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異世界に転移しても、姉からは逃げられない!【改訂版】  作者: yoko


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051 王都に潜む影

今回からまた朝雄側のお話になります。

041からの続きとなります。

 朝雄、アリア、ルリアの三人が城から宿へ戻ったころには、すでに日が傾き始めていた。


 謁見を終えた緊張から解放され、朝雄とルリアはどこか浮き立った様子だったが、アリアだけは少し疲れたような顔をしている。


「アリア、なんだかすごく疲れているみたいだけど、大丈夫?」


 朝雄が心配そうにアリアの顔をのぞき込むと、アリアは我に返ったように笑顔を見せた。


「いえ、大丈夫ですよ。魔王様との謁見で緊張してしまったので……」


「じゃあ、今日はもう部屋に戻って休もうか。もうすぐ夕食の時間だし」


「ええ、そうしましょう」


 そう言って三人は宿に入っていった。


     ◇ ◇ ◇


 夕食後、三人は広すぎる部屋にあるテーブルを囲み、今後の予定を話し合うことにした。


「魔王様が用意してくれる家の準備に一週間くらいかかるって言っていたから、それまではこの宿で生活することになるんだよね?」


「ええ。城で魔法を教えていただく予定もありますけど、時間はありそうですね。新しい家を見てから、必要なものは買いに行きましょう」


 アリアも朝雄も今回の報奨金である程度まとまったお金を手にしたので、日用品や家具を買うお金に困ることはない。


「服や下着はもう少しあってもいいかもしれません。明日、三人で買いに行きましょうか」


 アリアがそう言うと、ルリアと朝雄の顔が明るくなった。


「三人でお買い物! 楽しそう」


「うん。王都を見て回ったりもできるね」


 喜ぶ二人を見て、アリアも笑顔になった。


「じゃあ、明日は朝食を食べたら三人でお出かけしましょう。買い物をして、王都を観光しましょうね」


「「はーい」」


 二人の返事が重なり、アリアはクスリと小さく笑ったのだった。


     ◇ ◇ ◇


 二人を部屋に残し、アリアは宿のロビーまで降りてきた。


 アリアも王都は初めてなので、店の場所や観光できるところを宿の人に聞こうと思ったのだ。


 宿のロビーには受付カウンターがあり、そこに白髪交じりの魔族がいた。


 宿に着いたときに挨拶をした、初老の魔族だ。


「こんばんは」


 アリアは笑顔で声をかけた。


「これは、アリア様。何か御用でしょうか」


 初老の魔族は人当たりのいい笑顔で答えた。


「明日、買い物と観光で王都を回ろうと思うんですけど、王都は初めてなもので……」


「なるほど。お買い物はどのようなものをお求めですか?」


 アリアの言わんとすることをすぐに察し、問いかけた。


「服や下着、それと靴も見られればと思っています」


「でしたら、この宿を出て西のほうへ少し歩くと商業区がございます。たいていのものはそこで揃うと思います。それに、商業区の隣には国が管理している大きな公園がありまして、親子連れには人気のある場所でございます」


 それを聞いたアリアは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「そこなら二人も喜んでくれそう」


「ええ、お子様方もお喜びになるかと」


 初老の魔族の言葉に、アリアはクスリと笑った。


 おそらく、お子様方というのはルリアと朝雄のことを言っているのだろう。


 朝雄はもう成人しており、子供と呼ぶことはできない年齢だ。


 だが、ルリアと並ぶと年の近い兄妹に見えてしまうので、子供たちだと思われたのだろう。


「教えてくださり、ありがとうございます。明日は子供たちを連れて、そこに行ってみますね」


 アリアはそうお礼を言って立ち去ろうとしたが、初老の魔族はまだ話したいことがあるようだった。


「実は最近、王都で誘拐事件が多発しております」


「誘拐……」


 アリアの顔に不安の色が浮かぶ。


「狙われるのは見た目のいい子供ばかりで、すでに被害は十人以上に上っています」


「そんなに……」


「現在、騎士団が全力で捜索しておりますので、すぐに解決するとは思います。それに、事件が起きているのは王都外周の平民街で、中心部の貴族街やこの周辺では起きておりません。あくまで念のためにお伝えしただけですので、ご不安にさせてしまったのなら申し訳ありません」


「いいえ、教えてくださりありがとうございます」


 そう言ってアリアは頭を下げた。


「人通りの多いところは安全ですので、商業区や公園は大丈夫です。明日は楽しんできてください」


「はい、ありがとうございました」


 アリアはもう一度お礼を言い、部屋へ戻っていった。


 だが――。


 子供の誘拐という言葉が、いつまでも耳から離れることはなかった。


     ◇ ◇ ◇


 その頃、魔王城の執務室では、魔王とガズリーが二人で向かい合って座り、話をしていた。


「エミリー王女来訪の知らせには驚いたが、王都到着まではまだ数日かかるらしい。明日から会見の準備をしても十分間に合うだろう」


「ええ。しかし急な話ですね。サザーラント王国で何か緊急の事態でもあったのでしょうか?」


「うむ。王国で何か事件があったという報告は受けていない。とりあえずは会って話を聞こう。準備のほうは任せるぞ」


 魔王がそう言うと、ガズリーは頭を下げて了承した。


「それにしても、サザーラント王家に男子がいて、しかもサーシャ様の婚約者だったとは驚きましたよ。どうして今まで公表されなかったんですか?」


「ああ、向こうにも複雑な事情があるらしくてな。くれぐれも公表しないでくれと、あいつに頼まれたんだ」


 魔王の言う「あいつ」とは、サザーラント国王のことだ。


 二人は国王同士というより、親友と呼んでもよいくらいには交流が深い。


「サーシャ様にはともかく、エルザ様には話しておいたほうがよかったのでは?」


「うむ……今日のエルザは久しぶりに本気で怒っていた。思わず震えがきてしまったわ」


 そう言って魔王の顔が青ざめた。


「しかし、まさかサーシャが惚れる男が現れるとはな。儂はそっちのほうが驚いた」


 魔王が話をサーシャの初恋へ変えた。


 ガズリーも、その話題の転換に何も言わず応じる。


「確かに。ですが、アサオのしてきたことを傍で見てきた者としては、あれはしょうがないかと思いますね」


「ほう。お前がそこまで言うとは珍しいな」


 そう言って魔王はニヤリと笑った。


 子供が見たら泣き出しそうな、邪悪な笑顔にも見える。


「アサオは本気で他人のために命を懸ける、そんな奴です。見た目は子供のように見えますが、本物の男ですよ」


「ちょっと危なっかしいですけどね」


 そう付け加え、ガズリーは真面目な表情を崩した。


「うーむ。お前がそこまで言うとは、ますます興味深いな。儂としては、もう十年以上前の約束でもあるし、貸与した魔石の返還も済んでいる。婚約は解消してもいいと思っているのだがな……」


「問題はエルザ様ですか……」


「ああ。サザーラント王家と我が国は、現在はいい関係を築けている。しかし、将来的にもっと確かな繋がりがあれば、それはさらに強固なものになる」


 貴族社会のこの世界では、血縁は何にも増して説得力がある。


 それが何代前のものであってもだ。


 だからこそ、今まで両国は何とか両王家の間に血縁を作ろうと努力してきたのだが、それがうまくいったことはなかった。


「どちらの国も、婿に出す、嫁に出すという話になると、『出したほうが下に見られる』と馬鹿な貴族たちが騒ぎ出す。そうして今まで、この話は実現しなかったのだがな」


「今回は向こうから言い出したことなので、向こうは貴族を抑えるのに苦労するでしょうが、こちらにはそれがないということですか」


「ああ。こんな機会は、これから先いつ訪れるか分からない。だからエルザも、今後のためにこの話を簡単に手放すことはしないだろう」


 国家間の結びつきと、自分の娘の初恋。


 その双方を天秤にかけて判断する。


 それが王妃としてのエルザだった。


「だが、あいつも即決はしなかった。あれでも娘を可愛がっているからな。サザーラント王家にいるという男子を直接見定めてから判断するつもりなのだろう」


「では、しばらくは現状維持ですかね。アサオも王都で暮らすんだし、何かあればエルザ様の考えも変わるかもしれませんしね」


「うむ。こっちはしばらく様子を見るしかないな」


 話が一段落したところで、急にガズリーの顔が真剣なものへ変わった。


「陛下、例の件で進展がありましたので、御報告いたします」


 ガズリーの雰囲気が変わったのを見て、魔王も真剣な表情になる。


「うむ。報告せよ」


「以前より内偵を進めていたポンタワ伯爵家ですが、不正の証拠が揃ったため、先日騎士団が伯爵邸を強襲し、伯爵本人と関係者を残らず捕らえることに成功しました」


「そうか。なかなか尻尾を掴ませなかったが、とうとう奴らを裁けるか」


 そう言って魔王は満足そうに頷いた。


「ただ、伯爵邸に極秘に作られたと思われる地下室が発見されまして……中を確認したところ……」


 そこまで言って、ガズリーは言いよどんだ。


 魔王は無言で頷き、先を促した。


「地下室から、魔族、人族、獣人族の子供六名が監禁されているのを発見しました」


「なんだと!」


 魔王は一瞬で激高し、立ち上がった。


「子供は無事なのだろうな!」


「はい。全員、命に別状はありません。ただ、衰弱していたため現在は治療院で治療中です。調べたところ、全員が王都で行方不明となり捜索依頼が出されていた子供たちでしたので、今頃は両親とも再会できていると思われます」


 ガズリーの言葉を聞き、魔王は安堵すると、怒りを抑えて椅子へ腰を下ろした。


「最近頻発している誘拐事件について、奴らは何か情報を持っているはずだ。何としても吐かせるのだ。手段は問わない」


 魔王はそう言って冷酷な顔を見せる。


 ガズリーは黙って頭を下げた。


「誘拐された子供は十人以上いる。何としても全員無事に見つけるのだ」


「はっ、必ず!」


 そう言ってガズリーは魔王の執務室を退出した。


 ガズリーは厳しい顔つきで廊下を歩いていく。


 自分にも幼い娘がいる。その子が誘拐されたら――そう考えるだけで、怒りが湧いてくる。


 主の許可は出た。どんな手段を使ってでも、必ず情報を吐かせてやる。


 ガズリーはそう強く決意したのだった。


宜しければ評価をいただけると励みになります。


次話は明日20時に投稿します。


024の後書きにエミリー、スミレ、ターニャのイメージイラストを追加しました。

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