第20話:キララと買い物
数日後の週末。
俺は駅前のショッピングモールにいた。
隣には、私服姿のキララがいる。
今日は彼女の配信(買い物配信)に付き合わされる形だ。
「JKちゃん! 見て見て、このペン可愛くない?」
「……機能美を感じないな。グリップが滑りやすそうだ」
「もう、すぐそうやって実用性ばっかり言う!」
キララが頬を膨らませる。
カメラに向かって「みんな見てー、これが噂の塩対応だよー」とアピールしている。
同接はすでに3万人。俺とキララのコラボということで、注目度は高いようだ。
今日の目的は、例の「義務講習」に向けた準備だ。
建前上、俺は地方から出てきたばかりの貧乏学生(という設定)なので、学用品や生活雑貨を揃える必要がある。
キララは「視聴者参加型のコーデ対決もしようよ」と張り切っているが、俺の関心は別の場所にあった。
「次は防災グッズ売り場に行こう」
「えー? 雑貨屋さん見たいよー」
「ダンジョン都市に住む以上、備えは必須だ」
俺は渋るキララを連れて、ホームセンターエリアへと向かった。
◇
「おい、このパラコード(解けない紐)は強度が足りないぞ。人を吊り上げたら千切れる」
「人を吊る予定はないよ!?」
「この携帯浄水器はダメだ。泥水に対応していない」
「水道水しか飲まないから!」
「……ほう、このマルチツールは悪くない。銃の簡易分解にも使えそうだ」
「JKは銃を分解しません!」
俺のガチすぎる選定基準に、キララとコメント欄がツッコミを入れる。
『防災グッズの選び方が従軍経験者のそれ』
『人を吊る前提なの草』
『JK(重装備)』
『でも実際、この人なら泥水啜ってでも生き残りそう』
そんなやり取りをしながら、俺は最低限のキャンプ用品と、いくつかの工具を籠に入れた。
工具は「工作の授業で使う」と言い張ったが、実際は銃のメンテナンス用だ。
買い物を終え、カフェで休憩する。
キララがパンケーキを撮影している隙に、俺はスマホで検索をかけた。
『アカデミー 内部構造』
『ギルド 監査部 田中』
……めぼしい情報は出てこない。さすがにセキュリティは堅いか。
「ねえ、JKちゃん」
不意に、キララが声を落として言った。
カメラのマイクを切っている。
「……気づいてる? さっきから、つけられてるよ」
「ああ」
俺はストローでアイスコーヒーを混ぜながら答えた。
気づいていた。
モールに入った時から、3人の男が一定の距離を保って尾行している。
プロではない。足音がうるさいし、視線の隠し方も甘い。
「ストーカーかな? 警備員さん呼ぶ?」
「いや、いい。放置しろ」
「えっ、でも」
「ここで騒ぐと配信が止まる。……それに、たぶん『ただのファン』じゃない」
俺は視界の端で、尾行者の一人を確認した。
耳にイヤホン。手にはスマホ。
誰かと連絡を取り合っている。
(……黒幕の手先か? いや、それにしては雑だ)
おそらく、有名な配信者の特定を狙う「特定班」のリアル部隊だろう。
だが、タイミングが良すぎる。
俺が今日、ここに来ることを知っていたかのような動きだ。
◇
帰宅後。
俺はすぐに自室のカーテンを閉め、部屋の明かりを消した。
そして、ある疑念を確かめるために、配信用のドローンカメラを分解した。
「……やはりか」
基盤の裏側。
本来なら何もないはずの場所に、米粒ほどの小さなチップが埋め込まれていた。
GPS発信機と、音声送信機だ。
いつの間に?
いや、俺が寝ている間に忍び込むのは不可能だ。
となると、考えられるのは――
「ダンジョン内でのハッキング、か」
ドローンは無線で制御している。
探索中、俺が戦闘に集中している隙に、外部から制御を乗っ取ってデータを書き換えたか、あるいは接触させた小型ドローンを使って物理的に仕込んだか。
どちらにせよ、相当な技術力だ。
俺はPCを起動し、チップからデータを吸い出した。
解析ソフトにかける。
暗号化されているが、軍用レベルではない。
配信用に改造した際、映像転送の遅延をなくすためにセキュリティレベルを落としていたのが仇になったか。
数分でロックが外れた。
「……なんだ、これは」
ログに残っていたのは、大量の位置情報データと、俺の身体バイタルデータ。
そして、送信先のアドレスを示す文字列。
『Project_GHOST_Phase2』
ゴースト。
俺の傭兵時代のコードネームだ。
偶然の一致か?
いや、あえてこの単語を使っているとしたら、相手は俺の正体を知っている、あるいは「疑っている」ことになる。
「……軍の仕業じゃないな」
俺は独りごちた。
軍や政府がやるなら、もっと痕跡を消す。
このチップには「見つけてくれ」と言わんばかりの自己顕示欲(署名のようなコード癖)が残っている。
民間のハッカーか、あるいは研究者くずれか。
俺はチップを握りつぶした。
敵の正体は分からない。
だが、一つだけ確かなことがある。
俺はもう、ただの「新人JK」として遊んでいるわけにはいかないということだ。
「……上等だ。戦争がしたいなら、相手になってやる」
俺はニヤリと笑った。
52歳の古兵の血が、静かに沸騰し始めていた。




