ep.715 万葉の歌人は知らない……己が意味付けした漢字が未来に残ると
「咲う」「嗤う」「笑う」「哂う」「呵う」
2026年7月21日
●綻ぶ……哂う
中国語の漢字がそのまま日本語にされた「綻ぶ」は、単に衣服の縫い目が解れるという意味だけだった。
「綻び」……他人から見られたら恥ずかしいのもだが、このような痴態を演じて苦笑いをしている女房を見て微笑む姫さま。
「あら?……裾が綻んでいますわよ」
「え? どこでしょうか」
「ほら、白い脚が見えていますわ」
「まぁ恥ずかしい……てヘっ♡」
このような会話が女房の顔を綻ばせたのだろう、だからか、
「顔も綻んでいたら可愛いわよ?」
「ありがとうございます。姫さまも朝顔のように咲っておられたら殿方にモテますのに残念です」
「だって殿方は嫌いです、不潔です……」(それにおちょぼ口だもの……)
「無理やり作り笑いをされるのが悪いのですわ」
「あの鬼母を見ていたら自然とこうなるものです!」
「まぁ……お母様を罵るのは私の前だけにしてくださいね」
「はいはい……」
「ぷっ」x2
他にも「蕾が綻ぶ」があるように、万葉の歌人らは小さな出来事や自然の移り変わりにも目を向けていた。
「綻ぶ」のような漢字の意味が文章によって違うことを「多義語」と言う。
しかし、朝顔のように大きく口を開けて咲く事に対して……口元が綻ぶと言える筈は無い。きっと後書きの事だな?
平安の時代は朝が早い、特に従者の女房は早起きをしていた。朝の支度で忙しくたち振る舞う女房らは、朝顔の蕾なんて開きかけを見るだけだった。日が昇り大きく開いた朝顔を愛でるのは高貴な姫さまだけだろう。
朝の姫さまは身支度で忙しいか、どことなく微笑ましい姿に仕上がりつつある。でも身支度中の会話を拾ってみたら、
「鬼母の朝食には朝顔の種を混ぜておいてよね」
「うふふ……はい姫さま」
「うんと下痢して死ねばいいのよ、そうなれば心置きなく嗤えるものだわ」
「のたうち回る様を観て……姫さまこそ鬼の化身です」
「遙子ですもの」
「……妖狐ですか、笑えます」
○──── ○────○──── ○────○
「かかか……」と呵う父親の声に姫さまはムッとしてしまうのだった。だってこの後は姫さまも同じ部屋に入るのだから。父親さえも嫌う姫さまは異常か!
「お義母様が苦しみだしたのね、愉快だわ!」
女房の心の中では、……まぁ姫さまも同じ朝食なんだと気がつかれませんのね。時期に姫さまも同じ醜態だと思えば哂えます。
女房は日頃の恨みを晴らせてか、ニコリと微笑む様子は幾つもの朝顔の蕾が次々と綻ぶように愛らしい。次々と腹痛を起こしていく皇后、天皇、姫さまらを見ておればそうなるものだろう。……早く死ねばいいのよ、とは、先代皇后の娘が女房なのだから。
お義母様が苦しみだしたのね、愉快だわ!……とは、誰の声なんだ?
何度となく、小学生が朝顔の植木鉢を持って帰宅する姿を見かける事もあった、いよいよクマゼミも鳴く夏休みの始まりだ。
朝顔の名前のゆかりは、早起きをする女房らが目覚める時に「ふぁぁ~♡」と大きく欠伸をしている。このような「朝の顔」を見ていた姫さまが「この子らは……もうはしたない。そうだわ庭に咲く牽牛子を朝顔と名付けますわ」……だとさ。いや?「ふぁぁ~♡ 日が昇っていますわ、もう牽牛子は開いたでしょうか」と言う姫さま。案外と姫さまの目覚めの顔から付けられたのかもしれません。




