第34話:戦場のJK
――米国、ペンタゴン。地下司令室。
「日本管区(セクターJ)、第3エリアにて、クラス4規模の魔素暴走を確認」
無機質なオペレーターの声が響く中、モニターには極東の島国が赤く染まっていた。
深夜の司令室で、コーヒーを片手にその様子を眺める男がいた。
統合参謀本部、マクドガル将軍。
かつて『伝説』と呼ばれた傭兵部隊と、幾度となく戦場で関わった古参の軍人だ。
「……始まったか」
「将軍。日本の自衛隊およびギルドの反応、遅れています。初動の制空権はモンスター側に奪われる見込みです」
「構わん。我々が見るべきはそこではない」
将軍はモニターの一点を指差した。
衛星映像の解像度を上げる。
映し出されたのは、パニックに陥る学校の屋上。
そこから飛び出した、一人の『少女』の影だった。
「ターゲット、旧コード『灰色の亡霊』――現識別名『銀の亡霊』、映像入ります」
「見せてもらおうか。52歳の老兵が、どれほどの舞踏を踊れるようになったのかを」
◇
上空30メートル。
俺は屋上のフェンスを蹴り、空中で体を捻った。
「ギャオオオオオ!!」
眼下には、校庭に降りようとするワイバーンの群れ。
生徒たちを『餌』として認識した捕食者の目だ。
「……通行料(タマ代)が高くつくんだよ、お前らは」
俺は空中でHK416のセレクターを『FULL(連射)』に合わせた。
装填されているのは、一発5000円の対魔弾。
正直、財布には痛いが、背に腹は代えられない。
カカカカカカッ!!
乾いた銃声が響き渡る。
マズルフラッシュが空を焼き、放たれた弾丸がワイバーンの翼膜を食い破った。
「グギャッ!?」
魔素膜ごと貫通されたワイバーンがバランスを崩し、きりもみ状態で墜落していく。
俺は反動を利用して姿勢を制御し、着地と同時に次弾を装填。
そのままスライディングで校庭の中央へ滑り込んだ。
「きゃああああ!!」
「いやだぁぁ! 来ないでぇぇ!!」
逃げ遅れた女子生徒たちが、オークの集団に追い詰められていた。
オークが棍棒を振り上げる。
パンッ。パンッ。
二発の銃声。
オークの頭が弾け飛び、巨体がドサリと倒れた。
返り血を浴びないギリギリの位置で、俺は銃口を下ろした。
「……え?」
腰を抜かした女子生徒が、呆然と俺を見上げる。
制服のスカートに、タクティカルベスト。
太腿にはホルスター、手にはアサルトライフル。
今の俺は、コスプレ会場でも浮くような奇抜な格好だろう。
「立てるか?」
「は、はい……あの、あなたは……?」
「ただの通りすがりだ。……南校舎の1階が空いている。そこへ走れ」
俺は短く告げると、彼女たちの返事を待たずに踵を返した。
次なる敵影。
上空から、さらに10体ほどのワイバーンが急降下してくる。
(……数が多いな。弾薬管理がシビアになりそうだ)
俺はベストからスタングレネード(閃光手榴弾)を抜き、ピンを弾き飛ばした。
投擲。爆発。
カッ!!!!
強烈な閃光がワイバーンの視界を奪う。
怯んだ隙に、俺はトリガーを引き絞った。
精密射撃と制圧射撃のスイッチ。
一発も無駄にせず、急所のみを撃ち抜いていく。
ドサドサドサッ!
空から巨大な蜥蜴の雨が降る。
その光景を、校舎の窓から生徒や教師たちが呆然と見つめていた。
「す、すげぇ……」
「なんだあれ……映画の撮影か?」
「いや、あれはたぶん……」
誰かが呟く声が、俺の『集音』スキル(実はただの聴覚)に届く。
「……『新人JK』だ」
正体がバレるのは不味いが、今はどうでもいい。
今はただ、この領域に入った敵を殲滅するだけだ。
俺はマガジンを交換し、次の標的へ銃口を向けた。
上空の雲間で、衛星レンズの反射が一瞬だけ光る。
同時に端末へ田中から短文が入った。『上を見られてる。続行を』
返事はせず、照準だけを合わせ直した。




