第二十話 新魔法
東悟に遅れて扉を開いて戻ると、大広間で白川さんを中心として話し合いが行われていた。
その中で決定された事は、三つあった。
一つ目は、明日は試練には挑まず、全員心と体を休めること。
二つ目は、今後、絶対に油断しないこと。
そして三つ目は、決定というよりも、俺達自身の願いだった。
――全員、生きて帰ろうということ。
翌日、俺と矢島さんは氷藤に誘われて、青い扉の先の平原を歩いていた。
一緒に歩いている時、俺は横目で氷藤を見る。矢島さんの回復魔法で治療してもらったとはいえ、昨日こいつは背中がえぐられるほどの重傷を負っている。いや、そもそも、魔法が本当に効果があるのかもまだ信じきれない。それなのに、歩いて大丈夫なのだろうか。
矢島さんも、そのことを気にしているようで、氷藤をちらちらと見ている。
「……君達。そんなに気にしなくても大丈夫だよ」
氷藤が、あきれたようにため息を吐く。どうやら、気付かれていたようだ。
「でも氷藤君。まだ痛みとか、治せてないところとか……」
「ありがとう、矢島さん。でも必要ない。元気になったよ」
それだけ言ってスタスタと前を歩いていく氷藤。俺と矢島さんは顔を見合わせ、お互いに肩をすくめた。
もう少し歩いて、氷藤は立ち止まった。
「じゃあ……この辺でいいかな」
「それで? なんで俺達を連れてきたんだ? 氷藤」
「……新しい魔法のためさ」
新しい魔法。氷藤が言ったその言葉に俺と矢島さんは反応する。
「今後、いくつか魔法を使えるようになった方が戦いやすいと思うんだ。だから、君達に協力してほしい」
「私達は、何をすればいいの?」
「矢島さんは、何かあった時のために回復をしてほしい。そして高崎君には……あの二つ目の魔法が使えるようになった時の事を聞きたい」
「……バレット・セカンドの事か?」
「ああ。どうやって君はあの魔法を生み出した?」
俺は青い龍と戦った時の事を振り返る。龍が上空を飛んで攻撃が届かなかった時、長距離飛ぶことのできる弾丸をイメージして魔法を形作った。そのことを氷藤に伝えると、あごに手を当てて、深く考える様子を見せる。
「つまり……想像力、か? 魔法の本質は」
「まだ俺にも分からないが、俺はそうやってバレット・セカンドを編み出した」
氷藤はなるほどと小さく吐くと、魔法を唱え始めた。空中で氷の欠片が生成され、平原の向こうまで飛ばされる。
「僕の魔法は、〈氷魔法〉……。高崎君。君の言う通りなら、氷の破片だけでなく、こういうこともできるかもしれない……!」
氷藤は手を地面に向けて魔法を放つ。すると、氷藤を中心として周囲の草花が一斉に凍り出した。
「うおっ!?」
「すごい……凍った……」
「なるほど……。ありがとう、高崎君。この調子でもう一つか二つ、新しい魔法が生み出せるような気がするよ」
「っておい!? 何処行くんだよ! 氷藤!」
そう言い残して、氷藤は振り返ることなくその場を立ち去った。
「って……勝手な奴だな……なあ? 矢島さん」
「うん……でも、私も新しい魔法は覚えたい。高崎君、少し、練習していい?」
「! お、おお。もちろん」
今度は、矢島さんか。心の中で少しそう考えてしまったが、女子と協力するということで、僅かに俺の心が躍る。
「矢島さんは……回復魔法か?」
「ううん……。皆を見て、私も何か攻撃できればいいなって思ってたから、攻撃できる魔法が欲しいな」
「そうか。なら多分、それをイメージすればできると思う」
矢島さんの手が淡い桃色の光を発する。魔力を込めているようだ。矢島さんは目を閉じて何か考えていたようだったが、しばらくたってようやく目を開けて、俺を見た。
「高崎君。できるかも。行くよ! セイント・バースト!」
矢島さんの手から、いくつかの乳白色の光線が放たれた。それらは彼女の前方に放射状に広がり、空気中を走っていった。新しい魔法を得たことで、矢島さんは飛び跳ねるように喜んでいた。
「やった! やったよ! 高崎君! 私、これで皆の役に立てるよ!」
俺の手を取り、大はしゃぎする矢島さん。そのかわいらしさを見て、俺の心は揺れたが、すぐに抑えて彼女を祝福する。
「ああ。心強いよ。矢島さん」
「うん! よし。私、もっと頑張るね!」
俺と矢島さんは、その後昼まで魔法の練習を続けた。
残念なことに、それ以上新しい魔法は増えなかったが、いくつかのヒントを得ることは出来、俺も矢島さんも満足していた。
俺達は扉を開き、あの空間へと戻ると……セントラルと東悟が、大広間の中央で対峙していた。




