第18話:掲示板回『剣聖ストーカー疑惑』
その日の夜。
ネット上のダンジョン関連掲示板、およびSNSは、ある話題で持ちきりになっていた。
【悲報】Sランク冒険者『剣聖』アーサー氏、未成年の女子高生をストーキングか
101: 名無しの探索者
動画見た? マジで引くんだけど……
102: 名無しの探索者
見た見た。第20層で「学生証を見せろ!」って叫びながら女の子追い回してるやつなw
完全に事案だろこれ
103: 名無しの探索者
>>102
相手、あの新人JK配信者だろ?
「新人JK」チャンネルの。
104: 名無しの探索者
特定班早すぎワロタ
でも背格好とか装備の特徴(貧相な軽装)は一致してるな
105: 剣聖ファンクラブ会員No.3
アーサー様がそんなことするわけない!
これは悪質なディープフェイクです!
あの高潔なアーサー様が、女子高生の学生証なんて欲しがるはずがありません!
106: 名無しの探索者
>>105
いや、別の角度からの映像も上がってるぞ。
たまたま居合わせたパーティーが撮ったやつ。
「隊長! 待ってください隊長!」って叫んでる声も入ってる。
107: 名無しの探索者
隊長www
JKが隊長www
どんなプレイだよ
108: 軍事評論家(自称)
しかし、あのアーサーを撒くとはな。
映像を見る限り、煙玉の使い方が玄人だ。
着弾のタイミング、風向きの計算、離脱ルートの選定。すべてが完璧すぎる。
ただの女子高生じゃないぞ、あれは。
109: 名無しの探索者
出たよ軍事オタク。
どうせ適当に投げたら当たっただけだろ。
110: 名無しの探索者
それより気になったんだけど、この拡散されてる動画、なんかノイズすごくない?
第20層ってそんなに電波悪かったっけ?
111: 名無しの探索者
>>110
わかる。
俺も現地で似たようなの撮ったことあるけど、こんな砂嵐みたいなノイズ入らんよ。
それに、この映像……画角がおかしくないか?
ドローンにしては高すぎるし、まるで“森全体を俯瞰している”みたいな視点だ。
投稿したアカウントも、アップした直後に消えてるし。
112: 陰謀論者
政府が情報を隠蔽しようとして失敗した痕跡……とか?
あるいは、何者かが意図的に“流した”のかもな。
113: 名無しの探索者
>>112
考えすぎ乙。
単に魔素濃度が高かっただけだろ。
114: 名無しの探索者
まあ何にせよ、剣聖がJKにガチ恋してる(しかもちょっと狂気を感じるレベルで)ってのは確定か。
世も末だな。
◇
「……世も末だな」
俺は自宅のリビングで、安酒をあおりながら呟いた。
スマホの画面には、例の掲示板が表示されている。
あの後、なんとかアーサーを撒いて帰宅した俺を待っていたのは、この炎上騒ぎだった。
まさか、あんな一瞬の出来事が拡散されるとは。
やはり今の世の中、どこで誰が見ているかわからない。
「……しかし、気になるな」
掲示板で指摘されていた『ノイズ』の件だ。
俺も拡散されている動画を確認したが、確かに奇妙な電子ノイズが混じっている。
それに、俺たちが遭遇した座標が、あまりにも正確に特定されすぎているのも不可解だ。
第20層の森林エリアは、GPSも狂いやすい迷路のような場所だ。
偶然居合わせた冒険者が撮ったにしては、画質も構図も出来すぎている。
まるで、最初からそこで何かが起きるのを知っていたかのような――。
『……生体反応、合致』
ふと、森の中で聞いたような気がした、無機質な幻聴が蘇る。
誰かが、俺を見ている?
いや、考えすぎか。52歳の元傭兵の勘も、平和ボケで鈍ったのかもしれない。
その時。
スマホが短く振動した。
SNSの通知ではない。もっと無機質で、強制力のある通知音。
画面を見ると、見慣れないアイコンからのメッセージ着信が表示されていた。
差出人は『探索者ギルド本部・監査部』。
そして『国家安全保障局』の連名。
件名は――
『未成年探索者に関する特別措置法に基づく、義務講習への召集通達』
「…………あ?」
俺は思わず、素っ頓狂な声を出した。
本文を読み進める。
『貴殿、仮登録名「七瀬花子」(D-Tube活動名「新人JK」)の活動において、未成年者保護および過度な危険行為の防止観点から、当機関が指定する短期特別講習への参加を命じる。
なお、本講習への参加を拒否する場合、探索者ライセンスの凍結、およびD-Tubeアカウントの停止処分を行うものとする』
脅迫じゃないか。
俺は眉間を揉んだ。
アーサーにバレただけでも面倒なのに、今度は国とギルドか。
どうやら、俺の平穏な隠居生活を邪魔する連中は、モンスターだけではないらしい。
「……義務講習、だぁ?」
52歳ぞ?
元伝説の傭兵ぞ?
いまさら、ガキに交じって「探索者のイロハ」を習えと?
冗談じゃない。
俺はスマホを放り投げ、布団を頭から被った。
明日は早起きして、盆栽の手入れでもしよう。
こんな通知、見なかったことにするに限る。
――だが、当然ながら。
世の中(と田中という男)は、それを許してはくれないのだった。
ふと、嫌な予感がして、俺は窓の外を見た。
夜の闇に紛れて、複数の視線を感じる。
アーサーだけじゃない。もっと質の悪い、組織的な監視の気配だ。
「……面倒な匂いが濃くなってきたな」
俺は溜息をついた。
このままでは、遅かれ早かれ特定される。
身分の偽装が要る。だが、今の俺には後ろ盾がない。
「ギルドの“義務講習”……か」
改めて、スマホの通知を見る。
拒否すればライセンス凍結。だが、逆に考えれば。
公的な講習に参加している間は、身分が保証されるということだ。
「……あれを逆に使う(……)しかないか」
俺は通知をタップした。
盆栽を守るためだ。
この際、JKのフリをしてでも、利用できるものは全て利用してやる。




