表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワキヤクレイヴ -wakiya crave-  作者: いちどめし
第二章『竜血の巫女編』 第一話 -新規加入-

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/37

scene2-2 普通の人

 ふかふかの布団で眠ると言っていたキビシマさんは、自身の宿部屋に入ってもレイヴの部屋でそうしていたように、立ったまま壁にもたれかかるだけだった。

 僕が部屋の入り口で立ち止まっていると、彼は何かに気づいたようにぴくりと肩を揺らした後、柔和な顔をこちらに向けた。


「ワキヤ殿の部屋でござる。拙者に構わず休むと良い」


「キビシマさんは休まないんですか?」


 問われて、キビシマさんは照れたようにはにかむと、小さく頭を掻いた。


「拙者はこうしている方が気の休まる性質でな。ワキヤ殿が気になってしまうのであれば、拙者は出ているが」


「いえ、そんなつもりじゃ――」


 思わず、小さく叫んでしまう。


 なんだか気まずくなってしまい、汚れのない浅黄色の絨毯を見下ろしながら手前のベッドへ向かう。

 レイヴの泊まるものと同じくらいの広さのこの部屋は、しかしベッドが二台並べられているせいで少し手狭に見えた。


 この部屋で、僕はキビシマさんと相部屋ということだった。

 ゲイトとバルフさんは別の部屋で相部屋なのだということで、勇者であるレイヴ以外は男女で分かれて、という振り分けなのだろう。


「今のは、意地の悪い言い方になってしまっていたな。すまないでござるよ」


 僕がベッドに背嚢を下ろすなり、謝罪。

 なんだか僕は焦ってしまって、「今の」が何を指すのかを考えるよりも前に、「いえいえ!」と全身でそれを否定した。


「僕の方こそ、気を遣わせてしまって――」


 焦る僕の姿を見て、キビシマさんは破顔すると「あっはっは」と笑い声をあげた。

 気持ちの良い笑い声というものにお手本があるのだとしたら、きっとこんな笑い方なのだろう。


「いやあ、ワキヤ殿は反応が普通でござるな。他の仲間たちはどうにも癖が強いのでな、拙者も少し毒されていたようだ」


「ふ、普通、ですか?」


「おう、普通も普通。久方ぶりに人間に遭った気すらしたでござる。ほら、ゲイト殿もバルフ殿もあの調子でござろう。レイヴ殿は気の良い若者ではあるが、滅多なことでは物怖じしないところがあるからな、ワキヤ殿のような相手に対する話し方を失念していたかも知れん」


 何と返せば良いのか分からなくて、僕は少しだけ無言になって背嚢の中を漁った。

 一着だけ持ってきた着替えに、両親から持たされたナイフ、おばさんにもらった魔法の丸薬。

 小袋に入っているのは少量の煎り豆と干し肉で、村の皆が非常食にと渡してくれたものだ。


 今、用のあるものは無い。

 開ける前から分かっていた。


 背嚢を閉じようとして、ふと視界に入ったのは、麦わらを編んで作った短い鎖のようなもの。

 旅のお守りにと、ジーナのくれたものだった。

 なんだか既に懐かしい香りを感じながら、改めて背嚢を脇に置いた。


「普通で、良いんでしょうか」


「おかしなことを聞くでござるな」


 話を続けようとして口をついた質問だった。

 おかしなことを言ったという自覚が、指摘されてから湧き上がる。

 だけどキビシマさんは、聞かれるまでもないという風に続けた。


「普通が良いに決まっている」


「どうして」


「普通だからこそ見えるものがある」


 淀みのない回答に、なんだかたじろいでしまう。


 初対面の相手を普通と評したことへのフォロー、詭弁――。

 そう思わせないだけの雰囲気が、キビシマさんにはあった。


 それが、彼の本心だからなのか、彼の話術が優れているからなのか、までは分からないけれど。


「普通って、何でしょう」


 きっとこれも、沈黙を作らないための質問。

 キビシマさんはそんな浅はかな問いかけに、しかし目を丸くして、少しだけ考えるような素振りを見せた。


 おかしな質問をしたと僕が詫びるよりも、


「そうでござるな、ここで言う普通というのは――」


 キビシマさんが笑顔を作る方が、わずかに早かった。


「人に悪く思われないように気を遣っていること、でござるよ」


「良いことなんですか、それ」


「もちろん」


 釈然としない気持ちはあったけれど、キビシマさんの言葉に嘘があるようにも思えなかった。


 返す言葉も思いつかないまま、眠るにはまだ少し早い時間が流れていく。

 キビシマさんは壁にもたれたまま身じろぎすらせず、直前の話題を掘り返すのには長すぎる沈黙が積もった頃、軽く扉を叩く音がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ