第19話:剣聖、ご乱心(隊長捜索)
Sランク冒険者、『剣聖』アーサー・ペンドラゴンは、苦悩していた。
「……いない」
彼はダンジョン都市の繁華街で、カフェのテラス席に座り、深いため息をついた。
テーブルの上には、冷え切った紅茶。
道行く人々は、誰もが彼を振り返る。
無理もない。白銀の鎧(一応、街中用に輝きを抑えたものだが、それでも目立つ)を着た長髪の美男子が、深刻な顔で頭を抱えているのだ。
「隊長……一体どこへ行ってしまわれたのですか……」
あの日、第20層の森で遭遇してから数日。
アーサーは寝る間も惜しんで「新人JK」を探していた。
動画サイト、SNS、掲示板。あらゆる情報を漁ったが、手がかりは「銀髪の美少女」「凄腕」という点のみ。
個人情報は鉄壁のガードで守られている。
「あの動き、あのタイミング、あの口の悪さ……間違いなく隊長だった」
アーサーの脳裏に、かつての記憶が蘇る。
戦場を駆け抜ける『グレイ・ゴースト』。
彼の背中を追いかけ、彼に救われ、そして彼にこっぴどく叱られた日々。
アーサーにとって、隊長は父親であり、師であり、神に等しい存在だった。
「だというのに、なぜ逃げるのですか? しかも、あのような可憐な少女の姿で……」
そこでアーサーの思考が停止する。
隊長=美少女。
この方程式が、彼の真面目すぎる脳内ではどうしても成立しない。
だが、事実は事実だ。
ならば結論は一つ。
「……何らかの極秘任務(潜入捜査)で、女装を余儀なくされているのですね!?」
アーサーは拳を握りしめた。
なんて過酷な任務なんだ。
あの渋くてハードボイルドな隊長が、あえて恥ずかしいJKの格好をしてまで、世界の平和を守ろうとしている。
ならば、かつての部下として、全力でサポートせねばなるまい。
「すみません、そこの貴女」
アーサーは通りがかりの女子高生(本物)に声をかけた。
「ひゃっ、はい!?」
女子高生が顔を赤くして振り向く。
超有名人である剣聖に声をかけられたのだ。無理もない。
「この辺りで、銀髪の……そう、とても目つきの鋭い、歴戦の兵士のような気配を纏った女子高生を見かけませんでしたか?」
「え、えーと……銀髪の子ですか? コスプレとかじゃなくて?」
「いえ、地毛です。あと、歩き方がこう……常に重心移動を意識していて、隙のない感じです」
アーサーは実際に立ち上がり、隊長の(と彼が信じる)歩き方を真似してみせた。
腰を落とし、摺り足に近い独特の移動法。
タクティカル・ウォークだ。
「……いや、そんな歩き方してるJKいませんって」
女子高生はドン引きしていた。
「そうですか……。では、銃火器……特にアサルトライフルの取り扱いに長けていそうな女子高生は?」
「いるわけないじゃないですか! なんですかそれ、新しいラノベの設定ですか?」
「むぅ……おかしいな」
アーサーは首を傾げた。
女子高生は「イケメンだけど中身が残念すぎる」という顔をして去っていった。
その後も、アーサーは聞き込みを続けた。
武器屋、防具屋、ポーションショップ。
「すみません。ここ数日で、対戦車ミサイルを購入した女子高生はいませんか?」
「いえ、うちは普通の薬屋なんで……」
「対物ライフルのメンテナンスを依頼した少女を探しています。口癖は『掃除の時間だ』なのですが」
「帰ってくれ」
……成果はゼロだった。
それどころか、SNSでは新たな噂が拡散され始めていた。
『悲報:剣聖アーサー、本格的にご乱心』
『街中で好みのJKを物色してるらしい』
『「武器を持ったJKがいい」とか言ってたぞ。性癖が特殊すぎる』
『やっぱりストーカー疑惑はガチだったのか……』
アーサーはスマホを見て、また深くため息をついた。
「世間は、なぜ真実を理解しようとしないのだ……」
彼の中では、自分が変質者扱いされていることよりも、隊長の高貴な任務が理解されていないことの方が不満だった。
その時。
ふと、近くの大型ビジョンからニュース音声が流れてきた。
『――来月より開講される、探索者向けの短期養成機関、通称「アカデミー」ですが、今年から一般公募枠として、未成年の有望な探索者を受け入れる方針が固まりました』
『これに伴い、Sランク冒険者の数名が、特別講師として招かれる予定です』
「……アカデミー?」
アーサーは足を止めた。
未成年の探索者。
養成機関。
「もし、隊長がその身元を隠しつつ、公的に活動しようとしているなら……」
フリーランスの探索者には制限が多い。
だが、国の管理下にある「アカデミー」に所属すれば、仮の身分が得られるはずだ。
あの合理的な隊長が、それを見逃すはずがない。
「……ここだ」
アーサーの瞳に、使命感の火が灯った。
「私が講師として潜入し、内部から隊長をお守りする! これこそが、部下としての務め!」
方向性は致命的に間違っているが、行動力だけはSランクだった。
彼はすぐさまギルド本部へと走り出した。
講師の枠を、力尽くでも(コネを使って)もぎ取るために。
――彼がその行動に出たことで、主人公(隊長)にとって「最も会いたくない人物」が、「逃げ場のない場所(学校)」に君臨することになる決定的な瞬間だった。




