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時空(じくう)の旅人  作者: 抹茶
第一章 始まりの空間
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第五十一話 戦いを終えて

『見事だ。そなた等は、【カナリヤ】に挑むにふさわしい』


 地面の揺れは止まらない。周囲に聳え立つ山々は囂々とした音を立てて谷底へと沈んでいく。

 俺達も立っているのがやっとの状況。そんな中で、【黒】はまるで俺達に語り掛けるかのようにその姿を見せた。


「……【カナリヤ】? そういえば、そんな事言ってたね。それが、次の……最後の扉の先に居る敵の名前か?」

『左様。あやつを創りし者は、洒落た名に拘っておった』

「創った……?」


 【カナリヤ】。それこそ、最後の敵。

 こいつが名乗ったような、単純な色の名前じゃない。カナリヤ色。それは黄色系統の色の一種だ。

 そして、さらに気になる言葉をこいつは残した。その言葉に白川さんが突っ込むと、【黒】は説明するように再び口を開いた。


『我等は……古より、賢者達によって作られた存在。この空間を守護するため、あるいは、挑む者を試すための存在。ただの人形に過ぎん』

「賢者? おい、何だそれは!?」

『これ以上は、我は話せぬ。』


 地面がまた大きく揺れ、思わずバランスを崩してしまう。

 そんな俺達とは対照的に全く体がブレない【黒】は東悟の質問には答えず、さて、と言葉を続けた。


『そして、我が生きている以上、まだ試練は終わっておらん。遅くなったが、再び、構えよ』

「……もう一度やる気か?」

『無論、そうだ。それが我の存在理由だからだ』


 胴体に大穴が空いているにも関わらず、敵は再び刀を手に取った。

 

『決着は、一瞬で済むはず。心してかかれよ』

「ああ……そうだな。一瞬で、一撃で、終わらせよう」

『来い。小僧』


 こいつが何故、最後に大技を俺達に撃たなかったのか。それが、今分かった。

 こいつは、もうあの技を俺達に当てられないと感じたんだろう。けれど、撃たずに終わっては、俺達に失礼だと考えた。なぜなら、奴は俺達を強敵と認めたから。

 だから、苦肉の策。地面に向けて、ここを崩落させん勢いで刀を振りぬいた。

 全ては、俺達を倒すという目的の為。こいつの執念が、こいつの矜持が浅尾を谷へと突き落とした。


「ッ……!! バレット・サード!!」

『《激震》!!』


 魔法の弾丸と衝撃波のぶつかり合い。大地をさらに激しく揺らすほどの衝撃。


「おお、おおおおおおお!!!」

『むう……うううううん!!!』

 

 俺達は、持てる力の全てを出す。

 これこそ、本当に俺の最後の魔法。


「高崎君! 負けないで!」

「正真! やれ!」

「押している。あと少しだ」

「出し切りなさい! そして倒しなさい! 高崎君!」


 皆が応援してくれている。そうだ。まだ、仲間がいる。ここまで戦ってくれた皆が。

 

「う、ああああああ!!!!」

『そうか。これで、もう思い残すことは無いな。……強き戦士たちよ』


 互いの全力、全身全霊のぶつかり合い。

 それを制したのは――俺だった。


「いっ……けええええええええ!!!!!」


 全てを飲み込み、俺の魔法はようやく、敵を貫いた。

















「そう……もう、五人しかいないのか……」


 気が付くと、セントラルがいる空間へと戻っていた。

 周りに居るのは、矢島さん、氷藤、東悟、白川さん。

 そしてセントラルは……後ろで俯いていた。


「おかえり」


 いつもは笑いながら俺達を馬鹿にしてくるセントラルが、今回はやけに静かだった。

 ただその一言を言い終えた後は、ただじっと考え込むように黙っていた。


「野田と、江藤と……浅尾か……」

「ッ……!! すまねえ! 皆! 俺がッ……! 浅尾を……!」


 俺は皆に頭を下げることしか出来ない。あの時、俺なら、浅尾の手を……






――パチン!!






 そこまで考えていた時。急に、白川さんに頬を叩かれた。

 ジンジンと伝わる痛みが、後悔して目を閉じていた俺の目を強引に開かせた。


「……ふざけないでよ。高崎君。あなた、矢島さんを助けた事、忘れたのかしら? ……誰の責任でもないわ。野田君と江藤さんの死も、そう」

「でも、俺の方が近くに居たのに……」

「誰の命でも、救えると思っているのかしら? ……無理よ。無理に決まっている。どんなに頑張っても、あなたは全員の命は救えないわ。思い上がりも甚だしい」


 無理。浅尾を救えなかった俺の心に、その言葉が酷く突き刺さる。

 俺には、無理。そう考えていたが、白川さんの話はそこで終わっていなかった。


「だから、私達が居るの。……忘れたの? あなたが気付かせてくれたのよ。信頼しろって」


 そこまで言われて、ハッとして顔を上げた。気付けば、氷藤も東悟も矢島さんも俺に対して怒るような、それでいて……信頼を預けている、顔をして俺を見ていた。


「自分一人だけって考えてんじゃねえよ。……言っただろ? お前は周りが見えて無えって。少しは俺達に任せてみろよ」

「高崎君……。私たちもね、同じなんだよ。君と同じように、苦しいんだ。ちょっとは分け合おうよ。仲間なんだからさ」

「まあ、別に僕は何も言うつもりはないけど……、いつまでも君の見苦しい姿は見たくないな」


 三人共、俺をしっかりと見据えてくれていた。

 

「……分かったかしら? さあ、顔を上げて。次が最後なのよ。全てが終わってから、皆で一緒に後の事は考えましょう」


 ああ、ここに居てくれたのは、本当に仲間だったんだ。

 ただそれが、嬉しかった。嬉しくて、感情が溢れるのを止められなかった。

 ひとしきり泣き散らかして、皆を見る。

 ひどい顔になっているだろう。涙や鼻水でぐしゃぐしゃだ。

 それでも、恥ずかしさは無い。俺は、皆と一緒に笑い合う。


「ああ。ありがとう。皆。……本当に、ありがとう」


 全ての感情を、今は置き去りにして、ただ前に踏み出した。


 

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