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2話 ハンターとの対決!

「はあー……終わった。けど……うーん、てゆーかなんかまだちょっと信じられないや」


周囲に転がっていたオーガラビットの残骸が完全に光の粒子となって消え去るのを見届けながら、東山ヒナタは自分の両手を何度も握ったり開いたりしていた。可愛いリボンとフリルのドレスを着ているが、中身は数分前にウサギのバケモノを物理でボコボコにしたばかりの女子中学生である。


「だね……。夢なら早く醒めてほしいっていうか、できればハンバーグの材料が残ってる時間まで巻き戻ってほしい……」


隣で同じくフリルまみれの千之ツムギが、魂の抜けたような声でため息をつく。

そこでヒナタは、ハッと気づいたようにポンと手を叩いた。


「あ、そういえばさ、自己紹介がまだだったよね。私は東山ヒナタ。あんたの名前は?」

「あ、私? 私は千之ツムギっていうの。よろしくね、ヒナタちゃん」

「そして俺はピピだゾ!」


二人の間で、誇らしげに胸を張る黄色い鳥のぬいぐるみ。それを見たヒナタが、素っ頓狂な声を上げて飛び退いた。


「うわあああ!? ぬ、ぬいぐるみが喋ったぁぁぁ!?」

「……今更だゾ!? 門に入る前から散々喋ってただろーが!」

「あの時はパニックでそれどころじゃなかったのよ!」

「まあまあ…とりあえず早く外に戻ろ」


ギャーギャーと騒ぐ一人と一羽をなだめつつ、ツムギたちはひとまず現実世界へ戻るべく、開いたままの門へと足を踏み入れた。



光の引き波を通り抜け、ツムギたちが廃ビルの地下へと戻ってくると、そこには先客がいた。

カチッとした黒い学ランに身を包んだ、ツンツンヘアーの黒髪の男子高校生だ。彼はスマートフォンを耳に当て、誰かと通話をしている最中だった。


「――はい。もしもし? どうかしましたか?」


男子高校生の声は冷静そのものだったが、背後から突然現れたフリルドレス姿の少女二人に気づくと、わずかに目を見開いた。しかし、すぐに落ち着きを取り戻し、通話相手に報告を続ける。


「いえ、今門からハンターが出てきて門が消えていくところです。実害はなさそうですね」


彼の言葉通り、ツムギたちの背後にあった青い門は、サラサラと光の粒子となって空気中に散らばり、跡形もなく崩壊していった。


「おや、それは良かったですね。では、失礼します」


短い会話を終えてスマホをポケットにしまった男子高校生が、ツムギたちの方へとゆっくり近づいてくる。

どうやら彼は、ニュースでよく見る本物のハンターのようだった。ギルドからの要請か何かで、この門の処理に来たのだろう。


「あ、あのー……」

ツムギが恐る恐る声をかけようとした、その時だった。


男子高校生の鋭い視線が、ツムギの腕の中に収まっている黄色い妖精――ピピへと注がれた。


「……ッ!? こいつら、魔物か!?」


彼の目の色が、一瞬で戦闘のそれへと変わる。


「えっ、違います! 私たちは――」


「問答無用!」


ツムギの弁明など、男子高校生の耳には届かなかった。

彼が右手を突き出した瞬間、その手の平から激しい火柱がボオォッ!と湧き上がる。明らかに一般人を殺しにきている超常炎のスキルだ。彼はそのまま、炎を纏った拳を突き出し、ツムギたちへと襲いかかってきた。


「危ないっ!」

ツムギが身を固くした、次の瞬間。


――ドゴォッ!!!


廃ビルの地下室に、鈍く重い衝撃音が響き渡った。


「ぶふぇっ!?」


情けない悲鳴を上げたのは、襲いかかってきたはずの男子高校生の方だった。

横から割り込んだヒナタのとりあえず身を守るために突き出した両手が、彼の胸板に直撃したのだ。


男子高校生の身体は、まるでトラックに跳ねられたかのように真後ろへと吹き飛んだ。そのままコンクリートの壁にドスンと激突し、容赦ない衝撃波で壁に蜘蛛の巣状のヒビを入れる。


「がはっ……」


白目を剥いた男子高校生は、壁を背にズルズルと床へ崩れ落ち――そのままピクリとも動かなくなった。手元で燃えていた炎が、シュウウ……と儚く消える。


「あ……」

ヒナタが、自分の両手を震わせながら硬直した。

「ご、ごめんなさい……! でも、正当防衛……だよね? だって、いきなり火を出して襲ってきたのあっちだし……っ!」

「し、死んじゃったりしてないよね!?」

ツムギが慌てて駆け寄り、おそるおそる男子高校生の様子を覗き込む。

「安心するだゾ。ほれ、まだピクピク動いてるからきっと平気だゾ」

「平気な動き方じゃないよそれ!」


本物のハンターを一般人が一撃で気絶させてしまった。この事実が公になれば、確実にただ事では済まない。


「に、逃げよう!」

「賛成!」


二人は気絶した男子高校生をその場に残し、脱兎のごとく廃ビルから飛び出した。


「ま……待て……お前ら……っ」


薄れゆく意識の中で、男子高校生は遠ざかっていく二人の背中を、ただ黙って見つめることしかできなかった。フリルドレスをなびかせて走る少女たちの姿が、彼の網膜に深く焼き付いた。


「はぁ、はぁ、はぁ……! ここまで来れば大丈夫かな!?」


どれくらい走っただろうか。夕暮れの住宅街まで逃げ延びたところで、ツムギは足を止めた。

ふと自分の手元を見ると、いつの間にかドレスは消え失せ、見慣れたいつもの私服に戻っていた。頭のお団子髪も元通りだ。


「あれ? いつの間にか元に戻ってる……」

「言い忘れてたけど変身の制限時間は一時間だゾ。時間が来れば自動的に解除されるんだゾ」

「そ、そうなんだ……。あー、びっくりした。とりあえず今日は色々あったね、ヒナタちゃ……って、あれ?」


振り返るとそこにいるはずの水色ショートの少女の姿がなかった。


「なんか、いないし……!」

「あいつなら、逃げてる最中に完全に別の路地へ逸れてっちゃったゾ」

「ええーっ!? 連絡先も聞いてないのに!?」


お使いの材料は台無し、本物のハンターはボコボコ、相棒とははぐれる。

ツムギの十四歳の誕生日は、こうして大波乱のまま幕を閉じたのだった。


そして翌朝。


ジリリリリリ!と鳴り響く目覚まし時計を叩き消しツムギは絶望した。

時計の針は、すでに始業直前を指している。昨日の疲労のせいで完全に寝坊したのだ。


「やばい、やばいやばいやばい! 遅刻するぅぅぅ!」


食パンをくわえる暇さえなく、ツムギは制服のスカートをなびかせて家を飛び出した。


「14歳初の学校が初日スタートだなんて嫌だあぁぁ!」


「ちょっと待ってツムギ…そんなに揺れると吐き気が…」


ピピが青白くなるのをお構いなしに通学路を全力疾走で駆け抜ける。曲がり角の先が見えない狭い路地。遅刻の恐怖で頭がいっぱいのツムギは、スピードを緩めることなく、その角へと突っ込んだ。


タッタッタ、ドンッ!!!


「きゃあああ!?」


凄まじい衝撃。まるで頑丈な鉄柱にでもぶつかったかのような衝撃を受け、ツムギの身体は派手に後ろへと吹っ飛ばされた。尻もちをつき、カバンが手から離れて、中の教科書や小物が地面にバラバラと散乱する。


「いったたた……。あ、ごめんなさ――」


謝りながら顔を上げたツムギの言葉が、途中で凍りついた。


「おい、お前大丈夫か?」


上から声をかけてきたのは、カチッとした学ランを着た、黒髪ツンツンヘアーの男子高校生だった。

昨日、廃ビルでヒナタに壁へ叩きつけられ白目を剥いて気絶していたあの少年だ。


えっ……嘘、なんで!?


ツムギの心臓がドキンと跳ね上がる。だが、彼の様子を見る限り、昨日の大怪我など嘘のようにどこも包帯すら巻いていない。ピンピンしている。ハンターの回復力なのか、あるいは別のスキルのおかげなのか。とにかく彼は無事なようだった。


そして何より彼はツムギの私服の姿(変身前)しか見ていない。今は中学校の制服を着ている。

男子高校生は、ツムギを見ても特に不審がる様子もなく、ただ不注意な女子中学生を見る目で、地面に視線を落とした。


「ほら、荷物飛んだぞ。拾うの手伝ってやるから……」


「あ、ありがとうごさいますっ! 自分でやりますから大丈夫ですっ!」


ツムギはパニックになりながら、大急ぎでノートや筆箱をかき集めた。早くこの場を離れなければ。正体がバレたら何をされるかわからない。


しかし、焦れば焦るほど手元が狂う。

男子高校生が親切心から、ツムギの手が届かない場所に転がっていったあるものを、ひょいと拾い上げた。


それは、カバンのキーホルダーのふりをして、ぐったりと死んだふりを決めていた黄色い鳥ピピだった。


「……ん?」


ピピを片手で掴み上げた男子高校生の動きが、ピタリと止まった。

彼はそのぬいぐるみを目の高さまで持ち上げ、眉間にシワを寄せてじっと見つめる。


「この鳥……。どこかで、見覚えが……」


ツムギの背中に、嫌な汗がドッと噴き出した。息をすることさえ忘れる。

お願いだから気づかないで、ただの既製品のぬいぐるみだと思って、と心の中で必死に祈る。


しかし、男子高校生の脳裏に、昨日の記憶が鮮烈によみがえる。

廃ビルの地下、自分を理不尽な怪力でぶっ飛ばした、あのフリルドレスの少女たちが抱えていた、口の悪い黄色い珍獣。


「……あ」


男子高校生の手の中で、ピピが気まずそうに、片目を薄く開けた。


「あっ、そうだ。こいつ、昨日の……」


男子高校生の鋭い視線が、ゆっくりと、地面にしゃがみ込んだまま硬直しているツムギへと向けられる。

その瞳には、昨日自分を襲ったドレス姿の少女の面影が、完全に重なっていた。


「……ってことは。お前、昨日の……!!」


「あは、あははは……」


ツムギの顔から、完全に血の気が引いていく。

朝の爽やかな通学路。小鳥のさえずりが響く中で、ツムギとピピの時間だけが、絶望と共に完全に停止した。

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