男の全身から、先ほどとは比べ物にならないほどの猛烈な暴風がブワッと発生した。

男はその風を自身の身体に龍のように巻き付けると、重力を完全に無視して、フワリと宙に浮き上がる。


「うわっ、本当に飛んで追いかけてきた!?」


着地寸前のヒナタが上空を見上げて悲鳴を上げる。


「もう、なんなの今日の日本の学校ーーーっ!」

ツムギも涙目になりながら地面に足を着け、再び猛ダッシュを開始した。

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