第六十三話 救済と天恵
『《救済》』
【カナリヤ】からその言葉が聞こえてきた直後、バレット・サードで破壊した腕から光が漏れ出し、周囲に拡散していく。
光線は近くにあった建物の悉くを破壊していく。
そしてそれは、俺が立っていたビルも例外ではなかった。
「ッ!? マジかよ!?」
幸い、直撃は避けられたが、光線がビルを貫通したことで足元が急落していく。
俺はバランスを崩しながらも、なんとか崩壊する屋上を駆け、隣の建物へとダイブした。
「痛っ!? くそっ! 何だありゃ!?」
アクション映画よろしく派手にガラスを突き破って屋上から脱出できたが、敵の攻撃は止まらない。
出鱈目に光線を撃ちまくり、街を破壊していく。
味方であるはずのドローンもその光線の巻き添えになっていて、今、数機消し飛ぶのが見えた。
「東悟……!!」
俺は向こうの建物にいた東悟の安否が気にかかった。
東悟の飛び乗った右腕からも、光線は出ていた。そして東悟は至近距離でその光に飲み込まれた。ということは……。
だが、その先を考えるより先に、光線がこの建物を襲い、大きく揺れた。
「!? まずい! この建物から逃げねえと……!!」
俺は下へ降りるための階段を探す。
だが、ようやく見つけた階段があると思しき場所は天井から落ちてきた瓦礫で埋もれてしまっており、進めそうにない。
ならば非常階段をと外を見たが、今の衝撃でその階段もひしゃげてしまっていた。
まずい。これでは、下に降りられない。
飛び降りるのも危険な高さ。かといって、隣の建物に飛び移るには、助走をするためのスペースが無かった。
「ちきしょう!! 一か八かだ!! バレット・サード!!」
俺は床へとバレット・サードを放つ。
放たれた魔法は建物の一階部分まで貫通し、俺の足元にはその弾道によって作られた穴が出来た。
急いでその穴を伝い、一階へと降りる。
建物の揺れは次第に増しており、脱出寸前には天井が降ってきた。
そして俺が外に出たのと同時に、建物は完全に崩れ落ちた。
本当に、ギリギリ。あと一秒遅ければ、俺も巻き込まれて下敷きになっていただろう。
「ハァ、ハァ……! クッソ……最悪だ……!」
だが、それは幸運などではなかった。
脱出した、その先。【カナリヤ】が両手を広げて俺を見ていた。
右腕はもはやくっついているのが不思議なほどに宙ぶらりんになっている。対して、左腕は滅茶苦茶に破壊されていて、パチパチと火花なのか魔法なのか良く分からない光が走っている。
けれど、それだけで終わる敵ではないだろう。今は俺をじっと見て止まっているが、いつあの光線が来るか分からない。
咄嗟に反応して、構える。いつでもバレット・サードを唱えられるように。
緊張と恐怖で汗が止まらない。敵はあまりに巨大。俺を一撃で消し飛ばすあの光線が、怖くてたまらなかった。
しかし、いつまでたっても【カナリヤ】は動く様子を見せなかった。
「な……何だよ? 撃たねえのか? 光線……」
『…………』
おかしい。【カナリヤ】が俺に何もしてこないだと?
嫌な予感がする。光線よりも、もっと恐ろしい何かが進行しているような気がした。
例え両腕が破壊されたとしても、あの敵が俺を前にして何もしないわけがない。
何だ、一体、奴は何を……
「羽?」
すると突然、空から大量に何かが降ってきた。
ゆらゆらと揺れながら落ちていくその物体。よく見ると、鳥の羽のようだった。
「黄色い、羽……? これって……まさか!?」
黄色い羽はゆったりと落ちてきた。それはとても神秘的で、触れたくなるような気品すらあった。
だが、俺の脳内はこの羽に触れてはいけないとけたたましく警報を鳴らしている。
それを証明するように道路に落ちた羽は――触れた部分を消滅させた。
「あの野郎ッ……!!」
急いでその場を離れる。降ってくる羽に触れないように、躱しながら走る。
光線だけじゃない。奴の武器はまだあった。
”消滅させる羽”それが、【カナリヤ】の二つ目の武器。
そして、逃げ回る俺を嘲笑うかのように【カナリヤ】は優雅に羽ばたいた。
『《天恵》』
「な!? ざっけんな、てめえ!?」
ゆったりと羽を動かした【カナリヤ】は風を起こし、羽を俺の方へと吹き飛ばした。
先程まで重力に従って落ちるだけだった羽はその勢いに乗って、俺を消滅せんとする弾丸へと姿を変えた。
「うっおおおお!?」
まずい。羽の数が多すぎる。
陰に隠れても、角を曲がっても羽はその数の多さで遮蔽物を瞬時に消滅させた。
(くそっ!! 一旦離れねえと……)
「高崎君! 大丈夫!?」
「は!?」
「無事でよかった。久木原君は……」
「そんなこと言ってる場合じゃねえ! 走れ、二人共!」
「ちょ、ちょっと高崎君!?」
「その羽には触れるな!! 消滅しちまう!!」
敵から距離を取ろうと走っていると、突然前方から矢島さんと氷藤が出てきた。
一瞬驚いたが、その時間も惜しい。俺は急ぎ二人の手を引いて駆ける。
無視されたことに困惑した様子の二人だったが、後ろから迫ってきた羽が危険なものだということは瞬時に理解してくれたらしく、一緒に走り出した。
「とりあえずあいつの視界から外れねえと駄目だ! 一旦引くぞ!」
「ねえ、高崎君! 久木原君はどうしたの!? 何があったの!?」
「説明している暇はねえ!! 今は走れ!」
俺達三人は数分間走り、民家の中へと姿を隠した。
羽は、もう追ってきていなかった。




