第五十三話 苛つき
「そういう訳だからさ、僕の事は話さないよ」
セントラルは、自分の事については話す気は見せなかった。
仕方なく、俺は話を戻す。
「だったら……その魔道具の居場所、心当たりは無いのか?」
「さっきも言ったように、数百年ここに居るんだ。かなり頑丈に創ったはずだから壊れているなんて事は無いと思うんだけど……」
「知らねえってことかよ……!」
「それに……、いや、止めておこう」
その先を言おうとして、セントラルは思い留まったようだった。
「ねえ、セントラル。もう一ついいかしら。さっきあなたはもう私達を別世界へ送る力は無い、と言ったわね? それはどういう事かしら?」
「……聞いた通りだよ」
「私達を呼び出せたのに、送り返す事は出来ないのかしら?」
白川さんが、別の事をセントラルに尋ねた。
何故、セントラルは俺達を帰すことが出来ないのか。
「ああ……。そうだね。今は」
「”今は”か。昔は出来たのか。それとも、一時的に出来なくなっているだけか?」
「……ああ、しつこいなあ」
俺達の追及に我慢が出来なくなったのか、いきなりセントラルは静かに、語気を強めた。
「うるさいなあ……。それ以上、聞くんじゃないよ」
「……どうしたんだよ? 随分とお怒りじゃねえか」
「黙れ。君みたいな人間がしつこく執着するんじゃないよ……! 君達を帰せない。それでいいじゃないか」
「いいわけあるか。理由を……」
聞こうとした瞬間、突然俺の体が後ろへ飛び、壁に叩きつけられた。
吹き飛ばされ、背中に衝撃を受けた俺は一瞬、呼吸が出来なくなった。
「ガハッ……!!」
「正真!」
「高崎君! 大丈夫!?」
「て……めえ……! 何しやがる……!?」
「もういいだろう? 質問には答えたじゃないか。それ以上の事は、もう何も話す必要が無いだろう? それなのにネチネチと……!」
あのセントラルが、苛ついていた。
だが、何故セントラルの機嫌がこれほど悪くなったのかが理解できない。今までように、俺達はただ知りたい事を尋ねていただけだ。それなのに、これほど感情を露にするだろうか?
そして、俺を吹き飛ばしたこの攻撃は、恐らくあいつの魔法だろう。
だが、どういう訳だか俺自身に傷がついていなかった。
俺達の魔法を人に打てば、それ相応に外傷を負うはずなのに。
「ガ……ゲホッ……!!」
「おい!? 正真!?」
そして、この吐き気。吹き飛ばされたからだけじゃない。何かもっと体の深い部分が損傷を負ったような……。
「グ……ガッ……!」
「しっかりして、高崎君!! ほら、背中さすってあげるから……」
「……それじゃあ、僕はこれで失礼するよ」
「な!? 待ちなさい! まだ話が……」
「くどい!!」
大広間に、セントラルの怒鳴るような一言が響いた。
「そんなに知りたければ……明日、最後の試練! それに生き残れたら、話してやる! 君達が知りたい事……全部だ! さあ、これでいいだろう!?」
そう言い残して、セントラルは俺達の前から去っていった。
「……高崎君、大丈夫か?」
「ああ……なんとかな、氷藤……。少し、横になりたいが……」
「正真。無理すんな。あいつの攻撃……俺も食らったからよ」
「ああ、そうだったな……」
確かに以前、セントラルに東悟も吹き飛ばされていたな。
「アイツの魔法……、よくわからねえけど、内部にダメージがあるっていう感じなんだよな……。気持ち悪くて仕方ねえよな。食らっちまうと」
東悟も、俺と同じような感想だったらしい。
外、ではなく中にダメージを与える魔法か……。
「そ、そんな事よりさ。セントラル……試練に明日挑めって言ってなかった……?」
「ええ……そうすれば、私達の知りたいことに答える。そう言ってたわね」
「おい、それじゃあよ……俺達は明日に戦わなくちゃいけねえってことか?」
「休んでる暇はない、という事だね」
「ど、どうしよう!? 明日なんて……」
明日。セントラルが指定した、俺達の最期の試練の日。
今日の戦いの疲れが完全に癒えないであろうこの翌日に、俺達は最後の敵と戦わなければならない。
だが、戦わないと俺達は何も知ることが出来ない。セントラルの目的、外の世界の事、この場所の事、そして……そうしないと、俺達は全員、故郷へと帰れない。
「ゲホッ……! 皆……!」
「お、おい! まだ起き上がるな! 横になってろ!」
「行こう。明日、最後の試練に」
まだ吐き気は治まっていないが、無理やり上体を起こして皆に俺の決意を伝える。
「明日だ。明日やらないと、俺達が戦ってきた意味が無くなってしまう。死んだ皆の……思いが果たせなくなる。それだけは……駄目だ」
「でも高崎君、明日は……」
「ああ……皆疲れているのは分かっている。でも、明日行かないとセントラルは永遠に真実を伝えないだろう。俺達が何の為にここに来て……そして戦ってきたのか。その理由を知る機会を永遠に手放してしまうんだ」
俺達は、まだ何も知らない。
何の為に戦ってきたのか、何故仲間が死んで行かなければならなかったのか、此処が何処か、魔法とは何か、異世界というのは本当か……この場所に来てからの、あらゆる疑問。それに決着をつけなければいけなかった。
「俺は、ただ生き残っただけなんて嫌だ。信頼してくれた皆の為に……死んで行った仲間の為に……俺は知りたいんだ、真実を。それを知って初めて……本当に、次に進める」
セントラルは俺達を帰す魔法は使えないと言った。
つまり、俺達は唯一の帰る手段である魔道具を見つけるしかない。しかし外に広がっているのは見知らぬ異世界だという。
そんな見知らぬ世界へ歩き出すための、道標が必要なんだ。ここに来た理由や、どんな世界が広がっているかとか、そういうものが。
きっとそれは、俺達が魔道具を探し出すのに必要な事だから。
「ったく……疲れているってのに、また戦わなきゃいけねえのかよ」
「ああ。だが皆が反対するなら……」
「馬鹿言え。俺だって知りてえ事が山積みだ。勿論行くにきまってるだろうが」
東悟が、「行く」と言ったのを皮切りに、二人がそれぞれの考えを口にした。
「私も行くよ。私だって、知らずに終わるのは嫌だもん」
「はあ……全く、あなたは……。……いいわ。終わったらセントラルを質問攻めにしてやりましょう」
矢島さんと白川さんが最初に考えを述べた。
そして……
「お前はどうだ? 氷藤」
最後に残った氷藤は、じっと目を閉じて考え、淡々と言った。
「やる。どうせ最後だ」
最後の試練に挑む。そのための決意はこの時固まった。




