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第26話:黒幕の手

「……出た。これ、ただの魔石じゃない」


 放課後の研究室。

 セナが顕微鏡を覗き込みながら、興奮気味に声を上げた。

 俺とセナは、昨日こっそり回収した「黒い粉末」の解析を行っていた。


「どういうことだ?」

「構造が人工的なの。自然界の魔石はランダムな結晶構造を持つけど、これは規則正しく配列されてる。……まるで回路図チップみたいに」

「つまり、誰かが作ったものか」


 俺は腕を組んだ。

 田中の反応からして予想はしていたが、やはり黒幕がいる。

 そしてその目的は、ダンジョンを人為的にコントロールすること。


「師匠。これを作った組織、相当な技術力を持ってるよ。……私の論文を引用してる形跡がある」


 セナが複雑そうな顔をする。

 彼女は天才だ。その知識が、知らぬ間に悪用されていた可能性がある。


「……許せない。徹底的に解析してやる」


 セナはタブレットを操作し始めた。

 画面に『D-Tube サーバー接続中』の文字が表示される。


「……ついでに、配信機材の新しいエンコーダのテストもさせてね」

「おい、遊んでる場合か?」

「遊びじゃないよ。高負荷時のデータ圧縮率を見たいの」


 セナがタブレットをいじりながら言う。

 画面には「テスト配信中」の文字。

 こいつ、本当にマイペースだな。


 その時だった。

 研究室のドアが、ノックもなく開かれた。


「如月セナだな」


 入ってきたのは、作業着姿の男たちだった。

 3人組。手には工具箱を持っているが、その歩き方は職人のそれではない。

 重心が低い。いつでも武器を抜ける姿勢だ。


「空調の点検に来た」

「頼んでないけど?」

「緊急メンテだ」


 男の一人が、無遠慮にセナへと歩み寄る。

 俺はソファから立ち上がり、二人の間に割って入った。


「……引き返せ。今は授業中だ」

「どけ、ガキ」


 男が俺の肩を掴もうとする。

 その瞬間、俺は男の手首を掴み、関節を逆方向に極めた。


「ぐあっ!?」


 男が膝をつく。

 俺はそのまま男の顔面を床に叩きつけ、背後から工具箱を奪い取った。


(……軽い。工具じゃないな?)


 手にした瞬間のバランス。

 中身が偏っている。

 俺は箱を開け、中身を確認せずに放り投げた。

 中から飛び出したのは、短機関銃サブマシンガンだった。


「なっ……!?」


 残りの二人が反応する前に、俺は空中の銃をキャッチし、構えた。

 セーフティ解除。初弾装填済み。いつでも撃てる。


「へえ、いい銃を使ってるな。正規軍の放出品か?」


 俺は冷ややかに笑った。

 男たちが動揺する。

 まさかJKに制圧されるとは思っていなかったのだろう。


『おいおい、なんだ今の動き!?』

『映画の撮影か?』

『すげえ! これドッキリ企画か!』


 机の上に置いてあったタブレットから、視聴者のコメントが流れる。

 さっき言っていた「エンコーダのテスト配信」が繋がったままだったらしい。

 タイミングが良いのか悪いのか。


「……くそっ、作戦変更だ! 強行突破する!」


 男たちが懐からナイフを抜いて襲いかかってきた。

 俺はため息をついた。

 プロなら、ここで撤退を選ぶべきだ。

 感情に任せて突っ込むなど、三流のすることだ。


「セナ、カメラを回しておけ。……いい映像が撮れそうだ」


 俺は引き金を引いた。

 ただし、銃口は天井に向けて。

 威嚇射撃。

 狭い室内で銃声が轟き、男たちが怯む。

 その隙に、俺は間合いを詰めた。


 銃床ストックで顎を打ち抜き、崩れ落ちた男の鳩尾を蹴り上げる。

 もう一人のナイフを避けて手首を掴み、背負い投げの要領で部屋の隅にある機材の山へと放り込んだ。


 ガシャーン!


 派手な音を立てて、男たちが沈黙する。

 所要時間、10秒。


『うおおおお! カッケーーー!』

『今の投げ技、柔道か?』

『いやCQCだろw 本格的だなこのチャンネル』


 視聴者たちは完全に「演出」だと信じ込んでいるようだ。

 俺は気絶した男の襟元をまさぐり、奇妙なタトゥーを見つけた。

 蛇と鍵を組み合わせたような紋章。


「……ビンゴだ」


 俺はそれをカメラに映らない角度で確認し、セナに目配せをした。

 セナが頷く。

 黒幕の尻尾を掴んだ。


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