第31話:決戦(中編)
「――戦争の時間だ」
俺がそう呟いたのと同時だった。
ドォォォォン!!
研究所の分厚い壁が、紙切れのように吹き飛んだ。
「お待たせしました、隊長! 清掃業者が到着しましたぞ!」
瓦礫と共に飛び込んできたのは、黄金の騎士だった。
アーサー・ペンドラゴン。
全身から魔力を放出させ(本人は「闘気」と呼んでいる)、嬉々とした表情で大剣を担いでいる。
「……遅い」
「はっはっは! 正面のゴミ掃除に少々手間取りまして! ですが、おかげで良い汗をかきました!」
アーサーは豪快に笑い、俺の隣に立った。
その背中には、一切の迷いがない。
かつて戦場で何度も見た、最も信頼できる背中だ。
「……ふふ、仲間か。美しい友情だね」
白衣の男――黒幕の研究者が、狂ったように笑った。
彼は懐からリモコンを取り出し、赤いボタンを押した。
「だが、私の『最高傑作』たちの前で、いつまでその余裕が続くかな?」
「グルゥゥゥゥ……!」
開放されたカプセルから、異形の怪物たちが這い出してくる。
オークの筋肉に、爬虫類の鱗。
ゴブリンの俊敏さに、猛獣の爪。
魔石を埋め込まれ、無理やり強化された合成獣の群れだ。
その数、約50体。
「……趣味が悪いな。命を玩具にするのは、三流のすることだ」
「科学と言ってくれたまえ! さあ、食事の時間だ!」
男の号令と共に、キメラたちが一斉に襲いかかってきた。
通常の魔物とは違う、不規則で狂暴な殺気。
だが。
「アーサー」
「はい!」
「汚物は消毒だ。……綺麗にしろ」
「御意!!」
アーサーが大剣を薙ぎ払った。
ただの一振り。
それだけで、先頭の5体が上下真っ二つになった。
断面から血ではなく、濁った体液が噴き出す。
「ぬるい! ぬるいぞぉぉぉ! 貴様らの刃など、我が鎧には届かん!」
アーサーは防御を捨てて突っ込んだ。
キメラの爪が鎧に当たるが、金属音すら立てずに弾かれる。
聖剣の加護(物理耐性UP)だけで受け止めているのだ。
まさに歩く要塞。
その隙に、俺は影のように動いた。
狙うのは関節、そして魔石が埋め込まれた急所だ。
シュッ。
すれ違いざまに、キメラの膝裏をナイフで斬る。
崩れ落ちたところを、眉間に一撃。
ナイフを抜くと同時に回し蹴りで距離を取り、次の獲物へ。
「……8体目」
俺とアーサー。
タイプは真逆だが、連携は完璧だった。
アーサーが敵を集め、豪快に粉砕する。
その取りこぼしを、俺が確実に仕留める。
かつて傭兵団で確立された、必勝のパターンだ。
「な……なんだ、お前たちは……!?」
「ただの清掃業者だ」
研究者の顔が引きつり始める。
彼は焦ったようにコンソールへ走り、キーボードを叩き始めた。
「あり得ない! 私の傑作たちが……こんな、ただの人間ごときに!」
「人間を舐めるなよ。……それに」
俺は最後の1体を処理し、ナイフの血を振るった。
「俺たちは『ただの人間』じゃない。……『引退した』人間だ」
「訳が分からないことを言うな!」
男が叫び、エンターキーを叩きつけた。
ブブブブブブ!!
研究所内に赤い回転灯が回り、警報音が鳴り響く。
モニターに『CODE: RED』『OVERLOAD』の文字が表示された。
「……隊長! 様子がおかしいですぞ!」
「ああ。……どうやら、最後の悪足掻きらしいな」
部屋の中央にある巨大な培養槽。
そこには、他の実験体とは比較にならないほど巨大な影が浮かんでいた。
黒い魔力が渦を巻き、ガラスにピキピキと亀裂が入っていく。
『師匠! 逃げて! そいつ、エネルギー反応が桁違いだよ! このままだと研究所ごと吹き飛ぶ!』
セナの悲鳴のような警告。
研究者は狂喜の表情で両手を広げた。
「見よ! これが『ウロボロス』の最終兵器! 人工ダンジョン・コアとの融合体……『暴食の王』だ!」
パリンッ!!
ガラスが砕け散り、黒い霧と共に魔物が解き放たれた。
その姿は、かつて俺たちが倒したどの魔物よりも禍々しく、そして――似ていた。
あの『スタンピード』の絶望に。
「……やれやれ」
俺はため息をつきつつ、ナイフを強く握り直した。
どうやら、定時(門限)には帰れそうにない。
「アーサー。……残業代は出るんだろうな?」
「はっはっは! 国に請求しておきましょう!」
最悪の決戦が、幕を開ける。




