第21話:包囲網(配信運営・ギルド・国)
翌朝。
PCを開いた俺は、画面に表示された「重要なお知らせ」に顔をしかめた。
『【重要】ダンジョン配信における安全対策の強化について』
送信元はD-Tube運営局。
内容はこうだ。
「昨今のダンジョン事故多発を受け、未成年配信者および低ランク探索者の配信には、5分間の遅延を義務付けます」
「……ちっ、面倒なことを」
遅延配信。
つまり、俺が何か喋ったりアクションを起こしても、視聴者に届くのは5分後ということだ。
これではコメントとのリアルタイムなやり取りができない。スパチャの反応も遅れる。
配信の味(ライブ感)が死ぬ。
お知らせには、PR動画が添付されていた。
再生すると、見知った顔が出てきた。
『みなさーん! ダンジョンは危険がいっぱい! 命を守るために、ルールを守って楽しく配信しましょう! D-Tube公認アンバサダーのキララです!』
とびきりの笑顔で安全講習を説くキララ。
お前、こないだ死にかけただろ。
仕事を選べよ……と思いつつ、俺は動画を閉じた。
キララも運営側に抱え込まれたか。外堀が埋まっていく音がする。
さらに、追い打ちは続く。
スマホが震えた。
非通知設定の着信。
出ると、事務的な男の声がした。
『――もしもし。冒険者ギルド監査部の者ですが』
「……何の用だ?」
『貴殿の登録データについて、数点の疑義が生じています。早急に本部まで出頭してください。拒否する場合は、ライセンスの停止も視野に入れています』
ギルドからの呼び出し。
来たか、という感じだ。
「新人JK」があれだけの動きを見せれば、不正(年齢詐称や替え玉)を疑われるのは当然だ。
だが、今の俺は本当に16歳の肉体を持っている。
DNA検査をされれば「身元不明の少女」という結果が出るだけだ。それはそれで詰む。
「……今は忙しい。後日連絡する」
俺は一方的に電話を切った。
だが、すぐにまた着信。
今度は見知らぬ番号だ。表示されているエリアコードは……首都「霞が関」周辺。
「……公安か、あるいは内閣情報調査室か」
田中だ。
あの男が、ついに直接動き出したらしい。
電話に出る必要はない。メッセージだけで十分だ。
着信を無視すると、すぐにショートメッセージ(SMS)が届いた。
『お久しぶりです、グレイ・ゴースト大尉。もし人違いでしたら失礼。ですが、貴方の盆栽の趣味は存じ上げております』
背筋が凍るような一文。
完全に特定されている。いや、最初からバレていたことだが、ここまで生活圏に踏み込まれているとは。
奴は「盆栽」という単語を出してきた。
これは脅しだ。「逃げれば、お前の大切な平穏(盆栽)がどうなるか分からないぞ」という。
「……クソが」
俺はスマホを投げ捨てそうになるのを堪えた。
完全に包囲されている。
・D-Tubeによる配信制限(資金源への圧力)。
・ギルドによる身分照会(社会的地位への圧力)。
・政府(田中)による直接的な脅迫(実力行使の予兆)。
逃げ道はない。
正面から突破する火力はあるが、それをやれば俺は「テロリスト」に認定され、二度と平穏な生活は送れない。
盆栽に水をやる日々は永遠に失われる。
「……なら、潜るしかないか」
俺は視線を部屋のカレンダーに向けた。
そこには、ギルドから届いていた通知書が貼ってある。
『未成年探索者向け・短期特別講習(通称:アカデミー短期コース)』
国とギルドが主導する、公的な教育プログラム。
これに参加している期間は、身分が「研修生」として保護される。
外部からの干渉も、教育上の配慮という名目で遮断できるはずだ。
いわば、台風の目。
「灯台下暗し。……一番監視が厳しい場所にこそ、一番の安息地がある」
俺は覚悟を決めた。
JKのフリをして学校に通う。
52歳の元傭兵にとって、それは戦場よりも過酷なミッションになるかもしれない。
だが、盆栽のためだ。
「やってやるよ。……JK生活」
俺は通知書を剥がし、カバンに放り込んだ。
戦いの舞台は、ダンジョンから「学校」へと移ろうとしていた。




