表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時空(じくう)の旅人  作者: 抹茶
第一章 始まりの空間
53/332

第五十二話 価値観

 セントラルは、奇妙なまでに口を開かない。

 壁際で考え事をしているセントラルに俺達は近付き、口を開かせる。


「……それで、何か用かな?」

「話せ。約束だろ、俺達が帰れるかどうかを話すって」

「ああ……そう、だったね」


 気持ちを切り替えて……いや、まだ忘れることは出来ないが、俺達はセントラルを睨む。

 試練の前にこいつが言っていた、約束を果たしてもらうために。

 

 

「言え。グズグズするんじゃねえ」

「結論から言うと……帰せるとも言えるし、帰せないともいえるね。少なくとも、試練をクリアしてすぐに帰す……それは無理だね」

「! お前……」

「慌てないでよ。まだ話は終わっていないんだから」


 曖昧な返事。

 しかし、試練を終えたら帰ることが出来る……そうじゃないことは、今ハッキリとこいつの口から語られた。

 俺達の反応を制止して、セントラルは言葉を続ける。


「今の僕には、もう君達を別世界へ送れる力は無いんだ。だから君達は……帰るためには、別の方法を使うしかない」

「別の方法……何かしら? それ」

「僕の作った『魔道具』。まだ壊されていなければ、それが外の世界のどこかにあるはず。それを使えば、君達は帰ることが出来る」


 セントラルは、その後に『魔道具』について説明した。

 一言で言ってしまえば、魔法の力が込められた道具。対象の道具に魔法の力を埋め込む魔法陣を描き、半永久的にその力を使えるようにした道具の事らしい。

 セントラルが作り出したその魔道具があれば、俺達は元居た世界に戻れるという。


「僕の力が埋め込まれているからね。君達全員を帰すくらいの事は出来ると思うよ」

「どこにあるんですか? その魔道具……」

「分からない。何せ、僕は数百年もこの場所に居るからね。外の情報は入ってこないんだ」

「数百年!? てめえ……どういうことだ!?」

「そんな年には見えないな。本当に言っているのか?」


 数百年。【黒】の言っていた事と繋がった。


「おい、セントラル……【黒】は数百年間、誰とも会っていないと言っていたぞ。お前……ここで数百年も、何をしていたんだ?」


 俺はセントラルに尋ねる。

 この長い長い年月の間、こいつは此処に居た。

 しかも、口ぶりから察するに、外に出ることは出来なかったらしい。ならば何故、こいつはこんな場所に留まっていたのか。


「試練をクリアすれば、外に出られるんだろ? どうしてお前は試練に挑まなかった? お前程の力があれば苦戦なんてしなかっただろ」


 これは本音だった。熊、龍、霧、そしてあの武士。どれも強敵だった。だが、あの時東悟を吹き飛ばしたセントラルの方が、まだ強いと俺は感じていた。

 それくらい、こいつは底知れない力を持っている。


「答えろ。どうしてお前は数百年、何もしていなかった」

「答えなさい。私も知りたいわ。何百年も居れる場所じゃないでしょ」

「…………」

「言わないつもりか?」

「おい! 黙ってねえで何か言え!!」


 全員で詰め寄る。

 こいつへの違和感の正体が、その答えの中にあるかもしれない。

 こいつの目的、感情、背景。その全てがこの質問の中にある気がした。


「……言えないな」

「!? お前……!!」

「僕個人への質問に答える気はないよ。……君達も、興味は無いでしょ? 僕の人生になんて」


 だが、セントラルは答えない。

 こいつは、自分の事は何も話さない。


「……」


 そして、それと同じ男を一人、俺は知っている。

 氷藤。こいつも、今のセントラルの言葉に何かを感じたようだ。じっと目を伏せて、固く口を閉ざしてしまった。

 俺が見ているのに気付いて、氷藤は俺から目を逸らした。


「あなた個人の問題だけでは無いと思うのだけど? この場所がどういう所か……それにも関係すると思うのだけど?」

「てめえ……ここまで来て話さねえつもりか?」


 そんな氷藤に白川さんと東悟は気付いていないらしい。

 セントラルの言葉に反論し、意地でも話させる気だ。


「嫌だね。それだけは話さない。例え君達が試練を全て突破しても……断るね」

「どうして……そんなに話したくないんですか?」

「意味が無いからさ」


 その物言いには妙な確信があった。

 まるで、さも当然という口調で、セントラルは言葉を続けた。


「何かあるのかい? 君達に話して。自分の人生を話して、何か僕に得があるのかい?」

「得とかそういうのじゃなくて、私達は……」

「自分が生きている事にだけ価値があるんだ。誰かに話す必要も、誰かの人生を知る必要も無いと僕は思う。そんな事をしても、何の意味も無いからね」


 無意味。セントラルは俺達の質問をそう切り捨てた。

 

「全て無意味さ。君達も、僕の人生を知った所で何も出来やしない。仮に君達が知りたいことがその中にあったとしても、やはり僕は言わないよ。だって、僕は何も得られないからね」

「他人の人生を知ることも、話すことも意味は無い……そう言いたいのか」

「ああ。だからこそ、生きていることにのみ価値があるんじゃないか。損得、有意味無意味を問わず自分だけが人生を決めることが出来る。そこに他人を入らせる必要なんて無いんだよ。……分かるかな?」


 セントラルの価値観。それが今ハッキリと分かった。

 必要なのは自分だけ。他人の事は、考える必要も無い。

 こいつは、その言葉を自分の中で真理だと捉えていた。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ