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第17話:剣聖との遭遇

 その日は、珍しくソロで深層(第20層)まで潜っていた。

 配信はしていない。

 たまにはカメラを気にせず、本気で体を動かしたかったからだ。


 第20層は『森林エリア』。

 視界が悪く、奇襲を受けやすい危険な場所だ。

 だが、元ゲリラ戦のスペシャリストである俺にとっては、庭のようなものだ。


「……気配がするな」


 俺は木の陰に身を潜めた。

 前方から、激しい戦闘音が聞こえる。

 金属と金属がぶつかり合う音。爆発音。

 そして、強力な魔力の波動。


 覗き込むと、そこには一人の剣士がいた。

 金髪の長髪をなびかせ、白銀の鎧を纏った美丈夫。

 Sランク冒険者、『剣聖』アーサー・ペンドラゴンだ。


 彼は一人で、エリアボスである『キメラ』と渡り合っていた。

 いや、圧倒している。

 流れるような剣技。無駄のない足運び。

 あれは……俺が教えた動きだ。


「……腕を上げたな、アーサー」


 俺は思わず口元を緩めた。

 かつての泣き虫新兵が、立派になったものだ。

 だが、感傷に浸っている場合ではない。

 キメラが最後の悪あがきで、自爆魔法の詠唱を始めた。


「なっ……!?」


 アーサーが反応遅れた。

 剣を振り抜いた直後で、体勢が崩れている。

 回避が間に合わない。


「……世話の焼ける部下だ」


 俺は飛び出した。

 手には対物ライフル。

 空中で構え、スコープを覗くことなく引き金を引く。


 ドォォォォン!!

 装填していたのは、対モンスター用の切り札『対魔弾』。

 魔力を帯びた弾丸が、キメラの胸部にある紫色の発光体――魔力核コアを正確に撃ち抜いた。

 自爆魔法は不発に終わり、巨体が崩れ落ちる。


 俺は着地し、すぐに姿を消そうとした。

 だが。


「……待ちたまえ!」


 アーサーの声が響いた。

 彼は剣を収め、俺の方へと歩み寄ってくる。

 その目は、確信に満ちていた。


「そのタイミング。その射撃。……間違いない」


 アーサーは俺の目の前で立ち止まり、直立不動の姿勢をとった。

 そして、震える声で言った。


「隊長……ですよね?」


 バレた。

 完全にバレている。

 だが、ここで認めるわけにはいかない。

 俺は深呼吸をし、喉の筋肉を調整して、完璧な「JKボイス」を作った。


「……人違いです。私はただの新人JKです」


「嘘だ! 今の援護射撃、あれは隊長の『絶妙なタイミングで美味しいところを持っていく』癖そのものだ!」


 なんて覚え方をしていやがる。

 俺は眉をひそめた。


「それに、その立ち方! 重心が常に次の動作に備えている! 一般の女子高生がそんな立ち方をするはずがない!」


 観察眼だけは鋭くなりやがって。

 俺はため息をついた。

 これ以上しらばっくれるのは無理か。

 いや、最後まで足掻く。


「……おじさん、ナンパなら他を当たってくれません? 警察呼びますよ」


 俺は冷たく言い放ち、煙玉スモークグレネードを足元に叩きつけた。

 プシューッ!

 白煙が視界を遮る。


「あっ、隊長! 待ってください!」

「どこの学校だ!? 学生証を見せろ!」


 煙の向こうから、そんな見当違いな怒鳴り声が聞こえてくる。

 学生証だと? そんなもの持っているわけがない……いや、待てよ。

 もし「普通の女子高生」として振る舞うなら、いずれ必要になるのか?


 そんな思考が一瞬よぎったが、今は考える時じゃない。

 俺は全速力で撤退した。

 ……危なかった。

 まさか、こんな形で再会することになるとは。


 走りながら、右手の先端が一瞬だけ感覚を失った。

 射撃の反動か、あるいは別の何かか。

 すぐに戻ったが、俺は無視できなかった。

 この体で撃てる回数に、限りがある気がしていた。


 だが、これでアーサーは確信しただろう。

 俺が「隊長」であると。

 そして、彼のような実力者が気づいたということは、他の連中――かつての敵や味方にも、気づかれるのは時間の問題だ。


 俺の平穏な隠居生活(JKライフ)に、暗雲が立ち込めていた。


 ――そして。

 俺たちが去った後の戦場。

 静寂が戻った森の木陰で、ごく小さな羽音が響いていた。


 それは虫ではない。

 擬態迷彩を施された、超小型の観測ドローンだ。

 そのレンズは、俺が立ち去った方向を静かに見つめていた。


『……生体反応、合致。ユニークスキル、推定Sランク以上』


 通信の奥で、かすかに鈴のような音が鳴った。

 チリン、と一度だけ。


 無機質な電子音声が、誰かのもとへと送信される。


灰衣グレイへ転送。ターゲット、捕捉しました』


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