第28話:最強の盾と矛
「それじゃあ、今後のルールを決める。アーサー」
誰もいない校舎裏。
俺は腕を組み、目の前で跪く金髪の騎士を見下ろした。
絵面だけ見れば「お姫様と騎士」だが、実態は「悪代官と手先」に近い。
「はい、隊長。何なりと」
「一つ、学校では俺に話しかけるな。赤の他人として振る舞え」
「了解」
「一つ、俺の正体がバレるような言動は慎め。敬礼も禁止だ」
「了解」
「一つ……俺の邪魔をするな。俺は『平穏な隠居生活』がしたいんだ」
アーサーが顔を上げ、少し困ったような笑みを浮かべる。
「それは……少し難しいかもしれません。貴方が戦場にいる限り、平穏などあり得ませんから」
「誰のせいだと思ってる」
「ですが、全力を尽くします。貴方の盾となり、あらゆる厄災を払いのけてみせましょう」
暑苦しい奴だ。
だが、こいつの実力は本物だ。利用しない手はない。
「ついて来い。もう一人、紹介する奴がいる」
俺はアーサーを連れて、セナの研究室へと向かった。
◇
「……へえ。この人が『剣聖』さん?」
研究室のソファで、セナが興味深そうにアーサーを見上げた。
アーサーは直立不動で敬礼している。
「初めまして。アーサー・ペンドラゴンです。隊長……いえ、七瀬嬢の部下です」
「部下なんだ」
「はい。命の恩人であり、師であり、崇拝の対象です」
「うわぁ……」
セナが若干引いている。
俺は頭を抱えた。こいつ、早速ボロを出してやがる。
「セナ、こいつは使える。表向きの面倒事は全部こいつに押し付けることにした」
「なるほど。タンク役ってことね」
「人聞きが悪いな。……まあ、そうだが」
俺はホワイトボードに図を描いた。
中心に『俺(一般JK)』。
その前に『アーサー(英雄)』を配置する。
「いいか、アーサー。お前の任務は『目立つこと』だ」
「目立つ、ですか?」
「そうだ。お前が派手に動けば動くほど、周囲の注目はお前に集まる。その隙に、俺が好き勝手に動く。……分かるな?」
「なるほど! 私が光となることで、貴方の影をより濃くするわけですね!」
アーサーが目を輝かせる。
ポジティブな奴だ。
「そういうことだ。特に『黒幕』絡みの案件は、お前が前面に出ろ。俺はあくまで『偶然居合わせた不運な美少女』として振る舞う」
「了解です! 任せてください、最高のピエロを演じてみせましょう!」
アーサーが胸を張る。
ピエロか。……案外、こいつには合っているかもしれない。
「それと、もう一つ」
セナが口を開いた。
「例の『黒い粉末』の解析が終わったよ。……やっぱり、私の予想通りだった」
空気が一変する。
アーサーも表情を引き締め、剣聖の顔になった。
「あれは、『人為的なダンジョン暴走』を引き起こすための触媒だ」
「……なんだと?」
「特定の周波数の魔力を流すことで、モンスターを興奮状態にさせ、強制的に活性化させる。……これを地下水道で使われたら、地上の街は終わるよ」
セナの言葉に、俺とアーサーは顔を見合わせた。
学園の地下に広がる広大なダンジョン。
そこで人為的なスタンピードが起きれば、この学園都市そのものがのみ込まれる。
「……面白い」
俺は獰猛に笑った。
平穏な隠居生活? そんなものはとっくに消え失せている。
売られた喧嘩だ。買わない理由はない。
「アーサー、仕事だ」
「はい、隊長」
「セナ、敵の潜伏場所を特定しろ」
「了解。……ふふ、楽しくなってきたね」
最強の矛と盾、そして最高の頭脳。
役者は揃った。
さて、反撃の時間だ。




