私の悲惨な誕生日2
暴力、性的暴行の描写があります。ご注意ください
男はシガレットをペンのように持ち直すと、とんとんと叩いて、灰を振るい落す。顔の上に灰が降りかかってきて、私はぎゅっと目を閉じる。男の嘲笑が耳障りだ。
デジタルカメラのレンズを私に向けた男が、呆れ顔で肩を竦めている。
「おい、傷つけるのは無しなんじゃねぇのかよ」
「ミケイラちゃんが良い子にしてればなぁ。ぼかすか殴るより、こうした方が傷も目立たねぇし……効くんだよ」
なんだ、何をしようとしている? ろくでもない事になるとわかっていても、確かめずにはいられない。薄目を開けた私は、戦慄した。
真っ赤に光るシガレットの先端が、私の胸元にじりじりと近づいてくる。
私は身を捩って暴れたが、どうしようもなかった。右のバストの上あたりに、真っ赤な火が押しあてられる。灰皿で火を揉み消すみたいに、ぐりぐりと押し付けられる。
熱い、鋭い痛みがはしった。私が劈くような悲鳴を上げると、デジタルカメラを構えていた男が、慌てて私の口を塞ぐ。私は我武者羅に男の掌に噛みついた。男が悲鳴を上げて私の顔面に拳を叩きこむ。高い鼻を恨めしく思ったのは、生れて初めてだ。鼻の奥がかっと燃えた。鼻血がつうっと鼻の下から上唇まで伝い、滑り落ちる。
ゴーレム男が苦笑している。意味のない暴言を喚き散らす私の口の中に、丸められた布が押し込まれた。
いつの間にか、私のスカートは臍までたくし上げられていて、ショーツは脱がされている。口に突っ込まれたのは、私のショーツだ。
怒り心頭に達して暴漢どもを痛罵したが、私の声は屈辱的な猿ぐつわに阻まれて、出口を失い、頭の中で反響するしかなかった。
男がシガレットを私の肌から放しても、痛みは長く尾を引いた。丸くえぐられたような火傷に、灰が癒着している。
シガレットを唇に咥え直して、男は嘯いた。
「反省しましたか? ミケイラちゃぁん。もう駄々をこねちゃダメでちゅよ? いや、いいさ。また聞きわけのない事をしてみな。次は……何処がいいかなぁ?」
男の手がブラのカップを鷲掴む。卑猥なだけではない手付きに、私は首をすくませた。
ゴーレム男は笑いながら、私の足を肩に担ぐ。ジーンズの前を寛がせると、グロテスクな屹立を取り出した。
私は引き攣れた呼気を漏らす。抵抗できない。赤く点滅するシガレットの先端から目が離せない。
万事休すだ。どうする、どうしよう、どうすればいい? この不潔な部屋で、汚らしいゲスどもの好きにされるしかないのか?
いや、違う。ここにいるのは、私とこの男たちだけではなかった。
首を巡らせる。山のように盛り上がるゴーレム男の肩の向こう側に、フィリップを見つけた。フィリップはマネキンのように、凝然と立ち尽くしている。眼鏡のレンズが光っていた。私は猿ぐつわの隙間から言葉を絞り出す。
「ふぃ、り、ふ」
聞こえなかったのだろうか。フィリップは身動ぎもしない。
フィリップは気弱だ。腕っ節を自慢するタイプでは決してない。間違っても、三人の暴漢を相手に大立ち回りを演じるなんてことは、出来ないだろう。
フィリップが私を助けてくれるか、助けてくれないか。そんなことは問題ではない。出来たら、部屋から逃げて助けを呼んで来て欲しいけど、それさえ出来ずに部屋の隅で震えていても、この際だ、責めるつもりはない。
私はただ、フィリップもまた私と同じ被害者だと、確信したかっただけだ。
フィリップはきっと、脅されたのだ。脅されて、私をおびき出す為に利用された。
そうに決まっている。ねぇ、そうでしょ、フィリップ。
フィリップが眼鏡の弦を指先で押し上げる。レンズの反射に隠されていた瞳が見えた。
綺麗なグリーンの瞳が悲しそうに、苦しそうに、そして愛しそうに、私を見つめている。絡んだ視線はあっさりと解かれた。
フィリップは私に背を向けた。振り返らずに、彼は言った。
「表に出てる。終わったら呼んでくれ」
扉を開ける男の広い背中は、焦げ付くような私の視線を跳ね返す。三年前の私が、縋りついてきたスノーウィを振り払ったように。
口に詰め込まれたショーツが唾液を含んで重くごわつく。息が苦しくて、涙がにじむ。
「……すのー、ひ」
スノーウィの名前を呼ぶ。すると、部屋を出ようとしている男が、肩越しに私を振りかえる。唇が小さく動いた。
『ごめん』
そして扉は閉ざされた。
私は目を瞠った。え? なに? え?
呆然自失の私の上で、男たちが話している。
「なんだ、行っちまったのか? あいつ、本当に犯んないのかよ。おかしな奴だな。不能か?」
「自分の女を輪姦させる野郎が、まともなわけあるかよ」
「え? そうなの?」
「鈍いねぇ、お前。ミケイラちゃんを見てりゃあ、わかんだろぉが」
「うっわ、マジかよ。えげつねぇな。なんでまたそんなことを? この女に恨みでもあんのか?」
「知らねぇし、知る必要もないだろ? 俺はやることやって、金さえもらえりゃ文句ねぇ」
下肢を引き裂かれる。体中にべたべたと手垢をつけられる。下卑た笑声を上げて、腰を使う男。生臭い息を吐きかけ、汗と体臭をふりまく。どいつもこいつも、私を嘲弄し、嘲笑している。
何がおかしい? 何が楽しい? チクショウ、クソッタレ。お前ら全員、地獄に堕ちろ。
なんで私がこんな目にあっているのだろう。私は、こんな下郎が手を触れて良い女ではない。私は親父の一人娘だ。未来の支配者だ。親父さえいなくなれば、もう誰の好きにもされない……筈だったのに。
これはいったいどういうことだ。親父以下の獣に、体を貪られている。この女は誰だ。与えられる苦痛に、無様に啜り泣くことしか出来ないこの女は一体何者だ。
私ではない。こんなのは私ではない。
フィリップが私を裏切るもんか。スノーウィは私の手を噛んだりしない。嘘だ。嘘。嘘。嘘。嘘。
私はミケイラ。誰かに踏みにじられる筈がない。
それなのに、どうして。私は男たちに嬲られているのだろう。私は何を間違ったのだ?
フィリップ……私、あんたのことが好きだった。あんたが例え犬でも、優しい恋人でいてくれるなら、それで良かったのに。
『死ね』
私は声にならない叫びを上げた。
『死ね死ね死ね! お前みたいなバカ犬は死んじまえ!』
私の体を蹂躙する男どもなんかより、フィリップが……スノーウィが憎い。八つ裂きにしてやりたい。私の手で、苦しみを与えて殺してやりたい。
愛がひっくり返って憎しみに変わった。
スノーウィも同じだったのだろうかと、ふと思う。あの犬は私に裏切られたと思って、私を憎むようになったのだろうか。
本当のところはわからない。私には、他人の心なんてわからない。ましてや犬の、あるかどうかもわからない心のことなんか、わかるわけがない。




