第8話:ギルドからの呼び出し
迷惑配信者を撃退した翌日。
俺の元に、一通のメールが届いた。
差出人は『探索者ギルド本部』。
件名は『重要:能力認定および登録に関する面談のお知らせ』。
「……来たか」
俺は眉間を揉んだ。
ダンジョンで活動する以上、ギルドへの登録は義務だ。
だが、俺はまだ仮登録(ネットで適当に入力したやつ)しかしていない。
しかも、配信であれだけ派手に暴れれば、目が付けられるのは当然だ。
「無視するわけにもいかんしな」
俺は学校帰り『に見えるよう』JKを装って、ギルド本部へと向かった。
もちろん、制服姿だ。
――もちろん本物の学生ではない。制服はただの偽装だ。
武器はガンケースに入れて背負っている。軽音部員に見えなくもない……無理か。
◇
ギルド本部の応接室。
俺の対面に座っているのは、スーツを着た神経質そうな男だった。
ギルド職員の工藤と名乗った。
「……単刀直入に言います。あなたの戦闘能力は、異常です」
工藤はタブレット端末を見せながら言った。
そこには、俺の配信の切り抜き動画が再生されている。
オークジェネラルを瞬殺するシーンだ。
「仮登録のみの未成年が、これほどの火器を扱い、高ランクモンスターを単独で討伐する。……法的にはグレーですが、管理するギルドとしては看過できません」
「趣味でやっているだけですが」
「趣味で対物ライフルをぶっ放す女子高生はいません」
正論だ。
俺は黙り込んだ。
「ギルドとしては、あなたに正式なランクを与え、管理下に置きたいと考えています。具体的には、Bランク……いや、Aランク相当の待遇を用意します」
Aランク。
数万人いる探索者の中でも、上位1%に位置するエリートだ。
普通の高校生なら飛びつくだろう。
だが、俺にとっては「管理下に置かれる」という点が致命的だ。
(Aランクになれば、有事の際の緊急招集義務(強制出撃)が発生する。なにより、正式登録には厳密なID確認と生態認証が必須だ。俺が『死人』だとバレれば終わる)
自由がなくなる。盆栽をいじる時間が減る。
「お断りします」
「……はい?」
「私はただの新人JKです。学業が忙しいので、ギルドの依頼を受ける暇はありません」
俺はきっぱりと言った。
工藤が頭を抱える。
「いやいや、無理がありますよ! その実力で『ただのJK』は通りません!」
「通します。……それとも、私がそう証言しましょうか? 『ギルドが未成年を脅迫して、無理やり危険な任務につかせようとしている』と。拡散力には自信がありますよ」
俺は少しだけドスを利かせた。
工藤がビクリと震える。
彼はため息をつき、諦めたように肩を落とした。
「……わかりました。登録は保留とします。ただし、条件があります」
「条件?」
「近々、中層階で未知のエリア攻略作戦があります。Aランクのような『義務』ではありませんが、スポット参戦の『協力要請』を出したい。……あくまで外部協力者として、報酬もお支払いします」
なるほど。
強制力のない「お願い」という形に落とし込んだか。
それくらいなら、妥協点としては悪くない。
「わかりました。気が向いたら、手伝います」
「……ありがとうございます。はぁ、胃が痛い……」
工藤は胃薬を取り出して飲み込んだ。
苦労人らしい。
こうして、俺はなんとかギルドの勧誘を躱すことに成功した。
だが、工藤が言っていた「大規模な討伐作戦」。
これが、俺の平穏な日常を壊す引き金になるとは、まだ知る由もなかった。
帰り道。
俺はふと、視線を感じて振り返った。
人混みの中に、見覚えのあるシルエットがあった気がした。
かつての部下、『剣聖』に似た後ろ姿。
「……まさかな」
俺は気のせいだと自分に言い聞かせ、帰路についた。
早く帰って、黒松に水をやらなければ。




