第五十一話 戦いを終えて
『見事だ。そなた等は、【カナリヤ】に挑むにふさわしい』
地面の揺れは止まらない。周囲に聳え立つ山々は囂々とした音を立てて谷底へと沈んでいく。
俺達も立っているのがやっとの状況。そんな中で、【黒】はまるで俺達に語り掛けるかのようにその姿を見せた。
「……【カナリヤ】? そういえば、そんな事言ってたね。それが、次の……最後の扉の先に居る敵の名前か?」
『左様。あやつを創りし者は、洒落た名に拘っておった』
「創った……?」
【カナリヤ】。それこそ、最後の敵。
こいつが名乗ったような、単純な色の名前じゃない。カナリヤ色。それは黄色系統の色の一種だ。
そして、さらに気になる言葉をこいつは残した。その言葉に白川さんが突っ込むと、【黒】は説明するように再び口を開いた。
『我等は……古より、賢者達によって作られた存在。この空間を守護するため、あるいは、挑む者を試すための存在。ただの人形に過ぎん』
「賢者? おい、何だそれは!?」
『これ以上は、我は話せぬ。』
地面がまた大きく揺れ、思わずバランスを崩してしまう。
そんな俺達とは対照的に全く体がブレない【黒】は東悟の質問には答えず、さて、と言葉を続けた。
『そして、我が生きている以上、まだ試練は終わっておらん。遅くなったが、再び、構えよ』
「……もう一度やる気か?」
『無論、そうだ。それが我の存在理由だからだ』
胴体に大穴が空いているにも関わらず、敵は再び刀を手に取った。
『決着は、一瞬で済むはず。心してかかれよ』
「ああ……そうだな。一瞬で、一撃で、終わらせよう」
『来い。小僧』
こいつが何故、最後に大技を俺達に撃たなかったのか。それが、今分かった。
こいつは、もうあの技を俺達に当てられないと感じたんだろう。けれど、撃たずに終わっては、俺達に失礼だと考えた。なぜなら、奴は俺達を強敵と認めたから。
だから、苦肉の策。地面に向けて、ここを崩落させん勢いで刀を振りぬいた。
全ては、俺達を倒すという目的の為。こいつの執念が、こいつの矜持が浅尾を谷へと突き落とした。
「ッ……!! バレット・サード!!」
『《激震》!!』
魔法の弾丸と衝撃波のぶつかり合い。大地をさらに激しく揺らすほどの衝撃。
「おお、おおおおおおお!!!」
『むう……うううううん!!!』
俺達は、持てる力の全てを出す。
これこそ、本当に俺の最後の魔法。
「高崎君! 負けないで!」
「正真! やれ!」
「押している。あと少しだ」
「出し切りなさい! そして倒しなさい! 高崎君!」
皆が応援してくれている。そうだ。まだ、仲間がいる。ここまで戦ってくれた皆が。
「う、ああああああ!!!!」
『そうか。これで、もう思い残すことは無いな。……強き戦士たちよ』
互いの全力、全身全霊のぶつかり合い。
それを制したのは――俺だった。
「いっ……けええええええええ!!!!!」
全てを飲み込み、俺の魔法はようやく、敵を貫いた。
「そう……もう、五人しかいないのか……」
気が付くと、セントラルがいる空間へと戻っていた。
周りに居るのは、矢島さん、氷藤、東悟、白川さん。
そしてセントラルは……後ろで俯いていた。
「おかえり」
いつもは笑いながら俺達を馬鹿にしてくるセントラルが、今回はやけに静かだった。
ただその一言を言い終えた後は、ただじっと考え込むように黙っていた。
「野田と、江藤と……浅尾か……」
「ッ……!! すまねえ! 皆! 俺がッ……! 浅尾を……!」
俺は皆に頭を下げることしか出来ない。あの時、俺なら、浅尾の手を……
――パチン!!
そこまで考えていた時。急に、白川さんに頬を叩かれた。
ジンジンと伝わる痛みが、後悔して目を閉じていた俺の目を強引に開かせた。
「……ふざけないでよ。高崎君。あなた、矢島さんを助けた事、忘れたのかしら? ……誰の責任でもないわ。野田君と江藤さんの死も、そう」
「でも、俺の方が近くに居たのに……」
「誰の命でも、救えると思っているのかしら? ……無理よ。無理に決まっている。どんなに頑張っても、あなたは全員の命は救えないわ。思い上がりも甚だしい」
無理。浅尾を救えなかった俺の心に、その言葉が酷く突き刺さる。
俺には、無理。そう考えていたが、白川さんの話はそこで終わっていなかった。
「だから、私達が居るの。……忘れたの? あなたが気付かせてくれたのよ。信頼しろって」
そこまで言われて、ハッとして顔を上げた。気付けば、氷藤も東悟も矢島さんも俺に対して怒るような、それでいて……信頼を預けている、顔をして俺を見ていた。
「自分一人だけって考えてんじゃねえよ。……言っただろ? お前は周りが見えて無えって。少しは俺達に任せてみろよ」
「高崎君……。私たちもね、同じなんだよ。君と同じように、苦しいんだ。ちょっとは分け合おうよ。仲間なんだからさ」
「まあ、別に僕は何も言うつもりはないけど……、いつまでも君の見苦しい姿は見たくないな」
三人共、俺をしっかりと見据えてくれていた。
「……分かったかしら? さあ、顔を上げて。次が最後なのよ。全てが終わってから、皆で一緒に後の事は考えましょう」
ああ、ここに居てくれたのは、本当に仲間だったんだ。
ただそれが、嬉しかった。嬉しくて、感情が溢れるのを止められなかった。
ひとしきり泣き散らかして、皆を見る。
ひどい顔になっているだろう。涙や鼻水でぐしゃぐしゃだ。
それでも、恥ずかしさは無い。俺は、皆と一緒に笑い合う。
「ああ。ありがとう。皆。……本当に、ありがとう」
全ての感情を、今は置き去りにして、ただ前に踏み出した。




