28、罪人強制収容所DのDとは?
ベラは裁判の後すぐに目隠しをされ、そのまま移送車に乗せられました。
手には縄がかけられてるのに、その上目隠しまでされたベラは、とうとう我慢がしきれなくなり、警備隊に文句を言ってしまいました。
「何で目隠しなんてするのよ、外しなさい!‥何も見えないじゃない!」
「‥‥。」
警備隊は、ベラにどれだけ文句を言われても、一切動じる事はありませんでした。彼らは罪人の言う事にいちいち惑わされないように、しっかりと精神的な訓練を受けていたのです。
「‥あんた達、私を無視するの?」
「‥‥。」
ベラは警備隊達に何を言っても無駄だと分かると、諦めたのか大人しくなりました。
車に揺られる事数時間、移送車が目的地に着いた為、ベラの目隠しと手の縄はようやく外されました。
ベラの目の前には暗く鬱蒼とした森が広がっており、背後には廃れた病院のような建物が建っていました。どうやらこの建物が、罪人強制収容所Dのようです。
「‥やだ。まさかこの建物に住めとでも言うの?」
「‥‥。」
「それぐらいは答えてくれたっていいんじゃないの?」
「‥‥41号、黙って中に入れ。」
「‥何よ、その41号って私の事?」
「そうだ。41号、今日からお前にはここに住んでもらう。‥あとの事は、中で看守に教えてもらうように。」
「‥ねぇ、看守って男?」
「‥‥。」
ベラをここまで連れてきた警備隊は、そのままベラの質問に答える事もなく、移送車に乗って王都へと戻って行きました。
「‥‥まぁ、いいわ。まずは看守から誑し込まなきゃ。」
ベラはそう言うと、鼻歌を歌いながら建物の中へ入って行きました。
建物の中に入ると、看守だと名乗る女性がベラを出迎えました。ベラは、部屋や食堂の場所、お風呂の入り方を教わりながら、娯楽室へ案内されました。
娯楽室の扉を開けると、中にはすでに数人の女が入っており、ベラを拍手で歓迎してくれました。
看守はベラが娯楽室に入るとすぐに、外から扉に鍵をかけてさっさと去って行きました。
「ようこそ41号、私達はあんたが来るのをずっと待ってたんだよ。」
この部屋にいる女達のリーダーらしき女が、ベラに慣れ慣れしく話しかけてきました。
ベラは女しか居ないこの空間に、何となく居心地の悪さを感じていました。それに、一般の市民に慣れ慣れしく話しかけられて、とても機嫌を悪くしていました。
「‥‥‥はあ、もう結構よ。くだらない事はやめてちょうだい。‥‥もう自分の部屋に帰らせてもらうわ。」
ベラがそう言って、退室しようと扉の取手を掴んだ途端、二人の女がベラの体を羽交い締めにしたり、足を掴んで拘束してきました。そして、女達のリーダーがベラに向かって言いました。
「‥41号、いえ‥ベラ!私達に見覚えはないかい?」
「‥はぁ?誰よ、あんた達‥。」
「私達は、夫や息子をあんたに誑かされて、散々な目にあった被害者だよ!」
「私の夫は、あんたに沢山の貢ぎ物をしたり、借金の肩代わりをさせられて、領地と家をなくし、慣れない力仕事をしたせいで、すぐに病気で死んでしまったのよ!」
「私の息子は、あんたに散々貢いだ挙げ句に捨てられて、そのショックで自殺したのよ!」
「私が侍女だった頃に心からお慕いしてたラナウェル伯爵は、あんたが毎晩ワインに入れる怪しい薬のせいで亡くなったのよ!あんたは、その事を知った私を邪魔に思ったのか、色々な罪を擦りつけて、私を犯罪者にしたじゃない!忘れたなんて言わせないわ!」
何人かの女達が口々にベラへの憎しみを吐露する中、ベラは欠伸をしていました。
女達は訳の分からない事を叫んでくるし、長いこと車に揺られていたせいで、ベラは眠くなっていたのです。
そんなベラの様子に、女達のリーダーは苛立ちを隠せませんでした。ベラを利き足でひと蹴りした後、話を続けました。
「‥‥ここにいる女達は皆んな、あんたへの恨みを持った人間なんだって事が分かったかい?‥それに、何故私達が今ここにいると思う?」
「‥‥。」
「あんたが死ぬ前に復讐をする権利を、国に正式に認められたからなのよ!」
「‥はぁ、何それ?」
「この国ではね、被害者が個人的に復讐をする権利が認められているの。‥それが、この罪人強制収容所Dなの。」
「‥‥何で私があんた達ごときに復讐されなきゃいけないのよ!‥ちょっと!看守ー!助けに来なさいよー!!」
ベラはさすがに身の危険を感じたのか、部屋の外に向かって叫んで助けを求めました。
「‥無駄よ、ベラ。今から私達が沢山痛めつけてあげる。」
ベラはようやく自分の置かれた状況を理解しました。
ベラは女達から逃げようと思い、必死に扉の取手を回しますが、外から鍵がかけられている為、扉はびくともしませんでした。
「いやぁー!やだー!出して、ここから出して!!」
ベラは、それでも必死で扉を叩いたり、体当たりをしていました。
そんなベラを嘲笑うかのように、女達はベラとの距離を詰めていき、じわじわと扉に追いつめていきました。
扉を背に、完全に逃げ場を失ったベラは、そのまま気絶してしまいました。
「フフフ、大丈夫よ。すぐに殺したりしないから。‥‥だって私達の気の済むまで、あんたを痛めつけてやりたいじゃない?ねぇ、皆んな。」
「ええ、復讐をじっくりと楽しませてもらいましょうよ。」
アッハハハ、アッハハ!
気絶したベラが翌朝目覚めると同時に、早速女達の陰湿な虐めと暴力による復讐が始まりました。
耐えきれなくなったベラは、何度も外へ出て逃げようとしました。
ですが、運良く建物の外に出られても‥王都から目隠しをしたまま車でぐるぐる回られたせいで、この建物の位置が全く分からないベラは、どこに行けばいいのか分からず途方に暮れました。
おまけに、建物のまわりの森の中には不気味な怪物がいるのです。いつも舌舐めずりをして、ベラを見つめてくる食肉植物が‥‥。
ベラはそれでも勇気を出して、森を抜けて逃げる決意をしました。
ベラにとっては、得体の知れない怪物よりも、人間の女達の方がよっぽど怖かったのです。
ベラは森の中を無我夢中で走りました。
走り回るベラを、食肉植物が楽しそうに走って追いかけてきます。
ベラは恐怖のあまり、足がもつれてうまく走れません。
食肉植物は、そんなベラを簡単に追い詰めると、大きな口を開けて一気に食べてしまいました。
「‥‥うぅ‥まずい!‥‥でも、リリアの仇がうてたぞー!」
食肉植物のチッチは喜びの雄叫びを上げながら、リリアの待つフェンネル侯爵領の森へと帰って行きました。
‥‥ベラが食肉植物のチッチに食べられた夜、復讐を遂げる為に集まった女達は、ワインを掲げて乾杯をしていました。
「‥あの食肉植物の妖精も、ベラに復讐を果たしたようね。昼間に彼の喜びの雄叫びが聞こえてきたわ。」
「フフフ、これでやっと私達も復讐から解放されるのね。」
「これからは皆んな、頑張って幸せになりましょうね。」
「‥ところで、この罪人強制収容所DのDって何だったの?」
「Dはね、DEATH(死)の頭文字のDよ。」
女達はその後も、ワインを思う存分に味わい、豪華な食事を楽しみ、お祝いの宴を朝まで続けたのでした。




