第30話:決戦(前編)
「我こそはアーサー・ペンドラゴン! 悪しき魔道を操る者どもよ、正々堂々と勝負せよ!」
ズドォォォォン!!
深夜の廃線エリアに、場違いな爆音と名乗り口上が響き渡った。
金色の光(聖剣の加護による魔力放出)が闇を切り裂き、地下鉄の崩落した壁を粉砕する。
瓦礫の山から現れたのは、黄金の鎧に身を包んだ『剣聖』だった。
「ひ、光ってる……!?」
「な、なんだあいつは!」
「侵入者だ! 撃てぇぇぇ!」
暗闇に潜んでいた教団の守衛たちがパニックに陥り、一斉射撃を開始する。
しかし、アーサーは笑っていた。
「甘い! 我が盾は不落である!」
銃弾の雨を、見えない魔力の障壁が弾き返す。
彼は悠然と歩を進め、大剣を振るった。
衝撃波だけで敵が吹き飛ぶ。
(……阿呆か、あいつは)
その光景を、俺は遠くの鉄骨の上から見下ろしていた。
派手にも程がある。
だが、効果は絶大だ。
地下に潜んでいた「ネズミ」たちが、一斉にあの「光る標的」に向かって群がっていく。
『こちらオペレーター。敵の防衛ライン、8割がアーサーさんに引きつけられました。……師匠、今のうちに』
インカムからセナの声が聞こえる。
俺は暗視ゴーグル(NVG)を調整し、ニヤリと笑った。
(了解。……仕事の時間だ)
俺は音もなく闇に溶けた。
◇
敵のアジトへの侵入ルートは、セナが特定した通気口だった。
旧時代の換気システムを利用しており、警備が手薄なポイントだ。
俺はダクトの中を匍匐前進で進んだ。
狭い。埃っぽい。
だが、戦場の泥水に比べれば高級ホテルのようなものだ。
10分ほど進むと、格子の隙間から明かりが見えた。
下の部屋には、見張りの男が二人。
アーサーの騒ぎを気にしつつも、持ち場を離れられないようだ。
「……おい、さっきの爆発音、なんだ?」
「知るかよ。どうせまたモンスターが暴れてるんだろ……」
男が無線機に手を伸ばした瞬間。
俺は格子を蹴破り、真上から強襲した。
ガシャン!
「なっ……!?」
一人の首に両足を絡め、落下の勢いで回転させてへし折る。
着地と同時に、もう一人の懐に滑り込む。
ナイフを逆手で握り、喉元を正確に切り裂いた。
「……が、ぁ……」
声帯を潰し、悲鳴すら上げさせない。
二つの死体が崩れ落ちるのと同時に、俺はナイフの血を振るった。
「クリア」
所要時間、2秒。
この体(JKの身体能力)にも慣れてきた。
体重が軽い分、加速が鋭い。筋力不足を補って余りあるメリットだ。
『……相変わらず、エグい動きですね』
セナの声が少し引いているのが分かった。
俺は死体を物陰に隠し、端末を操作して電子ロックを解除した。
「セナ、構造図を送れ」
『転送済み。……この先、地下3階層が「製造プラント」になってるみたい』
「了解」
俺は通路を走った。
足音は立てない。気配も消す。
監視カメラはセナがループ映像に差し替えている。
俺は『存在しない幽霊』として、敵の中枢へと迫っていく。
◇
5分後。
俺は巨大な吹き抜け空間に出た。
そこには、俺の予想を超える光景が広がっていた。
「……おいおい、マジかよ」
かつての地下鉄ホームを利用した広大な空間。
そこに並んでいたのは、培養液で満たされた無数のカプセルだった。
中には、人間ともモンスターともつかない、異形の生物たちが眠っている。
『何これ……。キメラ?』
セナの息を呑む声。
カプセルの一つに近づいてみる。
そこには『実験体No.108:オーク・ロード改』というラベルが貼られていた。
「スタンピードを起こすだけじゃない。……こいつら、独自の戦力を作ろうとしてやがる」
思った以上に根が深い。
ただのカルト教団の残り火ではない。
明確な意志と、資金力を持った組織の一部だ。
その時。
背後で、カツン、と靴音がした。
「――ようこそ、私の実験場へ」
振り返ると、白衣を着た男が立っていた。
痩せぎすで、神経質そうな顔立ち。
だが、その目は狂気で濁っていた。
「君が『新人JK』か。……ふふ、素晴らしい素材だ」
男が指を鳴らす。
すると、周囲の培養カプセルが一斉に開き始めた。
プシュゥゥゥ……!
白煙と共に、異形の怪物たちが目を覚ます。
「さあ、テストを始めようか。君のDNA、是非とも採取させてもらいたい」
俺はナイフを構え、深く息を吐いた。
どうやら、簡単には帰してもらえそうにない。
「……セナ、アーサーを呼べ」
『え?』
「作戦変更だ。……ここは『掃除』が必要だ」
俺はニヤリと笑った。
久しぶりの大掃除だ。
中途半端な隠密はここまで。
ここからは――戦争の時間だ。




