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第37話:絶望の咆哮

 校庭の闇の中から現れたのは、通常のオークの二倍はある巨体だった。

 赤黒い肌に、異常に発達した筋肉。

 右腕には、校門の鉄扉を引きちぎって作った即席のシールドが握られている。


「……変異種ミュータントか。一番会いたくない客だな」


 俺はHK416のトリガーに指をかけつつ、小さく息を吐いた。

 視界が少しブレる。

 体温が異常に高い。

 『若返りの呪い』が、俺の戦闘思考モードを異物として排除しようと暴れているのだ。


「ゴオオオオオオオ!!」


 変異種が咆哮と共に突進してくる。

 速い。

 あの巨体で、戦車のような速度だ。


「散開! 窓から離れろ!」


 俺が叫ぶと同時に、変異種が壁ごと南校舎の入り口に激突した。

 ドゴォォォン!!

 コンクリートが砕け、積み上げた机のバリケードが紙細工のように吹き飛ぶ。


「うわあああああ!?」


 生徒たちの悲鳴。

 俺は粉塵の中に飛び込み、変異種の死角へと回る。

 HK416の残弾をフルオートで叩き込む。


 カカカカカッ!


 着弾。だが、赤黒い皮膚は鋼鉄のように硬い。

 数発が突き刺さるが、致命傷には程遠い。


「硬ェな……!」


 変異種が裏拳を振るう。

 本来なら余裕で避けられる軌道。

 だが、身体が鉛のように重い。

 俺はライフルを盾にして、衝撃を受け流すことしかできなかった。


 ガガッ!!

 強烈な衝撃が全身を走り、後方の壁まで吹き飛ばされる。


「が、はっ……!」


 背中を強打し、肺の空気が強制排出される。

 視界が明滅する。

 まずい。意識が飛びそうだ。


「ゴァァァァ!」


 変異種が、動けなくなった俺にトドメを刺そうと拳を振り上げる。

 終わったか――そう思った、瞬間。


「……させない!!」


 ヒュオオオオッ!!


 横合いから、鋭い風の刃が変異種の顔面を襲った。

 委員長の『風魔法』だ。

 威力は低いが、目線を逸らすには十分だった。


「みんな! 何か投げて! 七瀬さんを助けて!!」

「う、うおおおお!」

「死ねぇぇぇ!!」


 彼女の声に呼応し、他の生徒たちも動き出す。

 石つぶてのような魔法、あるいは手近にあった椅子や消火器。

 それらが一斉に変異種へと降り注ぐ。


 ダメージは皆無だ。

 だが、その「殺意の集中」が、変異種の注意ヘイトを俺から逸らした。


「……上等だ、クソガキども」


 俺は口元の血を拭い、ベストから最後のスタングレネードを抜いた。

 ピンを抜き、少しだけレバーを緩める。

 ……カウント開始。


 俺は残った力を振り絞り、変異種の足元へスライディングした。

 巨体がこちらを向くのと同時に、俺はその股下を潜り抜ける。

 すれ違いざま、手の中のグレネードを変異種の腰紐にねじ込んだ。


「プレゼントだ。受け取れ」


 俺が背後の机の陰に飛び込んだ直後。


 ドムッ!!!!


 鈍い爆発音と共に、強烈な閃光と衝撃波が炸裂する。

 至近距離での炸裂、しかも装甲の薄い股間付近。

 変異種が苦悶の声を上げて膝をつく。


「今だ……!!」


 俺は硝煙を切り裂いて飛び出した。

 右手にコンバットナイフ。

 狙うは一点、無防備になった首筋の裂け目。


 ズプッ。


 刃が深々と吸い込まれる。

 俺は体重を乗せ、そのまま横に薙ぎ払った。


「カ、ハ……」


 大量の血飛沫が舞い、変異種の巨体がゆっくりと沈んでいく。

 ズズ……ン。

 地響きと共に、動かなくなった。


「や、やった……?」

「勝った……のか?」


 生徒たちの震える声が聞こえる。

 俺はナイフを引き抜き、振り返ろうとして――


 ガクン。


 膝から力が抜け、その場に崩れ落ちた。

 視界が暗転していく。

 遠くで委員長が俺の名前を呼ぶ声がしたが、返事をする気力はもう残っていなかった。



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