第5話 その新人、狂犬につき②
敵は六人。
僕は一人。
普通なら負ける。
そんなことはわかっていた。
でも。
不思議と焦りはなかった。
さっきまであれだけ震えていた指先が、今は静かだった。
心臓は速い。
なのに頭だけが冷えている。
敵の位置。
遮蔽。
残り時間。
残っているスキル。
必要な情報が勝手に頭へ入ってくる。
ああ。
この感覚だ。
ゲームをしている時だけ、たまになる。
気付いたら考えるより先に身体が動いている。
負ける気がしない。
勝てる。
いや。
勝つ。
六人がなんだ。
全員、倒してやる。
〈え、前出る?〉
〈待って待って待って〉
〈逃げなくていいの?〉
〈リスポーン待ちじゃないの?〉
〈いや無理だろ〉
〈流石に人数差が……〉
〈ここまでか……〉
〈まあ十分上手かったよ〉
〈初配信で世界2位疑惑は晴れたしな〉
〈いやでも流石にこれは無理では〉
コメント欄が流れている。
でも、もう見ていなかった。
視界に映るのは敵だけだ。
即座にEスキルの煙幕で体を隠す。
こうすれば、相手から見えているのは対面の三人だけ。
いくら相手が六人でも、六人一チームなわけじゃない。
おそらく、この六人よりも外側に漁夫狙いの別パが潜んでる。
もう少しすれば僕のチームメンバーも外側でリスポーンする。
拠点に先入りして削れた方が損をする状況。
この状況を最大限利用する。
まず狙うのはキルじゃない。
混乱だ。
煙幕の中で足音を消す。
左。
右。
再び左。
位置を変える。
やみくもな射撃を最小限のダメージで躱す。
敵視点、僕がどこにいるかはわからない。
でも。
僕には見えている。
煙幕の外から拠点を覗き込む二部隊。
お互い拠点に入りたい。
でも先に入った方が損をする。
だから睨み合っている。
その均衡を壊す。
Qスキル。
一瞬だけ煙幕から飛び出す。
左側の部隊のアタッカーへ数発。
シールドが割れる。
すぐに煙幕へ戻る。
〈あっ〉
〈撃った〉
〈何してる?〉
次の瞬間。
右側の部隊が動いた。
削れた敵への一斉射撃。
左の部隊も応戦する。
銃声。
大量のスキル。
爆発音。
拠点の中央が戦場になる。
〈漁夫らせてる?〉
〈わざとか?〉
〈こいつ何考えてるんだ〉
これでいい。
敵同士が撃ち合っている間だけ、僕は一人じゃなくなる。
キルログが流れる。
一人。
二人。
三人。
敵の数が減っていく。
残り四人。
その瞬間、煙幕が晴れる。
僕は飛び出した。
”今”だ。
考えるより先に身体が動く。
ここまで来たらもう頼れるのは自らの直感だけ。
前ブリンク。
着地。
左。
敵サポート。
回復スキルを使おうとしていた。
遅い。
撃破。
〈え?〉
そのまま振り向く。
右。
敵アタッカー。
こちらを見ていない。
撃破。
〈待って〉
キルログが流れる。
残り二人。
敵もようやく僕へ照準を向ける。
でも。
もう遅い。
ULTのCTはすでに上がっている。
ULT発動。
遮蔽へスライド。
壁を蹴る。
空中で視点を反転。
着地と同時に射撃。
シールドブレイク。
〈なんだその動き〉
敵タンクが追ってくる。
追わせる。
わざと撃てそうな隙を見せる。
食いついた。
Qスキル、ブリンク。
反転し、敵背後を取る。
振り向く前に一マガジン。
撃破。
〈は?????〉
残り一人。
敵はアタッカー。
お互い瀕死。
撃ち合い。
相手が先に撃つ。
身体を半歩ずらす。
弾が頬を掠める。
僕が撃つ。
敵が倒れる。
静寂。
画面中央に写る「CHAMPION」の文字。
数秒。
本当に数秒。
誰もコメントを打たなかった。
そして。
〈は?〉
〈は?〉
〈は?〉
〈今の何?〉
〈待って待って待って〉
〈意味わからん〉
〈新人?????〉
〈世界二位ってマジだったんだ〉
〈狂犬だ〉
〈こいつ狂犬だ〉
〈やばすぎ〉
〈守護る必要なんてなかったんや……〉
画面左下。
ゲーム内チャットが流れる。
[HanSeong]
holy shit
[Yun]
monster
その文字を見て。
僕はようやく息を吐いた。
『……勝った』
そこで初めて、自分の心臓がものすごい勢いで鳴っていることに気付いた。
〈勝った、じゃないのよ〉
〈何今の〉
〈怖い怖い怖い〉
〈疑ってごめんなさい〉
〈守護る必要なかったんやなって……〉
〈てか普通にみてたけど録画じゃないの?〉
〈ぶっつけ本番でこのプレイマジ?〉
『あ、録画じゃないです』
〈やばすぎる〉
〈何を言っている?〉
〈たまプロやべえやつ拾ってきてて草〉
〈切り抜き確定!〉
〈バズれバズれ〉
『あ、えっと、録画はしてなくて……』
〈草〉
〈草〉
〈自分で投稿する気で草〉
〈お、天然か?〉
〈切り抜き師さんここもお願いしますね〉
〈なんだこの可愛い生物〉
〈やはり守護らねば……〉
[煌陽ナギ]
待って
〈いた〉
〈ナギ見てて草〉
〈ナギキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!〉
[煌陽ナギ]
思ってた3倍くらい暴れてる
〈草〉
〈ナギも困惑してます〉
〈エペマスターのナギですらこの困惑〉
〈すみませんあなたの後輩とんでもないです〉
『あ』
『ナギさん』
『いたんですか』
〈後輩そっけなくて草〉
『あ、そういう意味じゃなくて……』
まさかコメントに現れるとは思ってなかった。
びっくりはした。
けど、情けない姿を見せなくてよかった。
とても、うれしい。
感情が出てしまったのか、声が緩む。
『見ててくれて……ありがとうございます//』
〈は?〉
〈は?かわいいかよ〉
〈てかそこ絡みあんの?〉
〈早くもナギエリてえてえか?〉
〈おい誰かソフィア連れてこい〉
〈ソフィア絶対見てるだろww〉
[煌陽ナギ]
ウチの後輩が可愛すぎる件について
〈それな〉
〈おい騙されんな〉
〈本性は狂犬だぞ〉
『狂犬は心外です……』
〈ごめんそれは無理がある〉
〈あんなプレイほかにどう表現しろと?〉
〈鬼?〉
〈悪魔?〉
[煌陽ナギ]
ごめんちょっと庇えないかも(´・ω・`)
『ナギさんまで……』
『そんなぁ……』
〈ナギ、お手上げ!w〉
〈てかいちいち可愛いな〉
〈試合中とのギャップえぐいって〉
〈温度差で風邪ひきそう〉
〈頭きーんなるわ〉
〈同一人物なんだよな?〉
〈試合中だけ人格変わってない?〉
『みんなひどいです……』
〈かわいい〉
〈かわいい〉
〈かわいい〉
〈その声だめだって〉
〈あ~頭がおかしくなる~^^〉
〈かわいい狂犬〉
〈一秒で矛盾するな〉
『……』
『……』
〈どうした?〉
〈反論考えてる?〉
〈がんばれエリス〉
『いえ』
『そろそろ次行こうかなって』
〈は?〉
〈待て〉
〈待て待て待て〉
〈初配信なんだよね?〉
〈実力は十分わかったぞ〉
『え?』
『だってまだ一戦しかしてないですよ』
〈草〉
〈やばいよこの新人〉
〈エクプロ星人じゃねえか〉
〈君はどこを目指してらっしゃるの?〉
『それに、楽しくなってきたので』
〈あっ〉
〈あっ〉
〈終わった〉
〈狂犬が解き放たれた〉
〈エクプロ民逃げてー!!!〉
『あっ』
『マッチングしました』
『今回は早かったですね』
〈ガチでやる気じゃんwwww〉
〈あれ、初配信ってこれでいいんだっけ〉
〈いいわけあるかバカ〉
〈初配信無限エクプロ編〉
[煌陽ナギ]
\(^o^)/
〈ナギもお手上げで草〉
〈保護者が諦めた〉
〈もう誰も止められない〉
その後の試合も、とても調子が良かった。
二戦目、CHAMPION。
三戦目、CHAMPION。
四戦目は惜しくも二位だったけれど。
五戦目、CHAMPION。
気が付けば、配信開始から三時間近くが経っていた。
コメント欄は最初の何倍もの速度で流れている。
視聴者数も、初配信とは思えない数字になっていた。
でも、そんなことはどうでもよかった。
生まれて初めてだった。
こんなに楽しくゲームができたのは。
もちろん、一人でやるエクプロも楽しい。
でも、たくさんの人に見てもらってするゲームは、もっとずっと楽しかった。
『じゃあ今日はこの辺で』
〈終わるのか〉
〈楽しかった〉
〈おつエリ〉
〈伝説の初配信だった〉
〈切り抜き待機〉
〈狂犬おつ〉
『狂犬じゃないです』
〈最後まで否定してて草〉
〈おつエリ!〉
『おつエリです』
そう言って配信を終了した。
翌日。
誰が作ったのかも知らない。
僕の初配信だけをまとめたMontage動画が投稿された。
タイトルは。
――『新人Vtuber、初配信で大暴れ』
――『世界二位の過疎ゲーマー、初配信で無双』
――『その新人、狂犬につき』
再生数は一日で十万回を超えたらしい。
ちなみに僕はというと、疲れから熟睡していてそのころはすやすやだった。
なのでこの大バズりを知ることになるのは、また少し先のお話だ。
おまけ
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紅音エリス PROFILE
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名前:紅音エリス(くのん えりす)
所属:たまゆらプロジェクト 二期生
年齢:17歳
誕生日:11月11日
身長:148cm
担当カラー:クリムゾンレッド
ファンネーム:エリスタ
挨拶:
こんエリ!/おつエリ!
好きなこと:
ゲーム
趣味:
ゲーム
特技:
ゲーム
好きな食べ物:
オムライス
苦手なもの:
虫
好きなゲーム:
Eclipse Protocol
目標:
たくさんゲームをして、
たくさんの人にエクプロを知ってもらうこと。
ひとこと:
人と話すのは少し苦手ですが、
ゲームのことならたくさんお話できます。
これから皆さんと一緒に、
楽しい時間を作っていけたら嬉しいです。
よろしくお願いします!
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