第23話:短期講習・編入試験
数日後。
俺はギルドが運営する「探索者アカデミー」の正門前に立っていた。
巨大な敷地。最新鋭の設備。
そして、周囲には目を輝かせた若者たち(10代後半が中心)が溢れている。
「……場違い感がすごいな」
俺はため息をついた。
今日の俺は、指定された制服を着ている。
鏡で見たときは「意外と悪くない」と思ってしまった自分が恨めしい。
完全にコスプレだ。中身52歳だぞ。
今日は「短期特別講習」の編入試験だ。
田中からは「形式的なものだ」と言われているが、手を抜くわけにはいかない。
なぜなら、成績優秀者には「個室寮」や「武器持ち込み許可」などの特権が与えられるからだ。
盆栽の世話をするためにも、プライバシーの確保は絶対条件だ。
◇
午前の筆記試験。
……壊滅した。
問1:『ダンジョン内でモンスターに遭遇した際の、探索者として正しい初動法的解釈を述べよ』
俺の答え:『即座に眉間を撃ち抜く。法的解釈は事後処理班に任せる』
問2:『現代社会におけるマナーについて。配信中にドロップ品を横取りされた場合の対処法は?』
俺の答え:『実力行使で奪還する。あるいは相手の配信機材を破壊し、証拠隠滅する』
……どうやら、俺の常識は現代の常識と乖離しているらしい。
周りの受験生たちがスラスラと解答用紙を埋めていく中、俺は途中から鉛筆を転がしていた。
◇
午後の実技試験。
ここが勝負だ。
試験会場は、地下にある演習場。
仮想モンスター(ホログラムと衝撃フィードバックを組み合わせた最新システム)3体を、いかに早く、効率的に倒せるかが問われる。
俺の前の受験生が、華麗な魔法でゴブリンを吹き飛ばし、歓声を浴びている。
若いのに大したものだ。
「次、受験番号404番! 七瀬遙!」
俺の番だ。
俺は教官から支給用の訓練銃(ペイント弾仕様)を受け取り、フィールドに入った。
『開始!』
ブザーと同時に、3体のオークが出現する。
俺は走った。
真正面から突っ込む。
オークが棍棒を振り上げる――その懐に滑り込む。
タンッ、タンッ。
ゼロ距離射撃。
2発のペイント弾が、オークの顎下に着弾した。
脳を揺らされた判定になり、オークがデータとなって消滅する。
残り2体。
俺は立ち止まらずにスライディングし、障害物の陰に隠れた。
敵が視界を失った瞬間、反対側から飛び出す。
空中で2点バースト。
タンッ、タンッ。
タンッ、タンッ。
着地と同時に、残り2体も消滅した。
所要時間、4秒。
「……終了」
俺は銃を下ろして振り返った。
静寂。
試験官たちは口をあんぐりと開けていた。
「き、記録……4秒02!」
「はあ!? 歴代最速だぞ!?」
「今、何をした? 魔法もスキルも使ってないぞ!」
会場が騒然となる。
俺は「しまった」と思った。
最低限の動きで済ませたつもりだったが、それでもこのレベルの試験には過剰だったらしい。
手加減というのは難しい。
銃を返却しようと受付へ向かうと、一人の少女が近づいてきた。
小柄だ。14歳くらいか?
白衣のようなものを羽織り、タブレットを抱えている。
「……ねえ、貴女」
少女が俺を見上げ、興味深そうに目を細めた。
「今の射撃……わざと角度をつけて跳弾させたでしょ? そうしないと、あの位置から顎下への着弾は物理的にあり得ない。……普通のペイント弾なら壁に当たれば割れちゃう。でも貴女、入射角を極限まで浅く取ることで、弾を割らずに『滑らせて(スキップさせて)』軌道を変えたでしょ?」
「……!」
俺は足を止めた。
気づかれた?
今のほんの一瞬の小細工(跳弾を利用したテクニック)を?
「……偶然だ」
「嘘。計算式が見えたもん。貴女の動き、数値化するとすごく綺麗」
少女は「ふふっ」と不敵に笑い、俺の胸元(名札)を見た。
「404番……七瀬、遙? 新人さん? 私、如月セナ。よろしくね、変な動きのお姉ちゃん」
如月セナ?
田中が言っていた護衛対象か。
まさか、向こうから接触してくるとは。
俺は警戒しつつも、軽く頷いてその場を離れた。
……あの子、ただの天才じゃないな。
俺の動きを「数値」として見ていた。
嫌な予感がする。
俺の平穏な学園生活は、初日から波乱の幕開けとなりそうだ。




