第10話:かつての部下、配信を見る
中層階でのバジリスク討伐は、俺の予想以上に大きな反響を呼んだ。
同接10万人超え。
切り抜き動画は数百万再生。
俺は一躍、時の人となっていた。
だが、そんな騒ぎとは無縁の場所で、一人の男が俺の配信を見ていた。
◇
Sランク冒険者、『剣聖』ことアーサー・ペンドラゴン(35歳)。
彼は自宅の高級マンションで、タブレット端末を凝視していた。
画面に映っているのは、スモークの中でバジリスクを屠る銀髪の少女。
「……間違いない」
アーサーは震える手で画面に触れた。
彼が注目したのは、少女の華麗な射撃ではない。
その直前。
盾の男を蹴り飛ばして後退させた、あの一瞬の動作だ。
「あの蹴り方……。重心を全くブラさずに、最小限の動きで相手を吹き飛ばす。あれは、隊長の『教育的指導』だ」
アーサーの脳裏に、若き日の記憶が蘇る。
まだ彼が新米傭兵だった頃。
『戦場で棒立ちするバカがあるか!』
怒号と共に、隊長である『グレイ・ゴースト』の蹴りが飛んできた。
理不尽な暴力? 違う。
その直後、アーサーが立っていた場所を、敵の銃撃が通り抜けたのだ。
言葉で警告するよりも早く、体で突き飛ばして部下を救う。
隊長はそういう人だった。
あの時の尻の痛みと、ぶっきらぼうな背中。
それが、画面の中の少女の動作と完全に重なった。
「生きていたんですね、隊長……!」
アーサーは涙ぐんだ。
隊長が引退し、行方不明になったと聞いた時は、絶望のあまり一週間酒に溺れたものだ。
だが、隊長は生きていた。
しかも、なぜか美少女になって。
「……いや、待てよ」
アーサーは冷静さを取り戻した。
隊長は50代の男性だ。
画面の中の少女は、どう見ても10代。
娘か? 孫か?
いや、あの熟練の動きは、一朝一夕で身につくものではない。
DNAレベルで刻み込まれた戦闘技術だ。
「まさか、転生……? いや、若返りの秘薬……?」
Sランク冒険者ともなれば、ダンジョンの深層で未知のアーティファクトを目にすることもある。
若返りや性転換の呪いがあっても、不思議ではない。
「……確認する必要があるな」
アーサーは立ち上がった。
もし彼女が隊長なら、挨拶に行かなければならない。
そして、もし隊長の名を汚すような偽物なら……その時は、この『剣聖』が成敗してくれる。
彼は愛剣を手に取り、家を出た。
向かう先は、少女が拠点としているダンジョン都市。
◇
一方、そんなことになっているとは露知らず。
俺は自宅の人目に付かない裏庭で、新しい盆栽の手入れをしていた。
バジリスクの素材を売った金で買った、樹齢五十年の真柏だ。
「……いい枝ぶりだ」
ハサミを入れるたびに、心が洗われるようだ。
戦場の喧騒を忘れさせてくれる、至福の時間。
ピロン、とスマホが鳴った。
D-Tubeの運営からの通知だ。
『【重要】企業案件のご依頼について』
「……案件?」
俺は眉をひそめた。
インフルエンサーになった自覚はあまりないが、企業が俺に目を付けたらしい。
内容は……『ポーションメーカー・ヒール堂』からの新商品PR依頼。
「ポーションか。……悪くない」
消耗品はいくらあっても困らない。
俺はメールを開き、詳細を確認することにした。
ポーション1年分。
良薬口に苦し、という言葉がある。
これが本当に良薬かどうかは、飲んでみなければ分からないが。




