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嵐から逃げ切れ!

「はぁ、はぁ、はぁ……! こ、ここまで来れば、もう大丈夫だよね……っ」


住宅街の入り組んだ路地裏。自動販売機の隙間に身を潜めながら、ツムギは激しく肩を上下させていた。隣ではヒナタも壁に背中を預けて息を切らしている。


「ハッハー! 無駄だ、無駄だぁぁぁ!」

「「キャァァァア!!?」」


直後、上空から猛烈なダウンバーストが吹き荒れ、二人の頭上から究極を自称するハンターが降ってきた。


「ひぃぃ! ここなら、ここに隠れれば今度こそ大丈夫なはず……っ!」


二人はすぐさま反転し、近くの公園の鬱蒼とした茂みの中に身を潜めた。しかし。


「ハッハー! 見つけたぞ、特級ども!」


ゴオォォォッ!と容赦ない暴風が吹き荒れ、遮蔽物だった草木が根こそぎ吹き飛ばされる。青空の下に強制的に晒された二人は、またしても悲鳴を上げた。


「キャァァァア!!」

「しつこい! ストーカーか何かなの、あの人!?」

「こうなったら……!」


二人が最終手段として駆け込んだのは、公園の片隅にある公衆の女子トイレだった。さすがに男であるアイツも、ここまでは入って来られないはず――。

そう信じて、ツムギとヒナタは同じ個室に飛び込み、ガチャンと鍵をかけた。


「いくらなんでも流石にここまでは…」


静まり返る個室。外からは何も音が聞こえない。撒いたかと思った次の瞬間。


「ハッハー! 立て篭もりも無駄だぁぁぁ!」


バサァッ!と風が吹き抜け、個室の隣の壁から、男がぐいっと身を乗り出して覗き込んできた。


「「二つの意味でキャーーーっ!!」」


「なんなのあの人!? どこへ逃げても、どこに隠れても正確に見つけ出してくるんだけど!」


トイレから脱出し、再び住宅街を猛ダッシュしながらヒナタが叫んだ。


「ヒナタ! さっきあの人が言ってたよね、私たちから妖気がどうって! 多分、その妖気ってやつをレーダーみたいに辿って追ってきてるんだよ! つまり――」

「つまり、その妖気ってやつを完全に抑え込めば、あの人は私たちを追えなくなるんだね! ……で、それってどうやるの!?」

「そんなの私が知るわけないでしょ!」


ツムギは走りながら、死ぬ気の思いで自分の肩にしがみついている黄色いぬいぐるみを引き剥がし、目の前に突き出した。


「わかんない事があったら聞けばいいんだよ! ねえ、ピピ!」

「俺がそんな高度な技術なんて、知るわけないんだゾォォォ!」

「「ええーーーーーっっっ!!!???」」


一人と一羽の絶望の叫びが響き渡る。


「こうなったら、腹を括って戦うしかないんだゾ!」

「無理に決まってるでしょ!」

ツムギが涙目で反論する。

「あの人、絶対今まで戦ったウサギや骨とは比べ物にならないくらい強いよ!」


流石の二人も、戦闘に関しては昨日今日に力を手に入れたばかりのウブな女子中学生だ。対して相手は、全力疾走で逃げ回る二人を前に、顔色一つ変えずに涼しい顔で追跡し続けている。スキルの応用力や身のこなしを見るに、間違いなく修羅場をくぐり抜けてきたプロのハンターだ。

まともに正面からぶつかっても、勝ち目がないことなど確実だった。


「……待って。ねえヒナタ、知ってる? 戦闘少女って、変身時間が一時間なんだって」

「今初めて知ったけど……それが何……。――あ! もしかして!」


ヒナタがパッと目を見開き、ツムギの魂胆に気づく。


「そう! だからこのまま海岸に行って、変身終了の直前に、あの人の視界を砂とかで目潰しして塞ぐの!」

「そして、変身が解ければ妖気も同時になくなる! そうなれば、あの人も私たちを追う手段がなくなるってことね!」

「なるほど、完璧な作戦……!」

「うん、それで――」


ここで二人は、息ぴったりに全く同じ疑問を口にした。


「「――私たち、変身してから今どのくらい経ったっけ?」」


二人の間に、一瞬の不穏な沈黙が流れる。


「「なんで数えてないのーーーーーっっっ!!!!」」


「何で覚えてないのツムギ! 自分の作戦でしょ!?」

「そっちこそ、時計くらい見といてよヒナタ!?」

ギャーギャーと内輪揉めを始める二人の背後に、再び不穏な風が巻き起こる。


「さて……。そろそろこの鬼ごっこも飽きてきた。いい加減、本気を…」


究極のハンターが不敵に笑い、さらに風の出力を上げようと右手を掲げた、その時だった。


ドゴォォォン!!!


「ぶふぉっ!?」


どこからか飛来した、禍々しい赤紫色のエネルギー弾が、男に命中した。

予期せぬ方向からの強力な一撃に男の意識が一瞬だけ逸れ、その足が完全に止まる。


「な、何だゾ……!?」

「わかんないけど、大チャンス!!」


神風のようなアシストを逃す手はなかった。ツムギとヒナタは海岸へ向かうルートを変更し、一気に路地の奥へと潜り込み、ついに究極のハンターを完全に撒くことに成功したのだった。

その時、2人の体が光り、元の制服姿に戻ってしまった。


「えっ!今なの!?」

「とりあえず少しでも遠い所に逃げないと!今が最後のチャンスだから!」


変身が解けた事で、2人から出ていた妖気が消え失せ、ハンターは追う手段を無くした。


「……チッ、見失ったか。あれは一体……」


頭を掻きむしる男の後方。近くのビルの屋上影から、その様子を冷ややかに見つめる者がいた。


「ふぅ……。見つからないうちに、私たちも帰ろうか」


1メートルほどはある1つの宝石が施された白いステッキを持った謎の少女が、静かに息を吐いた。


「もう帰るんだド?」


彼女の肩に乗った、薄紫色の鳥のが、退屈そうに首を傾げる。


「あんな世界最強に見つかったら、ロクな目に遭わないもん」


少女が手にしたステッキを軽く振ると、それはまばゆい光を放ちながら、みるみるうちに手のひらサイズへと小さくなっていく。少女はそれを無造作に制服のポケットへと仕舞い込んだ。


「じゃあね、戦闘少女」


謎の少女はフッと口元を歪めると、風のようにその場から姿を消した。

九死に一生を得たツムギとヒナタ。しかし、彼女たちの知らないところで、新たな波乱の火種が確実に燃え上がろうとしていた。

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