〈満月 二度目の十五夜 戌の刻・ 洋子宅〉
〈満月 二度目の十五夜 戌の刻・ 洋子宅〉
「お義母さん、お茶が入りました。今日はデザートにイチジクのケーキを焼いてみたんですよ」
「あら洋子さん、ありがとう。どれどれ、うーん、これはとっても美味しいわ。貴女は本当にお料理上手ねえ。私の奥さんにしたいぐらいだわ」
「まあお義母さんたら」
「おほほほ」
「うふふふふ」
「なんだ、これはいったいどうしたというんだ 」
「あら武史」
「武史さん?」
洋子が振り向くと、そこにはリビングのドアを開けた武史が目を丸くして驚いていた。
「武史、ほら見て。私はこんなに元気になったのよ」
昔のように、きちんと身支度をした母親が車椅子に背筋を伸ばして座っているのを見て武史はまるで信じられないものを見たかのように呆然としていた。
「今週からリハビリを始めたの。頑張ればまた歩けるようになるって先生から太鼓判もいただいたのよ、ねえ洋子さん」
「そうですよ、お義母さん、あんなに頑張ってらっしゃるんですもの。回復はきっとお早いですわ」
「母さん、洋子」
「武史、これもみんな洋子さんのお陰なのよ。どれだけ洋子さんが尽くしてくれたか感謝してもしきれないわ」
「まあお義母さん、そんな」
「そうか、そうだったのか」
突然、武史が洋子に頭を下げた
「洋子、すまん。夕べまた母さんから帰ってこいという電話があったんだ。またかと思って聞いていたんだが、母さんの声がいつもとちがって明るかったんで、何か気になって見に来たんだよ。そうか、お義母さん、本当に良かった。洋子、何もかもお前ひとりに押し付けて俺が悪かった。母さんをこんなに大事にしてくれて、ありがとうな」
男泣きに泣きながら、謝る武史に洋子は胸を打たれた。
「武史さん」
洋子も鼻の奥がつんとなり、目がしらに熱いものが浮かんできた。
「洋子、母さん、俺、ここに帰ってきてもいいか」
「武史さん、当たり前です。ここは武史さんの家じゃありませんか、ねえお義母さん」
「そうだよ武史、洋子さんもこう言ってくれているんだから、今夜からでも帰っておいで」




