第52話:漏洩源を狩れ
学園の補給搬入口で、金属コンテナがひっくり返っていた。
発見時刻は朝六時。
中身は保存食と医療キット。段ボールには弾痕が二つ。
「……未遂で済んだか」
俺はしゃがみ込み、コンクリ床の擦過痕を指でなぞった。
トラックが止まった位置にだけ、タイヤ痕が濃い。待ち伏せする側が到着時刻を正確に知っていなければ、こうはならない。
田中が後ろで電話を切った。
「運転手は軽傷、護衛は無事。襲撃班は撤収済みです」
「補給時刻が漏れてる」
「ええ。秒単位で」
七日後の予鈴。そこへ向けた事前削りだ。
俺は立ち上がり、散乱した箱を見渡した。
「情報の流し方を変える。今日から会議は三つに割る」
◇
午後。研究棟の空き教室。
ホワイトボードに、三本の矢印を書いた。
Aルートは正門搬入。
Bルートは地下搬入口。
Cルートは外周倉庫経由。
「全部、偽だ」
セナがタブレットを抱えたまま頷く。
「配布先も分ける。Aは教務、Bは運営、Cは警備。漏れた経路だけを追えば、犯人の巣が分かる」
「反応はどう取る?」
俺の問いに、田中が薄い笑みを作った。
「こちらで餌を撒きます。配送ドローンのダークリスト監視と、外部SNSの時刻一致検索。三十分以内に釣れれば上出来です」
アーサーが腕を組んで唸る。
「隊長、候補生にはどう説明を?」
「演習だ。『機密管理訓練』って言っとけ」
「便利な言葉ですね」
便利なのは事実だ。
戦場では「訓練」と「本番」は紙一枚しか違わない。
その一時間後、校内掲示板に『機密管理訓練のお知らせ』が貼られた。
内容はもっともらしいが、細部は全部嘘だ。
廊下を歩いていた一年生が首を傾げる。
「え、機密管理って何するの?」
「たぶん反省文の書き方テストじゃない?」
悪くない。
それくらい緩い認識の方が、敵も油断する。
◇
放課後、各系統へ偽資料を流した。
俺は監視室で時計だけを見ていた。
五分。
十分。
二十分。
セナが先に反応した。
「来た。外部の匿名掲示板に“地下搬入口”の時刻情報が投稿。投稿元は使い捨て回線」
「Bルートか」
田中が即座に回線追跡を走らせる。
「同時刻に敵ドローンが学園西側へ接近。……ただし途中で旋回。偵察だけで引いてる」
俺は監視画面を拡大した。
ドローンの飛行高度が低い。操縦手は現場を見ているタイプだ。
「漏洩は単発じゃないな。試し打ちだ」
「賛成です」
田中がキーボードを叩き、B配布先の端末ログを抽出する。
一覧の中に、不自然な一点があった。
「このID……教務副主任の権限を使ってるのに、端末の物理位置が違う」
「なりすまし?」
「いえ、認証そのものは正規。つまり“中の人”です」
胃に嫌な重さが落ちる。
外敵より面倒なのは、鍵を持った味方だ。
「田中さん、会議室を押さえろ」
「この時間からですか?」
「今夜のうちに偽作戦会議を開く。三ルートの閲覧履歴をもう一段掘る」
田中が短く頷く。
「拘束は?」
「まだだ。先に“誰が鍵を回してるか”を確定する」
俺はモニターのBルートを指で弾いた。
「向こうは試し打ちを終えた。次は回収に来る」
「……つまり、罠を張る」
「ああ。今夜、狩る」
監視室の窓に、俺と田中の顔が重なって映る。
片方は疲れ切った役人、もう片方は制服姿の元傭兵。
どちらにせよ、徹夜は確定だ。
夜が明ける前に、偽情報の第二波を流す。
向こうが次に噛む餌は、こちらで選ぶ。




