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酵母パンとセアラの悩み

「国主様、この液体を入れれば本当にパンが柔らかくなるのですか?」

「ふふん。その通りよ、きっとビックリするから」


 セアラは食事係の住民達と一緒にパン作りをしていた。

 実は錬金術では酵母液も創れるのだ。材料は水と果実だけで創れる。今回は林檎を使った。

 どうやらこの世界の人々は「酵母菌」の存在自体知らないようだった。

 パンと言えば硬いものと思っているのだ。


 セアラも酵母菌の作り方などぼんやりとしたことは知っている。新鮮な野菜や果物と水を瓶に詰め、何日か経つと出来るということは。

 ただし、詳しい温度設定や分量だとか出来るまでに何日かかるかなどはわからない。

 だからこそ、錬金術でパパッと創れるのは有難かった。


 ただ、問題は酵母液をどのくらい小麦粉に混ぜるかだ。こればっかりはパンに違う分量の酵母液をそれぞれ入れて実験してみるしかない。

 生地を捏ねるのは意外に楽しい。セアラ自身戦闘でステータスが上がっているおかげか大変さを感じなかった。


 ドゴンには大急ぎで大きな石窯をいくつか造ってもらった。

 パンが食べられるようになることが嬉しいらしく張り切って仕事を請け負ってくれた。

 石窯を造るのは簡単だったようであっという間に出来上がった。


 セアラと住民で手分けして作ったパン全てを石窯に入れて、パンが焼き上がるのを待つ。

 パンの焼ける甘くていい匂いがしてきた。

 時々取り出しながら様子を見る。

 そしてパンが中まで焼きあがったのを確認して石窯から取り出し、やけどをしない様に気をつける。

 

「みんな味見してみようか、焼きあがったパンを少しちぎって食べてみて。そしてどれが一番おいしいか教えて」


 セアラは見本を見せるように1番乗りで食べてみる。

 焼けたばかりなのであつあつだ。

 1つ目に食べたのは失敗作だった。全然パンが柔らかくなっていない。

 内心がっかりしながら次のパンに手を伸ばす。

 これもだめだ。次だ次。

 そうやって次々と味見していく。気が付くと試していない配分のパンはあと3種類しか残っていなかった。


(まさか、全部失敗作とかないよね? こんなに作ったのに。やっぱりそうそう簡単に適した分量を当てるのは素人には難しいのかなあ。こんなことなら、某料理サイトとかもっと見とけばよかったな)


 諦め気分がセアラの心に漂い始めた時、


「えっ! パンが柔らかい! どうして!?」


 手伝ってくれていた住民の1人から驚きの声が上がった。


「ほんと!? どれ食べたの?」


 セアラは弾んだ声で問いかける。

 そうして住民が指さしたパンはセアラがまだ食べていないパンの1つであった。

 セアラは早速手を伸ばす。


「やった! 成功だ! コレコレこの柔らかさだよ、求めていたのは! ほらみんなも食べてみて!」


 セアラの声に促され、皆が次々とそのパンに手を伸ばす。


「うそ~、なんでこんなに柔らかいの?」

「パンが柔らかくなるなんて! ふわふわで、なんて美味しいの!」

「これは大革命だよ、国主様! パンと言う次元を超えた別の何かだよ!」


 食べた住民達は驚きの声を上げる。

 中でも大絶賛しているのはバードであった。

 

 試食品のパンは大好評であっという間に無くなった。

 成功した分量で酵母入りのパンを次の食事から作ってくれることに決まった。


 エイハブやエドガーからはお金も巻き上げたし、タダでアクアポリスにはない色々な物を貰っている。無理やりにだが。

 不快な思いはしたが、結果的には得をしたとも言えるだろう。

 セアラはこれからのことを考える。

 

 まずは世界樹のレベルを4に上げるのを優先しよう。

 それには5つの達成すべき条件がある。


 1 錬金術を使って100種類以上のアイテムを創る。

 2 国の人口が500人以上である

 3 施設や店を国に3つ造る

 4 新しくスキルを覚えた住民が5人以上いる

 5 国主の職業レベルが20以上である


 その中で2と5は既にクリアしている。

 1も直ぐに達成できるだろう。

 3の条件についてもドワーフに造るのを頼めばいい。個人的にもセアラが色々頼んでいるので忙しいだろうがそこは諦めてもらおう。

 なにをまず造ってもらおうか。公衆浴場は決定として、学校を造るのはまだ早いし、無難に武器屋かな。

 食料調達班――――――肉狩り班とも言えるが、彼の武器を作ってもらいたい。


 正直彼らが使っている武器は頑丈でもなく、質もよくない。

 彼らの持っている武器に錬金術を使って属性などの付加効果をつけたいが、それをやってしまうと武器が耐え切れなくて壊れてしまう。


 世界樹がレベル3になった時に与えられた500ポイントはまだ手を付けていない。その内の50ポイントを使って薬草園を造ることに決める。

 残り450ポイント。セアラとしても何に使うのがいいのか迷っていた。

 ゲームでは貰ったポイントは即座に全て使っていたが、現実となると貴重なポイントだけに少しは残しておいた方がいいのではと迷いが出る。

 

(アイテム数を増やすためには採掘所のレベル上げは必須だよね。鍛冶にも必要だし。レベル2に上げる為に必要なポイントは200ポイント。確かとれるのは銀、水晶、蛍石、硝石、鉛。そして光と闇以外の属性の魔石が取れるようになるんだよね。銀と聖水を使って武器を作るとアンデッドやゴーストなどにはよく効くんだよね)


 採掘所のレベルが上がれば当然とれる素材の品質もレベル1の時よりいいものが取れる。

 

(薬草園を造るのと、採掘所をレベル2に上げるのは決まりとして。残りポイントは200ポイントか。どうしようかな、薬草園も残りの200ポイント使ってレベル2に一気に上げるべき? それとも住民のスキル取得に使うべき?」


 セアラは悩んでいた。

 4の条件である、「新しくスキルを覚えた住民が5人以上」というのが案外難しい。

 ポイントを使えばすぐなのだが、問題は誰に使うかである。

 セアラに忠誠心をもっていてセアラ自身この人は信頼できる、何かあっても裏切らないだろうと確信した者は何人かいるが、その者にスキルを与えてしまうと、他の住民から贔屓とみなされないだろうか、それが不安である。

 ただでさえ色んな種族の者達がいるのだ。騒乱の種となる可能性を考えると実行に移すのに迷ってしまう。


 実際住民となると、世界樹の恩恵なのか新しいスキルの取得をしやすくなるし、スキルレベルの上りも早くなる。特に元々スキルを持っている者は才能が有るので、多数のスキルを覚える可能性がある。

 しかし、今のところ住民に新しくスキルを得たものはいない。

 まだ1ヶ月ほどしか経っていないのだから仕方ないとも言える。

 誰がいつ何のスキルを得るかは、さすがにセアラにも予想は出来ない。


 早く世界樹のレベルを上げたいセアラとしては、いつ新しいスキルを得るかわからない状況というのはストレスでもあった。

 ポイントを使うメリットと起こりえるかもしれないデメリットを考えると迷う。


(とりあえず、可能性の高いもともとのスキル持ちに期待するしかないか。もう少し様子を見てそれでも新しいスキルを得た住人が1人もいなかった時にまた考えよう。とりあえず、残りの200ポイントは保留にしよう)


 

 3の条件の「施設や店を国に3つ造る」を満たすために公衆浴場と武器屋、そして宿屋を造ることにした。

 実はこの宿屋を立てると、住民登録しなくても結界の中に入れるのだ。宿屋の規模によってもちろん人数は制限されるが。

 普通は他国の住民は自国以外の国に入れないが、宿屋があると他国の住民もアクアポリスに入れるようになる。

 ゲームの中では交易商人や旅人などが宿屋に泊まっていた。訪れた国を気に入れば、移住希望者になったりしていた。


 ドランに説明してドワーフ達にこの3つの建物を造るように伝えてもらう。

 ドワーフは採掘所のレベルを上げたことで新しく採れるものが増えたことに大喜びし士気が上がっているおかげで、張り切って仕事を引き受けてくれた。


 ドランも例外ではなく瞳が輝き、興奮していた。

 武器屋を造ることも嬉しかったようだ。

 俺が店主になって武器を作ると張り切っていた。

 

 セアラとしてはドランには個人的に作って欲しいものが山ほどあるので、一応釘を刺しておいた。

 時々だったら認めるということで話がついた。

 喜んでいたところに水を差して可哀そうだと思ったが、諦めてもらおう。

 ある程度国が発展したら、ドランにも暇が出来て武器屋の店主になることも可能だろう。

 心は少し痛むがその時まで待ってもらおうとセアラは思った。


 そして薬草園に喜んだのはエルフである。

 作物と同じようにエルフに任せることにした。彼らは喜んで引き受けてくれた。

 訊くとエルフ達の中には薬草から簡単な薬を作れる者がいるようで、セアラにもしよければ薬草園に生えている薬草を少し使わせて欲しいと願い出た。


 セアラはもちろん快く了承した。鑑定でエルフを見た結果、調合などのスキルは持っていなかったが、もしかして薬を作ることによって新しいスキルを得るのではないかと期待した。

 そうなれば、セアラとしても万々歳である。

 



 ちなみに酵母入りのふわふわパンは住民に大好評だった。

 皆が驚き、パンに次々と手を伸ばした結果すぐに無くなった。もっと食べたかったとしょんぼりとする子供もいたが、これからはいつでも食べられると言うとすぐに機嫌を直した。

 幸せそうな表情で笑う住民にセアラも嬉しくなる。

 もっと美味しいものいっぱい食べさせてあげたいなとセアラは思った。

 

 



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