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異世界に転移しても、姉からは逃げられない!【改訂版】  作者: yoko


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026 桜サイド ツンデレ団長

投稿が遅くなって申し訳ありません。

19:00に投稿予定だった分です。

「待ちなさい、そこの無礼な筋肉達磨」


 突然背後から投げかけられた罵倒に、オルフは驚いて振り返った。


 そこにいたのは、長い黒髪が印象的な少女だった。


 先ほどの言葉がその少女から発せられたとは、すぐには思えなかったのだろう。


 オルフはまず、隣にいるセイラを睨んだ。


「セイラ、お前か? 誰が筋肉達磨だと!」


 睨まれたセイラは、自分ではないと訴えるように、ぶんぶんと首を横へ振った。


 では、まさか。


 オルフはゆっくりと桜へ視線を戻す。


 桜は無表情のまま、冷たい目をオルフへ向けていた。


「……」


 オルフは改めて桜を観察する。


 近衛騎士団の訓練場所には時々顔を出しているが、目の前の少女には見覚えがない。


 腰まで伸びた黒髪に、すらりと伸びた手足。


 姿勢よく立つ姿は文句なく美しく、少し目つきはきついものの、これほど目立つ少女を今まで見落としていたとは考えにくかった。


「お前は誰だ?」


 桜の視線に対抗するように、オルフも睨み返しながら問いかける。


「か、彼女たちは私の親戚で、今日近衛騎士団に入団したばかりなんですよ!」


 セイラが慌てて二人の間へ入った。


 あまりにも棒読みだったため、オルフは疑わしそうな目を向けたが、すぐに桜へ視線を戻す。


 いつの間にか、その隣には梅も立っていた。


 背は低く、顔立ちも幼い。


 だが桜とはまた違った可愛らしさを持つ少女で、こちらも以前から近衛にいたなら気づかない方が不自然なくらい目立っている。


「ふん。セイラの親戚ってことは、また余りものの貴族の子弟か」


 オルフは鼻を鳴らした。


「馬鹿にされて言い返す根性は認めるが、言葉遣いには気をつけろ。目上の人間には、もう少し敬意を持って接するもんだぜ」


 その言葉を聞いたセイラは、


『お前が言うな!』


 と全力で突っ込みたくなった。


「お前が言うな」


「……!」


 心の声が漏れたのかと思い、セイラは慌てて自分の口を押さえる。


 だが、オルフが険しい表情で睨んでいるのは桜の方だった。


 どうやら今の一言も桜だったらしい。


「……」


「……」


 桜とオルフが睨み合う。


 その間で、セイラだけがおろおろと視線を左右へ動かしていた。


     ◇ ◇ ◇


 そんな三人を、梅は少し離れたところからじっと観察していた。


 オルフが現れてからの話の流れを考えれば、桜がこうなることはある程度予想できていた。


 朝雄の捜索に行けなくなる可能性が出た以上、桜が黙っていられるはずがない。それは梅にとっても同じだった。


 ただし、オルフの言っていることすべてが間違っているとも思えない。


 先ほど見た近衛騎士団の訓練内容は、通常の騎士団と比べれば明らかに実戦向きではなかった。


 ターニャからこの世界について説明を受けた際、街の外には野生動物だけでなく、それ以上に危険な魔物もいると聞いている。


 あの練度のまま長距離の捜索へ出るとなれば、確かに危険は大きい。


『言い方は最悪だけど……』


 梅はオルフを見る。


『近衛の人たちを心配してるって考えられなくもないんだよね』


 一方、桜の考えはもっと単純だろう。


『朝雄ちゃんを探しに行く邪魔をするなら、倒す』


 恐らく、その程度しか考えていない。


 だが。


 それは案外、悪い手ではない。


 もし近衛騎士団所属という扱いになっている桜が、第一騎士団の団長に勝てば、


『近衛では力不足だから任せられない』


 という主張は、かなり説得力を失う。


『まあ、桜ちゃんがそこまで考えてるとは思わないけど……』


 梅は小さく苦笑した。


 ただ、団長一人に勝つだけでは少し弱いかもしれない。


『もう一押し欲しいな』


 完全に任務を横取りできなくする方法はないか。


 梅がそう考えている間に、状況へ新たな変化が訪れた。


     ◇ ◇ ◇


「団長、お遊びはそれくらいにしてください」


 オルフの後ろから、静かな声が掛かった。


 全員がそちらを見る。


 そこに立っていたのは、オルフと同じ意匠の鎧を身につけた騎士だった。


 身長はオルフより少し低い程度。


 がっしりとした体格のオルフとは対照的に細身だが、その身体は無駄なく引き締まっている。


 長い金髪に、涼しげな青い瞳。


 桜と梅には、少女漫画に出てくる騎士そのもののように見えた。


「団長が何故そこまで近衛の者たちを気に掛けるのかは知りませんが」


 男は静かな口調で続ける。


「団長がこちらへ入り浸っている間、騎士団を任されている私の身にもなっていただきたいですね」


 声を荒らげてはいない。


 だが、言葉の端々から明らかに苛立ちが滲んでいた。


「べ、別に近衛の連中を気にしてるとかじゃねえし!」


「……」


「……」


「……」


 その場にいたカルリス、セイラ、桜、梅の四人から、同時にじっとりとした視線がオルフへ向けられる。


『なんて微妙なツンデレなの……』


 桜と梅は同じ感想を抱いたが、さすがに口には出さなかった。


「あの方は、第一騎士団の副団長を務めるカルリス様です」


 セイラが桜と梅へ小声で説明する。


「見た目は細身ですけど、格闘術の天才で、無手ならオルフ団長より強いとも言われています」


「へぇ……」


 その説明を聞いた瞬間。


 梅の頭の中で何かが繋がった。


『団長と副団長』


 もし、その二人が揃って近衛側の人間に負けたら。


『近衛は弱いから任せられない、なんて言えなくなるよね』


 これなら完全に主張を潰せる。


 ちょうど欲しかった『もう一押し』が、向こうから現れてくれた。


 梅の口元に、自然と悪い笑みが浮かぶ。


 その横で、たまたま見てしまったセイラが。


「ヒッ」


 と短い悲鳴を上げた。


     ◇ ◇ ◇


 梅は考えをまとめると、何事もなかったような満面の笑顔でオルフの前へ出た。


「オルフ団長様は、近衛騎士団が弱くて心配だから、今回の任務を代わろうとしているんですよね?」


「あ、ああ、そうだ!」


 オルフは少し戸惑いながら答える。


「別に心配とかはしてねえけどな!」


 再びツンデレが発動したが、梅は完全に無視した。


「でしたら、近衛騎士団が第一騎士団より強ければ、任務を代わる必要はないですよね?」


 にっこり。


 梅が笑う。


「あ?」


 オルフの眉がぴくりと動いた。


「近衛の連中が俺たちより強いだと? 馬鹿言ってんじゃねえ!」


 さすがに今度は、怒りを隠す気もないらしい。


 その後ろでは、カルリスも不愉快そうに眉を寄せている。


「では、こうしましょう」


 梅は笑顔を崩さない。


「オルフ団長が桜ちゃんと、カルリス副団長が私と試合をするんです」


「……」


「私たちが勝ったら、今回の任務には口を出さない。逆に私たちが負けたら、捜索任務は第一騎士団へ譲る」


 そこで少し首を傾げる。


「それでどうでしょうか?」


「……」


 桜の表情が一気に明るくなった。


『さすが梅ちゃん!』


 声に出してはいないが、顔には完全にそう書いてある。


 一方。


 その隣にいるセイラは。


『何を言い出してるんですか!?』


 と叫びたそうな顔で青ざめていた。


     ◇ ◇ ◇


「ああ?」


 オルフはしばらく梅を見つめた後、鼻で笑った。


「そんな試合、やるまでもねえ。それに俺は女子供に向ける剣なんざ持ってねえ!」


「私も幼い少女と試合をするなど、恥でしかありませんね」


 カルリスも淡々と拒否する。


「……」


 梅の笑顔が僅かに固まった。


 どうやら第一騎士団の団長と副団長としてのプライドが許さないらしい。


 相手が女子供だから試合をしない。


 そう言われてしまうと、無理に試合へ持ち込むのは難しい。


『どうしよう』


 この機会を逃せば、任務を横取りされる可能性が残る。


 なんとか二人に試合を受けさせる方法はないか。


 梅はすぐに次の手を考え始めた。


 その隣では。


「……」


 桜がすでに雪風へ手を伸ばしかけていた。


『桜ちゃん、それは駄目』


 梅は内心で即座に突っ込む。


『もう少し挑発してみる?』


 それでも駄目なら。


 最悪、先に仕掛けて実力を見せつけるしかないかもしれない。


 かなり危ない賭けだが、桜なら本当にやりかねない。


 梅がそう考えていた、その時。


     ◇ ◇ ◇


「話は聞かせてもらったわ!」


 突然、訓練場へよく通る声が響いた。


「……!」


 全員が驚いて声のした方へ振り返る。


 そこに立っていたのは。


 笑顔で仁王立ちしているエミリーだった。


 そして、その隣には。


「……」


 こめかみに手を当て、頭が痛いとでも言いたそうな表情をしているターニャがいる。


 嫌な予感しかしない。


 そんな周囲の空気など気にした様子もなく、エミリーは胸を張った。


「その試合――」


 にっこりと笑う。


「私が立会人になりましょう!」


「……」


 ターニャの溜息だけが。


 静かに訓練場へ響いた。


宜しければ評価をいただけると励みになります。


次話は明日7:00に投稿します。

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