29、リリアの結婚式の招待状
ベラとモルガンの裁判後しばらくして、リリアの葬儀がフェンネル侯爵領の教会で行われました。
教会の神父は、リリアが亡くなったとされた日に、リリアの両親から真実を打ち明けられていました。それでも‥
「人間としてのリリアさんが世間的に亡くなった事にする為には、葬儀が必要でしょう。‥実際に彼女はもう人間ではなくなったのですから、葬儀を行ったとしても、神への冒涜にはなりません。」
このように仰ってくれ、快く葬儀を引き受けてくれたのでした。
葬儀といっても、すぐに土葬にするようなリリアの遺体がない為、教会での鎮魂ミサだけが親戚や親しい者のみによって行われました。‥そこにはキュリオス公爵家の執事の姿もありました。
この執事も、リリアの両親からリリアの真実を打ち明けられた一人でした。彼はリリアの無事を心から喜び、この葬儀にも快く参列してくれたのでした。
ミサの後、執事も呼ばれてリリアの実家での会食が行われました。
リリアとテオの両親に混じり、自分もテーブルにつく事を頑なに拒否していた執事でしたが、リリアの為だから‥‥と皆んなに言われた為、恐縮しながらも席についたのでした。
そんな雰囲気で始まった会食ですが、話題はもっぱらテオの事でした。
最初は申し訳なさそうに席についていた執事も、お酒が進むにつれて饒舌になり、今ではテオへの愚痴が止まらなくなっていました。
「‥まったくご主人様は、女の人を見る目がない!あんな悪女に騙されて、挙句に借金まで背負わされてしまうんですから‥。屋敷を預かるこっちの身にもなってくれって思いますよ、本当に‥。」
「‥それは、済まないね。私共の教育が足りなかったようだ。」
テオの両親が本当に申し訳なさそうに謝罪すると、執事はそれを制して更に話を続けました。
「‥今、お屋敷が大変な事になっているんです。ベラの賭博場の借金は、ご主人様が既に払っていた為解決済みなのですが、ベラに騙されたという男達の家族が、毎日苦情を言いに押しかけ来るんです。時には、自分の旦那がベラに貢いだ分のお金を返せと‥‥。
全く‥自分の旦那が公爵夫人と不貞を働いて公爵様を侮辱したというのに、盗人猛々しいというか、何と言うか‥。そもそもご主人様がもっとしっかりしてくれていたら‥‥。」
執事はそれだけ言い終わると、急に静かになり、椅子の上で船を漕ぎ始めました。
フェンネル侯爵は、屋敷の者達に執事を客室へ連れて行って寝かせてあげるように言いました。
執事が退室した後の食卓は、なんとも言えない暗い雰囲気になっていました。そんな中、真っ先に口を開いたのはリリアの母、フェンネル侯爵夫人でした。
「あっ、そういえば‥リリアのお葬式の後で恐縮なのですけど、リリアと妖精王が、親しい者達だけを招いて近々結婚式を挙げるそうです。今朝、薔薇の妖精ディーラが教えてくれました。」
「あら、素敵!‥でも私にはきっと招待状は届かないわね。だって、部外者ですもの‥。」
公爵夫人が残念そうにそう言った時‥‥
コンコン、
誰かが窓を叩く音がしました。皆んなが振り向くと、薔薇の蔓が窓をノックしていました。
侍女が慣れた様子で窓を開けると、薔薇の蔓が侍女に何通かの手紙を渡しました。侍女は、薔薇の蔓に一礼してから窓を閉めて、それをフェンネル侯爵に見せました。侯爵は自分宛の手紙を一通とると、早速開いてみました。
「‥あ、噂をすれば‥だな。リリア達の結婚式の招待状が届いたようだ。」
侯爵の指示で、侍女から侯爵夫人と公爵夫妻にも手紙が手渡されました。勿論全てリリアからの結婚式の招待状でした。
『次の満月の夜に私達の結婚式を行います。お迎えに伺いますので、是非ご参加下さい。宜しくお願いします。 リリア』
一方その頃お城では、王様と王妃様がお城の庭で優雅にお茶をしていました。
王妃様が大きくなったお腹をさすりながら、何気なく庭を見渡していましたら、庭にある大きなトピアリーに、不思議な影を見つけました。
王妃様がトピアリーをじっと見てますと、大きな葉をつけた大根のような植物が、トピアリーからトピアリーへと移動しては隠れて、少しずつ王妃様のところへ近づいてきていました。
王妃様に見つめられながら、その大根のような植物はついに王妃様のもとへと辿りつきました。
王様と王妃様は、妖精が大好きなので、その植物がマンドラゴラの妖精だとすぐに分かりました。そして、間近で妖精を見られた事に大喜びしていました。
そんなお二人とは対照的に、従者や侍女、護衛の方達は、その怪しげな植物の事をかなり警戒していました。
そんな異様な雰囲気の中、その怪しげな植物は王妃様の前に堂々と立ち、手に持った二通の手紙をバタバタ振りながら、受け取ってくれと一生懸命にアピールしました。
侍女の一人が勇気を出して手を伸ばし、その手紙を受け取りました。すると‥
「キュキュッ。」
その植物は、可愛い声で鳴いてカーテシーをしました。
「かっかわいい!」
手紙を受け取った侍女は、マンドラゴラの妖精の見た目の不気味さとは違う、可愛い鳴き声や愛らしい仕草にもうメロメロになっていました。
このマンドラゴラの妖精ゴラちゃんは、この後侍女達に頭の葉を撫でて貰ったり、おやつをこっそり葉の中に忍ばせて貰ったりと、大人気でした。
王様夫妻は、そんなゴラちゃんの様子を微笑ましく眺めながら、受け取った手紙を開きました。
「おお、いよいよ結婚式を挙げるのか。」
「ええ、そうみたい。私も既に妊娠安定期に入ったから大丈夫だとは思うけど、行っても良いかどうか、一応医師にも相談してみますわね。」
王様夫妻のもとへ届いた手紙も、リリアからの結婚式の招待状だったのです。
『次の満月の夜に私達の結婚式を行います。お迎えに伺いますので、是非ご参加下さい。宜しくお願いします。 リリア』




