第29話:特定(敵アジト)
「……結論から言うと、これは『爆弾』ね」
放課後の理科準備室。
そこは現在、俺たち『チーム・JK(仮)』の作戦本部となっていた。
白衣を着た如月セナが、モニターに映し出された解析データを指して言う。
「あの黒い粉末、主成分はダンジョンの魔石だけど、配列が意図的に書き換えられてる。……これを散布することで、周囲の空間の魔素濃度を強制的に引き上げ、モンスターをごく局所的に『興奮状態』にさせる」
「人工的なスタンピード、か」
俺は腕を組んで唸った。
予想はしていたが、やはり黒幕の技術力は侮れない。
自然発生に見せかけて、指定した場所でパニックを起こせる兵器。
これを都市部で使われれば、大惨事になる。
「で、これを作った奴らの正体だが……」
俺は視線を部屋の隅に向けた。
そこには、昨日の襲撃者(捕縛済み)から剥ぎ取った情報――タトゥーの写真を見つめる、スーツ姿の男がいた。
『剣聖』アーサー・ペンドラゴン。
今はアカデミーの臨時講師という肩書きだが、その実態は俺の忠実な部下だ。
「……見覚えがあります、隊長」
アーサーが厳しい顔で顔を上げた。
「この蛇と鍵の紋章。……カルト教団『ウロボロス』の分派、通称『鍵の守り手』です」
「ウロボロス?」
「ええ。10年ほど前に壊滅したはずの過激派組織です。『ダンジョンの力で人類を進化させる』などと謳い、人体実験やテロを繰り返していた連中です」
聞き覚えがある。
現役時代、何度かそいつらの施設を破壊したことがあった気がする。
当時の俺にとっては「掃除」の一部でしかなかったが、まだ残党がいたのか。
「しつこい連中だな。ゴキブリ並みだ」
「全くだな。……で、そいつらの巣は何処だ?」
俺が問うと、セナがキーボードを叩いた。
「粉末に微量に含まれていた『付着物』と、襲撃者の装備に付いていた泥……そこに含まれる魔素波長と、旧地下鉄エリア特有の鉱物成分の照合。そこから特定したわ。彼らの拠点は、ここ」
モニターにダンジョン都市の地下地図が表示される。
赤い点が点滅しているのは、第3区画の地下深層。
現在は封鎖されている、旧地下鉄の廃線エリアだ。
「……なるほど。廃線跡か。ネズミが隠れ住むにはおあつらえ向きだな」
「地下鉄のトンネルは、そのままダンジョンの一部と繋がってる箇所があるの。そこを利用して、独自のルートを確保してるみたい」
セナの解説を聞きながら、俺は作戦を組み立てた。
敵の正体は判明した。
拠点の場所も割れた。
やることは一つだ。
「……潰すぞ」
俺の一言に、部屋の空気が張り詰めた。
アーサーが嬉々として剣の柄に手をかける。
「了解です、隊長! 正面から突入して、全員斬り捨てればよろしいので?」
「馬鹿者。それは最終手段だ」
俺はアーサーの頭を軽く叩いた(手加減したが、彼は嬉しそうだった)。
「いいか、今回の目的は二つ。敵拠点の制圧と、情報の確保だ。特に『黒い粉末』の製造プラントと、黒幕の研究データ。これらを破壊、または奪取する」
「なるほど。隠密作戦ですね」
「そうだ。……だが、俺たちが動けば目立つ。特にアーサー、お前は顔が知られすぎている」
Sランク冒険者が廃線エリアをうろついていれば、即座に警戒されるだろう。
「アーサー、お前は『陽動』だ」
「陽動、ですか?」
「ああ。お前は正規の手続きでギルドに申請を出し、派手に『廃線エリアの定期巡回』を行え。マスコミも引き連れて構わん」
「おお! つまり、俺が敵の目を引きつけている間に、隊長が裏から……!」
「そういうことだ。……セナ、お前は後方支援だ。俺の通信を確保し、敵のセンサーをジャミングしろ」
「了解。師匠のナビゲートができるなんて光栄」
セナが不敵に笑う。
頼もしい奴らだ。
俺はHK416のマガジンチェックをしながら、ニヤリと笑った。
「作戦開始は今夜2200(フタフタマルマル)。……久しぶりの夜勤だ。気合を入れろよ」
「「イエス・マム!」」
「……マムはやめろ」
◇
その夜。
ダンジョン都市の闇に、三つの影が動き出した。
伝説の傭兵、剣聖、そして天才少女。
世界最強の『新人JKチーム』による、最初で最後の(かもしれない)共同作戦が幕を開ける。




