第十九話 火
「火、起こすの上手かったな。お前」
「昔、宿泊研修で習ったからな」
パチパチと音を立てる火を間に挟み、俺達は語り合う。
東悟に褒められると、少し恥ずかしくなる。それを紛らわすように、俺は薪として用意した木の棒を一本、火に向かって投げ入れた。
別に、話がしたかった訳ではない。けれど、今は誰かと一緒に居なければ、落ち着かない気分だった。だから俺の方から東悟を誘い、こうして火を囲んでいる。
「……太田川が、さ」
静かに火を見ているだけだった俺と東悟。それに耐えきれず、遂に俺は抱えていた思いを東悟に打ち明ける。
「最後、あの竜巻に飲まれる前……『生き残ってくれ』って俺に言ったんだ」
「……そうか」
「けど俺は……もう、自信がない。皆と生きたい、誰も死んでほしくないって考えていたけど、今は自分が死にたくないって思ってるんだ。……次は俺かもしれないって考えてしまってるんだ」
そう言った俺の脳裏にクラスメート達の最期の光景がよぎり、走馬灯のように駆け抜ける。一人一人の表情、悲鳴、命を刈り取った音……実に鮮やかに、それぞれの瞬間が映し出されていく。それを思い出すたびに俺は……恐怖で進めなくなる。此処から出る。その為に戦う。その思考に至ることを恐れてしまう。
そして今は、自分が死ぬことを何よりも恐れている。死にたくないから、生きていたいから、此処で足踏みする選択をしてしまいそうになる。
そして東悟は、最後まで黙って俺の話を聞いた後、徐に口を開いた。
「中学生の時、よ……俺がお前を助けてからだったよな。俺らがつるむようになったのは」
一瞬、話が理解できなかった。いきなり、何の話をしているんだ。
だが、東悟はそんな俺などお構いなしに話を進める。
「そん時からお前を見てきて……意外と周りを見ちゃいねえなと思ってたんだ。……昔からな」
東悟は脇に置いてあった枝を火に投げ入れる。火は一瞬、強く燃え上がった。
「お前だけじゃないだろ。そんな事考えてんの。俺だって……死にたくねえ。他の奴らがむざむざ殺されるとこなんて、見たくもねえ。そうだろ?」
手を膝の前で軽く合わせながら、東悟は前かがみに俺の方を見た。
火が空気を歪ませ、東悟の顔は正面からだとよく見えなかった。
「ああ。……だから怖いんだ。次の扉の中に行くのが」
「だな」
「今度は、俺が死んでしまうかも……」
「だが、そうしねえと俺らはここから出られねえ」
俺は背筋を曲げて弱音を吐く。それに反して、東悟は背筋を伸ばし、真っすぐに俺を見据えていた。
「喧嘩は度胸が大事なんだ。ビビってちゃ絶対に勝てねえ。無理だと思っても、勝てないってわかっていても、やらなきゃなんねえんだったら、こっちから殴り込みに行くぐらいじゃねえと、誰も倒せねえ。……お前もそうだったろ?」
「……え?」
「中学ん時……お前結構喧嘩してたよな? 時々ワンパンかまして相手を気絶させた時もあるみたいだしな。……なんで、んなことやってたんだ?」
再び、中学生の話に戻される。東悟はこんな風に会話の変遷が激しくて、時々ついていけないことがある。だが、中学の時に喧嘩をしていた理由……。
「……ただ、自分の道具を隠されただけだ。それが気に入らなくて、一人を殴ったんだ。そうしたら、そいつが仲間引き連れて来るようになったんだ」
「ああ、そうだったな。そんでいよいよヤバいって時に、俺が通りかかったんだったな。ハハッ! あんときお前、ボロボロだったなあ」
「……笑い事じゃねえよ。本気で死ぬかと思ったんだぞ」
「だがお前、言ってたじゃねえか。『俺は、間違ったことはしてない』ってな。馬鹿だねえ。そんな意地はりゃ、そらリンチもされるわな」
だんだんと頭にくる。なんで俺の過去をほじくられなければならないんだ。
「おい、いい加減に……」
「そんぐらいでいいんだよ。お前が戦う理由なんてな」
笑っていた東悟の表情が、急に変わる。東悟は、空を見上げて語り掛けるように言葉を繋いだ。
「気に食わない。それくらいの単純な考えの方がいい。あれこれ悩むのはいつだって出来るんだ。全て終わった後、まとめて済ませちまえばいいんだよ」
「単……純……」
「ま、俺はとりあえず、試練を全部クリアしたらあのセントラルとかいう野郎をぶっ飛ばすつもりだ。それまで死ぬつもりはねえ」
そういうと東悟は立ち上がり、扉を開けてあの空間へと戻っていく。その背中は、俺よりも広く……そして大きかった。
「東悟……俺は、どうすればいい……?」
目の前の火は、俺の心中を表すかのように燻ぶって燃えていた。




