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異世界に転移しても、姉からは逃げられない!【改訂版】  作者: yoko


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23/58

021 桜サイド 異世界へ

013からの続きです

桜側のお話になります。

「さあ、朝雄を助けに行くわよ。他のことは、その後でゆっくり考えればいいわ」


「うん!」


 二人はつないだ手に、もう一度力を込めた。


 魔法陣から溢れ出した白い光が桜と梅を包み込み、やがて周囲のすべてが真っ白に染まっていった。


     ◇ ◇ ◇


 あまりの眩しさに目を閉じていた二人は、しばらくしてゆっくりと目を開いた。


「……ここは?」


 周囲を見渡す。そこは、どこまでも白い空間だった。


「転移って、瞬間移動みたいにすぐ向こうへ着くのかと思ってたんだけど……違うみたいね」


 桜の言葉に、梅も頷く。


「そうみたいだね」


 床も壁も天井もない。自分たちが立っているのか、浮いているのか。それどころか、動いているのか止まっているのかすら分からなかった。


 ただ、不思議なことに恐怖はあまり感じない。


「とりあえず、私たちにできることはなさそうね」


「うん。しばらく様子を見るしかないかな」


 不安がないわけではない。それでも二人は、自分たちの意思で異世界へ行くと決めた。


 今さら白い空間に放り出された程度で、取り乱している場合ではなかった。


「向こうに着いたら、朝雄ちゃんのお母さんに会うんだよね?」


 梅が少し緊張した顔になる。


「そっちの方が緊張するかも……」


「そうね。粗相のないようにしないと」


 桜も真剣な表情で頷く。


「最初の印象は大事だもの」


「それもそうなんだけど……まず謝らないと駄目だよね」


「……そうね」


 二人の表情が少し曇る。


 向こうでは、朝雄の父である喜一郎が転移してくると思っているはずだ。十年以上離れていた夫にようやく会える。そう思って待っているところへ、現れるのが自分たち二人なのだ。


「十年以上会ってなかった旦那さんに会えると思ってたのに、来たのが私たちじゃ……がっかりするよね」


「……」


「やっぱり申し訳ないな」


 梅の言葉に、桜も俯いた。


 自分たちの想いを優先したことで、朝雄の母親から夫と再会する機会を奪ってしまった。そこには、やはり罪悪感がある。


「でも」


 桜が顔を上げる。


「それでも行くって決めたんだもの」


「うん」


「土下座でも何でもして、きちんと謝りましょう」


「……うん!」


 梅も強く頷いた。


     ◇ ◇ ◇


 そんな話をしていると、不意に周囲へ変化が現れた。


「桜ちゃん」


「ええ」


 二人の視線の先に、ぽっかりと黒い穴のようなものが浮かんでいる。最初は小さな点にしか見えなかったそれが、少しずつ大きくなっていた。


 いや。


「私たちの方が近づいてる?」


「たぶん」


 相変わらず自分たちが動いている感覚はない。それでも、黒い穴との距離は確実に縮まっている。


「あれが出口みたいね」


「そうみたいだね」


 二人は自然に手をつなぎ直した。


 穴は瞬く間に大きくなり、やがて視界いっぱいに広がる。


 そして。


 二人の身体は、その中へ吸い込まれていった。


     ◇ ◇ ◇


 次に目を開いた時。


 そこは薄暗い石造りの部屋だった。


「……着いた?」


「たぶん」


 二人が立っている床には、日本で乗ったものとよく似た巨大な魔法陣が描かれている。


『本当に……異世界に来たんだ』


 梅は改めて実感した。


 だが、感慨に浸っている暇はなかった。


 正面。


 少し離れたところに置かれたテーブルの向こうに、一人の少女が座っている。


 長い銀髪。


 大きな青い瞳。


 そして髪の間から伸びた、先の尖った長い耳。


『エルフ……』


 年齢は自分たちと同じくらいに見える。その傍らには、メイド服を着た女性が一人立っていた。


 こちらは三十代半ばくらいに見え、桜には自分の母親と同年代くらいに思えた。


 銀髪の少女は桜と梅を見るなり、小さく口を開けて固まっている。


 一方、メイド服の女性は。


「……」


 明らかに警戒した目を向けていた。


 もっとも、部屋にいるのはその二人だけではない。


「……!」


 桜が僅かに目を細める。


 魔法陣とテーブルの間に、四人の人間が立っていた。女性が一人。男性が三人。


 全員が白い金属製の鎧を身につけ、腰には剣を下げている。


『騎士……』


 まるで昔読んだ漫画から、そのまま出てきたような姿だった。


 武装した人間がいる。


 それだけで桜の身体は反射的に動いた。


 右手が腰の雪風へ伸びる。隣では梅も、両腕の手甲を前へ構えた。


「……!」


 その動きを見た若い騎士の一人が剣を抜いた。続いて、残る三人も一斉に剣を抜く。


「桜ちゃん……」


「……」


 桜の表情から感情が消えた。


 目を細め。


 雪風を抜く。


 その瞬間。


「……?」


 身体の中から何かが流れ出し、雪風へ吸い込まれていくような感覚があった。


 次いで、刀身から冷気が溢れ出す。


「……」


 周囲の空気が一気に冷えた。


 白い刀身は、今にも凍りつきそうなほどの冷気をまとっている。


「そう」


 桜の口元に、僅かな笑みが浮かぶ。


「あなたもやる気なのね、雪風」


 チリン。


 鍔に結ばれた小さな鈴が、涼しげな音を響かせた。


     ◇ ◇ ◇


『まずい……』


 梅は雪風を構える桜と、同じように剣を構えている騎士たちを交互に見た。


『なんとかしないと』


 もっとも、自分も騎士たちが剣を抜いた瞬間、反射的に構えてしまっている。


『まず会話しないと……』


 そう思い桜を見る。


 雪風からは凄まじい冷気。


 そして、それを見て僅かに笑っている桜。


『……桜ちゃんは今ちょっと駄目そう』


 ならば相手側だ。


 四人のうち、一人だけ明らかに年長の男性騎士がいる。五十代半ばくらいだろうか。


 その騎士も、突然現れた二人の少女を前に戸惑っているように見えた。


『向こうも混乱してる』


 ならば、敵意がないことさえ伝えられれば何とかなるかもしれない。


 そう考えたところで、梅は重大なことに気づいた。


『……言葉って通じるの?』


 四人は髪も瞳の色もバラバラだ。少なくとも日本人には見えない。


 緑色や赤色の髪など、日本ではまず見かけないだろう。


『でも、何とか――』


 梅が片手を上げようとした。


 その時。


「怪しい奴め! 大人しく武器を捨てろ!」


「え?」


 若い男性騎士の一人が叫びながら桜へ迫った。


『日本語だ!』


 まずそこに驚いた。


『いや、それより――』


 剣を持って向かってくる相手に。


『武器を捨てる人なんていないよね!?』


 そう思った直後。


「幼い見た目には騙されないぞ! そんな物騒な武器を持っているとは!」


「……」


 もう一人の若い騎士が、梅へ剣を構えて迫ってきた。


 梅は自分の両腕を見る。


 鈍い光を放つチタン製の手甲。


『……それはそうかも』


 見た目だけなら十分物騒だった。


 梅は諦めるように息を吐き、腰を落として構えた。


     ◇ ◇ ◇


「うおおおおっ!」


 桜へ向かって、騎士が剣を振り下ろす。


 桜は表情一つ変えず、身体を僅かに横へ動かした。


 剣が目の前を通り過ぎる。


「なに!?」


 全力の一撃をあっさりかわされ、男の顔に驚きが浮かんだ。


『……大したことない』


 一振り見ただけで、桜にはおおよその技量が分かった。


 続けて斜めから振られた剣もかわす。


 横薙ぎ。


 突き。


 どれも受ける必要すらない。少し身体を動かすだけで、剣先は桜の横を通過していった。


「くっ……!」


 何度攻撃しても当たらない。


 騎士の呼吸が少しずつ荒くなる。


『私じゃなくて……』


 しばらく相手を観察していた桜は気づいた。


『雪風を狙ってる?』


 どうやら剣を弾くなどして、桜を無力化するつもりらしい。少なくとも最初から殺す気ではない。


『それなら……』


 桜は雪風を持ち直した。


 こちらも最低限の攻撃で動きを止めればいい。


 狙うなら腕か足。


『最悪でも、折れるくらいで済むでしょう』


 およそ普通の女子高生とは思えない結論だった。


 桜の雰囲気が変わったことに、騎士も気づいたらしい。肩で息をしながらも、剣を構え直す。


 先に動いたのは桜だった。


 相手の隙など待つ必要はない。一気に腰を落とし、そのまま間合いへ飛び込む。


「なっ!」


 騎士も反応した。


 だが遅い。


 桜は雪風をくるりと返し、刃ではなく峰を相手の膝へ叩き込んだ。


『これなら、さすがに切れない』


 多少痛いだろうが、折れない程度には手加減したつもりだった。


 だが。


 パキッ。


 パキパキパキッ。


「……え?」


 騎士の脚が、膝を中心に一気に白く凍りついていく。


「な、なんだこれは!?」


 片脚が動かなくなり、男はその場へ倒れ込んだ。


「足が……凍ってる!?」


「……」


 驚いたのは桜も同じだった。


 雪風を自分の顔の前へ掲げる。刀身から、ひんやりとした冷気が漂っていた。


「そう」


 桜は小さく呟く。


「あなたがやったのね、雪風」


 チリン。


 まるで返事をするように、小さな鈴が鳴った。


     ◇ ◇ ◇


「痛い思いをしたくなければ、大人しくしろ!」


 梅へ迫った騎士が、剣を振り下ろす。


『この状況で「分かりました」って大人しくする人はいないと思う!』


 梅は一歩横へ動き、剣をかわした。


「なに!?」


 あまりの速さに、一瞬相手が梅を見失う。


 梅はその横から、騎士の剣を確認した。


『……あれ?』


 剣は振り抜かれず、梅の頭があった辺りで止まっている。


 次の攻撃。


 今度も寸前でかわす。


 また剣は途中で止まった。


『やっぱり』


 殺すつもりはない。


 少なくとも、梅にはそう思えた。


『だったら、こっちも最低限で動けなくすればいいよね』


 殴り飛ばすだけなら簡単だ。


 だが異世界へ到着した直後から、騎士を一方的に叩きのめすのは今後に響きそうな気がする。


 梅は攻撃をかわしながら、改めて相手を観察した。


 身長は百九十センチ近く。全身を鎧で包んでいるものの、足が長くモデルのような体型をしている。顔も整っていた。


 髪が緑色なのが少々気になるが、恐らくこの世界では地毛なのだろう。


「くっ、小さくてやりづらい!」


「……」


 その言葉を聞いた瞬間。


 梅の動きが止まった。


『小さくて?』


 騎士が何気なく口にした言葉。


 だが。


 梅にとっては。


 触れてはいけない部分だった。


 次の瞬間。


「なっ!?」


 梅の姿が消えたように見えた。


 低い姿勢のまま、一瞬で騎士の懐へ入り込む。


 目の前には。


 ちょうど一撃で相手を無力化できそうな高さに、急所がある。


『鎧も着てるし……』


 梅は右手を引いた。


『酷いことにはならないよね』


 そして。


 ドゴォッ!


「――っ!?」


 チタン製の手甲が、騎士の鎧へめり込んだ。


 鎧はかろうじて形を保っているものの、大きくへこんでいる。


 梅は静かに右腕を引き抜く。


「朝雄ちゃんと並ぶと、ちょうどいいんだからね!」


「……」


 騎士には、その言葉は届いていなかった。


 白目を剥き。


 両手で股間を押さえたまま。


 ゆっくりとその場へ崩れ落ちた。


     ◇ ◇ ◇


「……」


 部屋が静まり返った。


 若い騎士二人が、あっという間に倒された。


 残る年配の騎士は、明らかに焦った顔をしている。隣にいる若い女性騎士に至っては、顔を青くしており、構えた剣が小刻みに震えていた。


「むう……強い!」


 年配の騎士が剣を構え直す。


「セイラよ、我らで止めるぞ! 覚悟を決めろ!」


「無理ですぅぅぅ!」


 セイラと呼ばれた女性騎士が、ぶんぶんと首を横へ振った。


「ボロン団長~! あんなの無理ですよぉ!」


「泣き言を言うな! 近衛の者は、王族を守るためなら命を捨てるのが使命だ!」


「無理無理無理です~!」


 涙目で桜と梅を交互に指差す。


「魔剣を持った目つきの怖い女剣士と、可愛い見た目なのに容赦のない幼女なんて相手にできません~!」


「……」


「……」


 桜と梅が固まった。


「目つきの怖い……」


「容赦のない幼女……」


 二人とも、先ほどの戦闘より明らかにダメージを受けていた。


 そのおかげか。


 少しだけ冷静さが戻る。


『そうだ』


 桜は改めて周囲を見る。


『私たちは戦いに来たんじゃない』


 目的は朝雄を助けること。


 そして、この世界には朝雄の母親がいる。


 残っているのは、騎士二人を除けば銀髪の少女とメイド服の女性。


『朝雄のお母さん……』


 年齢から考えれば、メイド服の女性だろうか。


 桜が隣を見ると、梅も同じことを考えたらしく、小さく頷いた。


『まず話を――』


 桜が口を開こうとした、その時。


「双方とも、武器を収めなさい!」


 凛とした声が部屋へ響いた。


「……!」


 声の主は。


 先ほどまでテーブルに座っていた銀髪の少女だった。


 いつの間に取り出したのか、一枚の紙を手にしている。


 可愛らしい声。


 だが。


 そこには、反射的に従ってしまうような強さがあった。


「……はっ!」


 ボロンとセイラが即座に剣を収める。


 メイド服の女性も、いつの間にか構えていた短刀を下ろした。


「……」


 桜も少し迷った後、雪風を鞘へ納める。


 梅も構えを解いた。


 そして。


「……え?」


 騎士二人とメイド服の女性が、一斉に銀髪の少女へ跪いた。


『この子……』


 桜と梅は驚いた。


 銀髪の少女が、二人へ向かって歩き始める。


「エミリー様!」


 ボロンが止めようと顔を上げたが。


「大丈夫です」


 少女は視線だけで制した。


 そして桜と梅の前へ立つ。


 長い銀髪。


 大きな青い瞳。


 先の尖った長い耳。


 身長は百六十センチほど。


 どう見ても高校生くらいにしか見えない。


「……」


 二人を見上げるように確認した少女は。


 にっこりと笑った。


「桜ちゃんと梅ちゃんだね?」


「……え?」


「どうして私たちの名前を……」


 驚く二人。


 だが。


 次の言葉は。


 それ以上の衝撃だった。


「私が朝雄のお母さん」


 少女は自分の胸へ手を当てる。


「エミリー・サザーラントだよ。よろしくね!」


「……」


「……」


 桜と梅は。


 完全に固まった。


 目の前の少女が。


 朝雄の母親。


 そして。


 その眩しい笑顔は。


 二人が何度も見てきた。


 朝雄の笑顔と。


 驚くほどよく似ていた。


宜しければ評価をいただけると励みになります。


次話は明日7:00に投稿します。

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