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一角牛とリザードマン

「ギーオ、あそこを見ろ、一角牛だ! 運がいいぞ、集団でいるなんて」


 いつものように狩りの為に森にやって来たギーオを含めたリザードマン達は、マドラスの声に喜んだ。

 セアラから一角牛を見つけたら捕まえて欲しいと言われていたが、なかなか発見できなくて焦っていたのだ。

 なんとしてもセアラの願いを叶えたいと思っていたリザードマン達にとっては朗報だった。

 

 あとは、逃がさない様に気をつけなければ、ギーオは足音を立てないようにゆっくりと標的に近づく。

 ギーオの手には5センチほどの白い玉が握られていた。

 その球はセアラから一角牛を捕まえるのに使って欲しいと言われ渡されたものだ。

 この白い玉を食べると催眠状態に陥り、簡単に言うことをきくようになるというのだ。

 『桃太郎団子』、それがこの白い玉のアイテム名である。

 一角牛がこれを食べるのかと言うことが懸念されるが、なんでも生物の本能に訴えかけるのでどうしても食べたくなるから心配ないと説明されている。

 国主様の言うことに間違いがあるわけがない、ギーオは固く信じている。

『桃太郎団子』を使うときは魔力を込めることを忘れないようにと言われている。

 注意事項として美味しそうに思えても絶対に食べないようにとも。

 

「よし、今から国主様から頂いた『桃太郎団子』を使うことにする、皆の者気配を消したまま動くなよ」


 ギーオは『桃太郎団子』に魔力を込めゆっくりと一角牛の群れに向けて転がす。

 近づいてくる小さな物体が立てる物音に気付いたのか、一角牛達が警戒するように顔を上げ周囲に異常がないか、黒い瞳で確認していた。

 ギーオたちは、木々に身を潜めじっと動かない。

 やがて、危険はないと悟ったのかまた地面に生えている草を食べ始めた。

 ギーオは目を凝らし、『桃太郎団子』の転がる行方に神経を傾けている。


 一番端っこにいた一角牛は顔を上げたまま、まるで何かを探すように頭部を動かし、やがてお目当ての物を見つけたのか、転がる『桃太郎団子』に近づきパクリと食べた。

 ギーオは「よし」と心の中で喜びながらも、声は出さない。

 食べた一角牛に『桃太郎団子』が効いているのかわからなかったが、比べてみると他の一角牛達が草を食べているのに、1匹だけじっと動かないままなので催眠状態にかかっているのではないかと思えた。


(国主様は出来るだけ多く捕まえて欲しいと言っていた。『桃太郎団子」はまだまだ残っている。絶好の機会だ、すべて使おう。それにしても国主様が食べないようにと念を押した意味がわかった。本当にいい匂いがする、注意されていなければうっかり食べていたかもしれない)


 『桃太郎団子』は魔力を込めたとたんに、なんとも食欲をそそる匂いを放つ。

 その効果はあらゆる種族に効果を及ぼす。

 匂いの影響力は強いがそれが及ぼす範囲は意外と狭く3メートル程だ。

 警戒心の強い一角牛は近づくと逃げてしまうので離れた場所から上手くアイテムが効果を発揮する範囲に転がす必要があった為、コントロールと集中力が必要だった。

 

 ギーオは国主であるセアラの喜ぶ顔を思い浮かべ、桃太郎団子に魔力を込める。

 そうして先ほどと同じように慎重に一角牛の元へと転がした。

 

 


 そうしてギーオは20頭の一角牛を手に入れることに成功した。

 一角牛はアイテムの効果で言葉を理解しているかのようにギーオの命令をよく聞いた。

 魔物に襲われないために、魔除け液を一角牛にも振り掛けている。

 ギーオ達は前方後方左右で一角牛達を挟んで歩いている。

 アクアポリスへと戻るギーオ達の足取りは軽い。

 やっと国主様の期待に応えることが出来たとリザードマン達の顔にも笑顔が浮かぶ。


 セアラに頼りにされているドワーフのドゴンや護衛達にギーオは内心で対抗心を燃やしていた。

 もっと役に立ちたいと日々願っていた。

 それはギーオに限ったことではなく、アクアポリスに住む亜人全員が考えていることである。

 どうやったらもっと国主様の役に立てるのかと夜な夜な会合を開いている。

 そこでは誰が国主様の役に立ったか言い争ったり、セアラが何気なくふとこぼした言葉を叶える為にどうしたらいいのかなど皆で知恵を振り絞ったり、会合は必ずセアラへの賛美の言葉で締めくくられる。


 セアラが知れば顔を真っ赤にして会合禁止令が出るだろう。セアラにとっては不幸なことに、住民にとっては幸運なことに、セアラがこの会合の内容を知ることはない。





「だけど、こんなにあっさり一角牛を捕まえられるアイテムを創ることが出来るなんて国主様はやはりすごいお方だ」


「ああ、それにお優しい。我らが危ない目に合わない様に貴重なアイテムを惜しげもなく下さる。しかも使い方も国主様が直々に教えて下さるし。我らは恐ろしいほど恵まれている」


「そうだよなあ。こんなに住民のことを考えてくれる国主様なんか他にはいない。アクアポリスに住民として迎え入れてくれて、こんなにいい待遇を受けているなんて今でも夢を見ているのではないかと時々不安になるくらいだ」


「わかるぜ、その気持ちは。魔物に怯えることもなく寝むれ、食料の心配もない。幸せすぎて死んでいった仲間たちに申し訳なく感じるよ」


 最後の言葉を皮切りにしんみりとした空気がリザードマン達の間に流れる。

 ギーオの頭にも死んでいった仲間の顔が脳裏に次々と浮かんだ。

 リザードマンは種族的には強い。

 だが、夜が来ても安心して眠れない状態は体力を削り、戦闘力も落ちる。

 少しでも多くの同胞の命を守るためにあえて囮となった仲間達。

 特に怪我を負った者は進んでその役目を買って出た。

 血の臭いが魔物を惹きつけるからと言って。


「確かに多くの同胞達の命が流れた。だが、彼らは皆誇り高く仲間を守るために笑って死んでいった。生き延びた仲間たちが安住の地を得て幸せに暮らすことを願い夢見て。我らの今の状況は奇跡ともいえるだろう。だからこそ、大切にしなくちゃいけない。申し訳なく感じるのではなく胸を張れ! お前たちのおかげで国主様と出会え、我らはこんなにも幸せだと!」


 ギーオは罪悪感を感じ、感傷的になっている仲間の気持ちを吹き飛ばすように激を飛ばす。


「ああ、その通りだ! ギーオの言うようにしみったれてたら死んだ仲間たちにしばかれるぜ」

「そうだな。あいつらのおかげで我らは国主様に出会えたんだ、胸を張らないとな」


 ギーオはその様子を見てほっと息を吐いた。

 今の状況はどの種族にとっても降って湧いた奇跡のような状態だ。

 住民達はセアラが大好きで崇拝し、忠誠心もある。

 だけど、今の状況が幸せすぎて死んでいった仲間たちに罪悪感を持っている者も多く存在する。

 

 セアラ抜きの族長会議で、以前にギーオを含めた各種族の族長はバードより警告を受けた。

 バード曰く、生活が安定しだすとアクアポリスにたどり着く前に死んでいった同族に対して罪悪感や申し訳なさを感じるようになる者達が出てくるだろう。

 そして彼らはやがて、もっと早くに国主様が住民募集をしていれば死んでいった仲間たちは助かったのではないか、と考えるようになり理不尽な不満を持つものが出てくる可能性があると。

 

 ギーオはその話を聞いた時、そのような恩知らずな不届きものが現われるはずがないと主張した。

 ギーオに同調したのは犬耳族の族長のマグだけである。

 エルフの族長であるアレシアはバードの言葉を真っ先に肯定した。

 その他の種族の族長はバードの言葉を聞いて考え込んでいるようだった。

 

 バードは言った。

 

「死んだ同胞に対し悼む気持ちを否定する気はない。罪悪感を持つのもいい。だがその気持ちを国主様に向けさせるな。今の状況をもたらしてくれた国主様を逆恨みする輩は許さない」


 バードは殺気を放ち、族長ひとりひとりを睨みつけた。

 ただでさえ恐れられている竜人族だ。

 族長の中には身体が恐怖に宛てられ震えている者も多い。

 

「だからさ、そうなる前に気をつけてよ」

 バードは殺気を解き、最後にそう付け加えた。


 もしも国主様にバードが懸念していたような感情を向けたのなら、バードは死よりもつらい目にその者を遭わすのだろうとギーオは確信している。

 もちろんギーオとてそんな者の存在を許すつもりはない。

 仲間を信じているし、そんな逆恨みのような愚かな感情を抱く者も現れるはずはないと思っている。

 

 しかし、バードの言った通り生活が安定してきた頃に罪悪感を持つ者が出始めた。

 だからこそ、ギーオは仲間の感情変化に細心の注意を払っている。

 バードが警戒するような愚かな者が出ないようにと。

 






 一角牛を連れて国へと戻って来たギーオ達はセアラを大いに喜ばすことが出来た。

 セアラは満面の笑みで何度もリザードマン達に感謝の言葉を告げた。

 温かい気持ちと誇らしい気持ちが心に生まれる。

 これからも国主様の役に立って見せる、とギーオの心に誓った。

 

 


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