第35話:孤高の籠城戦
「入るぞ! 中の安全確保は済んでいる!」
俺の声に、道中で合流し、引き連れてきた生徒たちが南校舎の1階ホールへとなだれ込む。
人数は約30名。
先ほど俺が先行して突入し、中にいたゴブリン数匹を処理したばかりだ。
幸い、この校舎はまだモンスターも侵入していない。
「ハァ……ハァ……!」
「助かった……のか?」
「パパ……ママ……」
安堵で泣き出す者、腰を抜かす者、スマホで外部と連絡を取ろうとする者。
戦場における典型的な「避難民」の反応だ。
だが、ここで気を緩めるわけにはいかない。
「入り口を閉鎖しろ! ただちに机と椅子を積み上げろ! バリケードを作るんだ!」
俺の怒声に近い指示に、生徒たちがビクリと震える。
「え、でも……」
「そんなこと言われても……」
「動け!! 死にたくないなら手を動かせ!」
俺は近くにあった教卓を、強力な脚力で蹴り飛ばした。
ドォォォォン!! と凄まじい轟音がホールに響く。
その暴力的な音が、逆に彼女たちの混乱を「恐怖による服従」へと切り替える。
今はそれでいい。思考停止でもいいから、動いてもらわなければ全滅する。
「……わ、わかった! やろう!」
「机を持ってくればいいのね!?」
数人の男子生徒が動き出し、それに釣られて女子たちも動き始めた。
俺はその間に、校舎の窓ガラスごしに外の様子を確認する。
(オークの第二波……数はざっと20。ワイバーンは上空で牽制中、か)
外では自衛隊のヘリ音が聞こえ始めているが、まだ遠い。
ここに到達するまでに、この校舎が保つかどうか。
「ガアアアアア!!」
バリケードが完成する前に、ガラスを割ってオークが1体侵入してきた。
「ひっ!?」
「来るな! うわあぁぁぁ!!」
生徒たちが悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
俺は舌打ちをしつつ、HK416を構え――そして、下ろした。
(……いや、弾が惜しい)
対魔弾の残弾はマガジン3本分。
この規模のスタンピードで、たかがオーク1体に数発も使っていられない。
チャッ。
俺はライフルを背負い、右太腿からコンバットナイフを抜いた。
逆手持ち。
姿勢を低くし、突進してくるオークの正面へと躍り出る。
「グルァァァ!」
オークが丸太のような腕を振り下ろす。
その軌道を読み切り、半歩だけ横へずらす。
風圧が前髪を揺らすのと同時に、俺のナイフが閃いた。
ザシュッ。
「――っ?」
オークの動きが止まる。
その喉元には、深々とナイフが突き刺さっていた。
頸動脈と神経を同時に断つ、精密な一撃。
巨体が音もなく崩れ落ちる。
「……え」
逃げ惑っていた生徒たちが、その光景を見て足を止めた。
小柄なJKが、巨体の怪物をナイフ一本で瞬殺した。
その現実が、彼女たちの脳内で処理しきれていないようだ。
「……何を見ている。バリケード作りはどうした?」
俺がナイフの血を振り払いながら告げると、彼女たちはハッとして作業に戻った。
だが、その視線は先ほどまでの「変な同級生を見る目」ではない。
何かにすがるような、あるいは畏怖するような目つきに変わっていた。
(……これで完全に「普通のJK」は廃業だな)
俺は壊れた窓の隙間から、次の敵影を探した。
孤立無援の籠城戦。
「1日署長」ならぬ「1時間教官」の始まりだ。




