第八十話 一か月
依頼をこなす仕事、それが『冒険者』だ。
どうやらこの冒険者というのはこの世界では最もポピュラーな職業の一つであるらしい。
依頼には様々なものがある。例えば、魔物の討伐や、指定された素材や植物の回収、さらに人探しなんてものもある。
俺は今日討伐してきた魔物の素材を持って、冒険者ギルド、つまり冒険者たちに仕事の斡旋や素材を請け負っている施設へと向かった。
あの戦いからから一か月、俺達は冒険者として生計を立てていた。
「ほれ。今日の分だ」
「ああ、ありがとな」
厳つい面をした男の受付から報酬をもらい、俺はその場を離れる。
今日の収穫は銅貨三枚。この世界の貨幣基準は未だによく分からないところがあるが、このくらいなら二、三日は何とか食べていけるくらいの金になるらしい。
俺は背中に背負ったリュックの中の小銭入れに銅貨を入れ、ギルドの扉を開けて外にある大通りへと出た。
馬車が通っていたり、人間以外の種族――異種族というらしい――を見ると改めて俺達は異世界に来たのだと感じる。
そんな風に久々に感傷に浸っていたら、ギルドの外で俺を待っていた人物に背中を突かれてしまった。
「正真君! もう換金は終わったの?」
俺と共に、セントラルの試練を生き残った女子、矢島玲香。
試練の際は制服を着ていたが、今は白いローブ身を包んでいる。
俺も制服はリュックの奥に仕舞いこんで、今は冒険者用のスタンダードな戦闘服を着用している。
「ああ。玲香。今日は、銅貨三枚だった」
いつの間にか、俺達は名前で互いを呼び合うようになっていた。
あの空間から出て一か月、共にこの世界の仕組みを学び、共に戦ってきて……彼女とは以前よりもずっと親しくなった。
右も左も分からなかったこの異世界で、彼女がいてくれたから俺は生きていく事が出来ていた。
「そっか……それじゃあ……」
「ああ。ようやく、次の町へ行く目処が立ったな」
そして俺達は、あるモノの為にこの世界を回っている。
セントラルの眼。この異世界に来た俺達が元の世界に帰るために必要な魔道具。
アイツが俺達に探せとだけ言って消えてしまったら、どこにあるかは分からない。いや、セントラル自身も、正確な場所は分かっていなかった。
だからこうして各地を転々としながら、その魔道具の在りかを探しているのだが、今のところ、めぼしい情報は手に入っていなかった。
「ハア……」
「どうしたの? ため息なんかついて」
「いや、本当に見つかるのかと思ってな。魔道具が」
手がかりを掴めないことに飽き飽きして、弱音を吐いた。
もう三つ目の町になるのに、誰に聞いても「知らない」「聞いた事がない」としか返されない事で、ここ最近俺はもう無理なんじゃないかと思い始めていた。
だがそんな甘えは……玲香が許さなかった。
「ダメだよ正真君。絶対に諦めちゃダメ。私達は絶対に日本に帰るんだから」
「だが、これだけ探しても……」
「まだ三つ目だよ? この世界にいくつの町や村があると思っているの? ……正真君、皆の事を思い出して」
「……ああ、そうだったな」
皆の事。それは、セントラルの試練で死んでいったクラスメート達の事を言っているのだろう。
生きてあの場所を出ることが叶わなかったあいつらの思いを引き摺って進む。俺達はあの時そう決意してあの空間から外に踏み出した。
その時の決意が……再び、湧き上がってきた。
「すまねえ。少し、ネガティブになっていた。……そうだな、次の町で見つかるかもしれねえもんな」
「そうだよ! だから、今からどの町に行くか決めよう? ……あっ! 準備しとかなくちゃ! ごめん正真君! 私先に宿屋に戻ってるね!」
そう言って玲香は笑いながら俺達が泊っている宿屋へと走っていった。
この世界に来てから……いや違う。日本にいた時から、俺は何度も彼女に励まされてきた。
今だってそうだ。見つからないと諦めかけていた俺をもう一度やる気にさせてくれた。試練の時も、彼女の言葉に、勇気に……そして、笑顔に何度も励まされてきた。
(ったく、いつになったら返せるんだか……)
もらったものが多すぎて、そんな事を考えてしまう。
ほんの少しでも彼女の力になりたいと願うが、気付けば俺の方が元気づけられることばっかりだった。
さて、俺も何か買って帰ろう。少し小腹が――
(――ッ!? 何だ!?)
誰かに見らている。そんな気がした。
だが周囲を見渡しても、通行人が談笑しながら歩いているだけで特に俺に注意を向けている様子は無かった。
(……気のせいか? だが……)
あの試練が俺達に与えた影響は大きかった。
まず、魔法が使えるようになった事。試練の中で俺の魔法も成長していき、外に出てからもいくつか新しい魔法を覚えた。
そしてもう一つ与えた影響。それは戦闘での嗅覚。
音や振動、いろいろな要素で敵を感知できるようにはなったが、中でも直感的に気配を察知できる能力が培われた。
その発達した勘が、”誰かが見ている”と告げている気がした。
「動かない……?」
だがいくら警戒しても、何も変化は無かった。
むしろ、通りでキョロキョロしすぎて、俺の方が不審がられている始末だ。
そんな風に周りから見られているのに気付いた俺は、大きく息を吐き、警戒を解いた。
(まあ、少しだけ敏感だったかもな)
きっと気のせいだ。
そう考え直して、俺はその場を後にした。
「ほう……なかなかやるではないか、あの小僧」
だが、建物の陰で俺をじっと見ていた男に……俺は気付かなかった。




