第27話:剣聖が近づきすぎる
「本日は特別講師をお招きしています。現役Sランク冒険者、『剣聖』アーサー・ペンドラゴン氏です!」
教室が黄色い歓声に包まれた。
教壇には、金髪碧眼の騎士然とした男が立っている。
アーサーだ。
かつての俺の部下であり、今は国民的英雄となっている男。
「……うげっ」
俺は思わず顔を伏せた。
あの掲示板騒ぎの件だ。まさか、俺を探すために講師として潜り込んでくるとは。
昨日の今日でこれか。
厄介事の連鎖が止まらない。
「やあ、未来の英雄候補たち。今日は実戦形式の講義を行う」
アーサーが爽やかな笑顔を振りまく。
女子生徒たちが目をハートにしてざわめく中、俺は気配を消すことに全力を注いだ。
幸い、俺の席は窓際の後ろだ。
モブに徹すればやり過ごせるはずだ。
「では、そこの彼女。手合わせを願おうか」
アーサーの指先が、真っ直ぐに俺を指していた。
……嘘だろ?
「えっ、わ、私ですかぁ?」
俺は声のトーンを2オクターブ上げ、内股で立ち上がった。
全力のJK演技だ。
「無理ですぅ~! 私、運動音痴なんでぇ~!」
「……ほう」
アーサーが目を細める。
その視線が、値踏みするように俺の全身を舐める。
まずい。こいつの「直感」は野生動物並みだ。
「遠慮はいらない。冒険者を目指すなら、剣の一本もかわせなくてはな」
アーサーが木剣を構える。
拒否権はないらしい。
俺はおっかなびっくり木剣を受け取った。
「い、いきますよぉ……えいっ!」
俺はへっぴり腰で剣を振った。
当然、アーサーは軽くかわす。
その瞬間。
アーサーの剣が、俺の首筋ギリギリを掠めた。
――ッ!
条件反射で体が動いた。
最小限の動きで回避し、カウンターでアーサーの鳩尾に肘を入れる――寸前で止まる。
「……きゃっ! あぶなーい!」
俺はその場に尻餅をついて誤魔化した。
心臓が早鐘を打っている。
危なかった。こいつ、殺気を出して本気で斬りかかってきやがった。
俺がプロ(同業者)かどうか試したんだ。
「……なるほど。運動音痴、か」
アーサーが意味深に笑う。
その目は笑っていなかった。
完全にバレている。
講義終了後。
俺は校舎裏に呼び出されていた。
夕日が差し込む静かな場所だ。
「……何の用ですか、先生」
「演技はもういいですよ。……隊長」
アーサーが静かに言った。
俺は溜息をつき、JK演技を解いた。
「……しつこい奴だ。あの森で、俺だと気づいていただろう」
「ええ。ですが貴方が『別人』だと言い張るなら、私の剣で証明するしかありませんから」
アーサーが悪びれもせずに言う。
俺は思わず声を荒げた。
「ふざけるな。さっきの一撃、本気だったぞ。俺が避けられなかったらどうするつもりだった」
「そんなことはあり得ません」
アーサーは真顔で断言した。
「貴方は隊長ですから。あんな木剣の一撃で死ぬはずがない」
「……俺が人違いだったら?」
「その時は、この剣で自らの腹を切り、地獄までお供するつもりでした」
こいつは……。
俺は戦慄した。
目がイっている。冗談ではない、こいつは本気だ。
狂信者ここに極まれり、か。
「……はぁ。分かった、お前の勝ちだ」
俺が折れると、アーサーはその場に膝をついた。
騎士の礼だ。
「生きていてくれて、よかった」
「……俺はもう死んだことになっている。お前の知る『隊長』はいない」
「分かっています。貴方が姿を隠さねばならない事情があることも」
アーサーが顔を上げ、真剣な眼差しで俺を見た。
「俺は黙ります。誰にも言いません。……だから、守らせてください。かつて貴方が俺たちを守ってくれたように」
その言葉に、嘘はなかった。
こいつは馬鹿正直で、融通が利かないが、裏切るような奴じゃない。
俺は頭を掻いた。
「……勝手にしろ。ただし、俺の邪魔はするなよ」
「了解です、隊長!」
アーサーが嬉しそうに敬礼する。
やれやれ。
最強のストーカー(?)を飼うことになってしまったようだ。




