第11話:企業案件が来た
『ヒール堂』からの依頼メールには、こう書かれていた。
『弊社が新開発した「激マズだけど超回復ポーション(仮)」のPRをお願いします。
ターゲット層は、味よりも効果を重視するガチ勢の冒険者です。
新人JK様の「媚びないスタイル」が、商品のイメージにぴったりだと判断しました。
報酬は500万円+ポーション1年分です』
500万。
悪くない額だ。
もっとも、自由に使える金ではない。
先日のスパチャ騒ぎの後、D-Tubeの保留収益は探索者ギルドへ移管され、俺名義の『未成年保護用』管理口座に紐づけられてしまった。
入金だけはできる。出金には本人確認と保護者確認、さらにギルド監査部の承認が要る。
つまり、金庫に札束を詰め込むことはできるが、鍵は敵の腰にぶら下がっている。
監視付き貯金箱。実に腹立たしい。
だが、ポーション1年分というのは現物支給。これは魅力的だ。
俺は即座にOKの返信をした。
数日後。
俺の元に、試供品のポーションが届いた。
ドス黒い液体が入った小瓶。
ラベルには『試作品X』と書かれている。
「……毒薬か?」
匂いを嗅いでみる。
腐った雑巾とハーブを煮込んだような、強烈な悪臭が鼻を突く。
だが、成分表を見る限り、回復効果は既存のハイポーションを凌駕しているようだ。
「良薬口に苦し、と言うしな」
俺はカメラをセットし、配信を開始した。
タイトルは『案件です。新ポーションのテスト』。
『うおおお! 初案件おめ!』
『JKが案件とか、出世したなぁ』
『で、何を宣伝するんだ? コスメか? スイーツか?』
視聴者たちは、俺が可愛らしい商品を紹介すると期待しているようだ。
残念だったな。
俺が取り出したのは、禍々しいオーラを放つ黒い小瓶だ。
『えっ』
『何それ怖い』
『魔界の飲み物?』
『放送事故の予感』
コメント欄がざわつく中、俺は淡々と説明を始めた。
「ヒール堂からの新商品だ。味は保証しないが、効果は凄いらしい。……実戦で試してみる」
俺はナイフを取り出し、自分の腕を浅く切った。
プッと血が滲む。
『ファッ!?』
『自傷!? 何してんの!?』
『BANされるぞ!』
『誰か止めろ!』
視聴者がパニックになるが、俺は構わずポーションの蓋を開け、一気に煽った。
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ。
「……っ」
不味い。
想像を絶する不味さだ。
泥と生ゴミをミキサーにかけて飲んでいるような味がする。
普通の女子高生なら、一口で嘔吐して気絶するレベルだ。
だが、俺は顔色一つ変えずに飲み干した。
戦場では、泥水だろうが虫だろうが、生きるために口にしてきた。
これくらい、どうということはない。
「……ふぅ。ごちそうさま」
俺は空になった瓶を置いた。
すると、腕の傷がみるみるうちに塞がっていく。
数秒後には、傷跡すら残らず完治していた。
「効果は本物だ。即効性もある。……味以外は、完璧だな」
俺は正直な感想を述べた。
コメント欄は、静まり返っていた。
そして。
『すげええええええ!』
『あの毒物を顔色変えずに飲み干した!?』
『「ごちそうさま」じゃねえよwww』
『鉄の胃袋すぎる』
『このJK、味覚までガチ勢なのか……』
『ヒール堂の株買ってくる』
大絶賛だった。
どうやら、俺の「体を張ったレビュー」が、視聴者の信頼を勝ち取ったらしい。
ヒール堂の担当者からも、直後に電話がかかってきた。
「素晴らしいです! あそこまでクールに飲んでいただけるとは! 注文が殺到しています!」
担当者は興奮気味だった。
俺は首を傾げた。
ただ飲んだだけなのだが。
ともあれ、初の企業案件は大成功に終わった。
だが、この配信を見ていたのは、一般視聴者だけではなかった。
人気アイドル配信者、『キララちゃん』。
彼女もまた、俺の配信に注目している一人だった。
「……ふーん。面白い子。私のコラボ相手に相応しいかもね」
キララちゃんは不敵に微笑み、俺にDMを送る準備を始めた。
スマホが震えた。
差出人は「星川キララ」。
件名は絵文字だらけで、俺には解読に五秒かかった。
……最近の若者は、どうしてこう絵文字を多用するのか。




