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時空(じくう)の旅人  作者: 抹茶
第一章 始まりの空間
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第六十二話 あなたがいたから(白川加奈子)

(良かった。行ってくれて……)


 あの二人、特に矢島さんはもっと反対するのだと思っていた。

 けれど、氷藤君が強引に連れて行った。

 その事に、少し思う所が無いわけではないけれど……とにかく、これで安心して戦える。


「さ……、一機も向こうに近付かせないわよ」


 右腕に持ったレイピアを払い、上空のドローンを見据える。

 左腕を失ったせいでまだ上手く体のバランスを保てないが、二人に「食い止める」といった以上、弱音を吐くわけにはいかなかった。


「シャイニングスラッシュ!!」


 ドローンの数は少しでも減らす。

 出し惜しみは出来ない。最初から、持ちうる限りの全力で飛ばす。


「アクセル!!」


 広範囲の斬撃でドローンのいくつかを撃墜すると、次は二人を追跡しようとするドローンへと肉体強化の魔法を唱えて迫る。

 私の接近にそのドローン達は気付いたようだけど……もう遅いわね。私の方が、あなた達の何千倍も速い世界を見ているのだから。

 一つ、二つ……一回の跳躍で五機のドローンを切り刻んだ私は、すかさず着地した場所から離れる。案の定、私の着地の瞬間を狙っていたらしく、ドローンは一斉に光線を撃ってきた。


「ッ……!!」


 だけど、さすがにこれだけの数の光線の全ては躱せない。

 肩と右膝。僅かにだが掠り、肉が剥がれる。

 それでも、決してここで止まってはいけない。止まれば、死ぬことは明白なのだから。

 

(ああ……それにしても、いつからかしら)


 ドローンの攻撃を回避し、また一機、レイピアで突き刺して壊す。

 それでも終わりの見えない戦場の中で、私は一つの事を考えていた。

 一体、いつから自分は誰かの事を考えるようになったのか。

 学校に通っていた頃は、他人を気に掛ける事はあっても、それ以上の事、例えばその人の為に私が何か体を張る。そんな事は考えたことも無かった。

 いつだって、自分が正しいと、一人で何でもできると考えていた。

 そのために必要ないことはしなかったし、不要な人は切り捨てていた。それが正しいことだと信じて。

 

「シャイニングスラッシュ!! ッ……! くっ……ああっ……!!」


 今度は、脇腹と右腕。特に脇腹は深く削れ、私が踏みしめる度に引き裂くような痛みが全身を駆け巡り、道路に赤褐色をまき散らす。

 それでも、足を止めるわけにはいかない。私に向かってくる光線は切り裂き、打ち払い、躱す。

 この繰り返し。一体、いつまでやればいいのかと気が遠くなる。


(まったく……自分でも、馬鹿なことだって分かっていたのに……!)


 どうして、二人に行ってくれなんて頼んだのか。

 どうして、私は二人を行かせることを選んだのか。


(……あなたのせいね。高崎君)


 ここに来てからも、私は一人だった。

 誰かと関わって生きてはいた。でも、誰かを拠り所には出来なかった。

 そんな私の世界に、突然、彼が入ってきた。

 高崎正真。誰も救えなかったと嘆いていた彼が、私の世界を変えてしまった。

 彼の事は当然、クラスメートなので知っていたけれど、その人間性はほとんど知らなかった。どこにでもいる、普通の男子。それくらいの認識。

 けれど、あの森の中で唐突に私に話しかけてきて、信頼だの結束だのと青臭い台詞を吐き、私にリーダーをやれなんて宣った彼の印象は、そこで最悪になった。

 腹いせに副リーダーをやれと言った時の彼の驚きっぷりは、思い出すだけでおかしくなる。

 でも、彼と話した時から……私は誰かを……。


「シャイニング……ッ!? ゲホッ……グッ……!」


 呼吸が苦しい。もうまともに、魔法すら唱えられない。

 さっきからどれほど破壊しただろう。まだ空にはたくさんのドローンが飛んでいるけれど、見渡せば同じくらい地面に転がっている。だんだんと壊し方が雑になっているみたい。今破壊したものは、三回突いてようやく叩き落すことが出来た。


(あれ……景色が……)


 気付けば、視界が僅かに赤みを帯びていた。

 いつの間にか頭にも光線が当たっていたらしい。流血が視界を遮っていた。

 急いで目をこすり、正しく敵を捉える。

 しかし、そうやって見えた世界も、心なしかぼやけていた。


「アク……セル」


 再び動き出し、手元のレイピアを振るう。

 けれど、肉体強化の魔法をかけている筈なのに、私の認識と体の動きが一致していないのか、何機かのドローンを壊し損ねてしまった。

 その壊し損ねたドローンから放たれた光線を再び体に受けてしまう。

 そして、それがまずかった。光線の一本が私の左足を正確に打ち抜いてしまった。


「ッ……!? あ…………」


 倒れこんだ私の体は、もはや立ち上がることが出来なくなっていた。

 意識がどんなに命令を飛ばしても、肉体がそれを拒絶していた。

 

(……)


 仰向けになった私の上空に、ドローンが集まってきた。

 光線の一斉照射で、私は消える。手にはレイピアを握っているけれど、もう動きそうにない。

 ああ、これで……


――白川さん。もっと俺達を信じてくれ


「ッ……!!」


 また、あの男か。 

 どうしてあなたは、私が折れそうになった時に限って出てくるのか。

 そうして君は……また私に「生きたい」と思わせてくれるのか。


「シャ……イ……ニング……」


 高崎君。あなたが私にくれたものが、今ようやくわかったわ。


「スラッシュ!!」


 右腕を強引に動かして、レイピアを薙ぎ払い、斬撃を飛ばす。

 一か所に纏まっていたドローンはこの斬撃を躱す事は出来ず、一斉に破壊された。

 しかし、まだドローンは残っている。

 私はそんなドローンを睨み、レイピアを地面に突き立てた。


「く……ああああ!! クロスラインズ!!」


 それが、私の最期の魔法だった。周囲に無数の十字形の斬撃を飛ばす。斬撃が交差する度に衝撃が増幅し、残ったドローンを次々と破壊していく。

その魔法を唱え切ったとき……もう、ドローンの飛んでいる音は聞こえなかった。


「……」


 全部のドローンを破壊した私は、レイピアを握っていた手を放し、ドサリと音を立てて倒れる。

 体は、もう動かない。どんどんと意識が薄れていく。

 ああ、これが……

 

「……いえ、これで……いいの。あなた達が、生きられるのなら……」


 風が私を連れて行くようにやさしく吹いた。

 体が何処かに流れていく感覚がする。それでも、最期に思い浮かべたのは、ここまで戦ってきた、皆の顔だった。


(さよなら……)


 それが何よりも嬉しくて……だから、笑ってお別れを言った。



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