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第12話 【雑談】たまゆらプロジェクトのクリップを見ます【紅音エリス】

 エナさんとの初コラボから一週間。

 なぜか最近、コメント欄で「妹」と呼ばれることが増えた。


 心当たりは、ある。


 あれからすでに二回、エナさんとコラボ配信をした。


 ホラーゲームではずっと励ましてくれて。

 協力ゲームでは迷った私を迎えに来てくれて。

 雑談配信では話題が途切れるたびに自然と話を広げてくれた。


 エナさんと一緒にいると、気付けば頼ってしまっている。

 そんな不思議な安心感があった。


 正直なところ、女の子として扱われることにすら、僕はいまだに慣れていない。

 そんな僕にとって、妹扱いされるというのは、なんとも言えないむず痒さがあった。


 ……まあ。

 コメント欄のみんなが楽しそうなので、深く考えないことにしている。


 そんなことを考えながら、配信開始のボタンを押した。


『こんエリです』


〈こんエリ~〉


〈こんエリ!〉


〈きちゃー!〉


『今日は前からご要望が多かった、たまゆらプロジェクトのクリップ鑑賞会をします』

『たまゆらプロジェクトの歴史を学びたいと思います』


〈きたあああああ〉


〈待ってました!〉


〈同時視聴だ!〉


 僕がデビューしたVtuberグループ――『たまゆらプロジェクト』。


 『観てくれたすべての人に、魂の揺らめきを』をコンセプトに掲げるそのグループは、二年ほど前にデビューした一期生三人と、僕たち二期生二人を合わせた、計五人の小さな箱だ。


 そもそもVtuberの配信自体、あまり見たことがなかった僕にとって、『たまゆらプロジェクト』はほとんど知らないグループだった。


 デビュー前に勉強として、何度か先輩たちの配信を観させてもらったことはある。

 けれど、胸を張って詳しいと言えるほどではない。


 そんなわけで、今日の配信は――主に一期生の切り抜きを観て、僕自身もあらためて先輩たちのことを知っていこう、というコンセプトになったのである。


 『事前の切り抜き募集にいろいろおすすめしてくださってありがとうございます』


〈いえいえ〉


〈採用されるかな~〉


〈たまプロは名シーン多すぎる〉


〈悩んで三本送ったww〉


〈ナギちゃんの神IGLクリップ見たい!〉


〈今日は箱推し歓喜配信〉


『最初に見る切り抜きなんですけど』

『これタイトルが気になりすぎて……』


 そういって用意された動画を配信画面に映す。

 タイトルは『白銀ルミナ配信終了RTA』。


〈でたwww〉


〈それねw〉


〈ちなみにそれほぼ元配信なんよ〉


〈切り抜き(切り抜きとは言ってない)〉


 動画が始まる。

 配信開始画面から切り替わり、白銀ルミナが映る。



『騎士ども~』

『今日も配信やってくぞ~』


〈こんルミ!〉


〈待ってた!〉


〈今日は何やるのー?〉


『今日は――』


 そこで、不意に通知音が鳴った。


 ポロン


 ルミナさんが画面の外へ視線を向ける。


『……』

『焼肉?』


 一拍。


『行く』

『ごめん友達が焼肉おごってくれるって』

『じゃ、そういうわけで^^』


 配信が終了しました。



『えぇ……』


 あまりにも展開が早すぎて、思わず困惑の声が漏れる。

 ほんの二十秒ほどの出来事だった。


〈判断が早い〉


〈鱗滝さんもこれにはニッコリ〉


〈逃げるな卑怯者!!!〉


〈切り抜きじゃなくてほぼ元配信なんだよなこれ〉


〈なお待機時間入れても一分ちょいの模様〉


〈自由すぎるwww〉


〈ルミナらしいわ〉


『ルミナ先輩ってその……』

『面白い人、ですよね』


〈社会性フィルター〉


〈おい後輩、本音は?〉


〈実際面白くはある〉


〈おもしれー女☆〉


〈これで配信として成立してるのがすごい〉


〈成立はしてないんだよなあ……〉


〈ルミナだから許される〉


 ルミナ先輩は、自由な人だ。

 でも、不思議とそれが許されてしまう。


 それだけ魅力のある人なんだろう。


『えっと、次はこちらです』


 マウスを動かし、次のクリップを再生する。

 画面に映し出されたタイトルは――


『【悲報】晶空ソフィア、ナギルミ解釈違いで視聴者にキレる』


〈草〉


〈タイトル草〉


〈よりによってこれかよww〉


『普段温厚そうなソフィア先輩がコメントと対立しているのが想像できなくて……』


〈それはそう〉


〈わりとよく喧嘩してるぞ〉


〈カプ厨を怒らせてはいけない〉


 コメント欄の反応を見れば見るほど、不安になる。

 ソフィアさんは、いつもおっとりしていて優しい人だ。


 コメント欄と喧嘩するような人には、とても思えない。


『……本当でしょうか』


 半信半疑のまま再生ボタンを押す。

 画面が暗転し、切り抜きが始まった。


 映し出されたのは、雑談配信中のソフィアさんだった。



『本日は同期の百合絵を描いていきます~』


〈描いていきますじゃないが〉


〈当たり前のように同期の百合絵を描くな〉


『昨日の二人のコラボ見ましたかぁ?』

『とっても息ぴったりでぇ』

『見てたらどうしても描きたくなっちゃいましたぁ』


〈そっかあ〉


〈描きたくなっちゃったのなら仕方ないね〉


〈またナギ攻め?〉


『はい~、やっぱりナギルミはルミちゃんの誘い受け、ナギちゃんのヘタレ攻めが至高なので~』


〈正直ルミナ姫の方が攻めっぽくね?〉


『ルミちゃんが攻めというのは浅いと言わざるを得ませんね』


〈あっ〉


〈あっ〉


〈あっ〉


『確かにルミちゃんはマイペースで自由奔放』

『ナギちゃんを振り回していることが多いので攻めに見られがち』

『ですがナギルミの本質は二人の信頼関係ですよね?』

『ルミちゃんはナギちゃんを信頼しているからこそああいう態度をとるわけです』

『それにルミちゃんはああ見えて寂しがり屋です』

『けどそれを直接は言わないんですよね』

『ああしてナギちゃんにダル絡みしているようにみせかけて、本心では構ってほしいわけです』

『つまりルミちゃんは圧倒的誘い受け』

『一方ナギちゃんもとてもやさしくて誰かを攻めるようなタイプには見えません』

『ですが世話焼きで頼られると断れないところがありますよね』

『つまりルミちゃんの誘いを断れないのです』

『これは圧倒的にヘタレ攻めですよね?』


〈オタク特有の早口〉


〈いつものおっとりからは想像できない長文〉


〈いつもの〉


〈ごめんなさい〉


〈許して〉


『いえいえ~、わかっていただければいいんですよ~』

『それじゃあ気を取り直して書いていきましょぉ』



 動画が終わる。


『……』


 数秒、言葉が出なかった。


『えっと』

『ソフィアさんって、あんなに早口で話せるんですね』


〈そこwwwww〉


〈オタクはみんな早口〉


〈エクプロについて話してる時のエリスちゃんもあんな感じ〉


『えっ』

『そうなんですか?』


〈気づいて無くて草〉


〈自覚無し〉


〈草〉


『その』

『ナギルミ……?』

『というのは、そんなに大事なことなんでしょうか』


〈沼へようこそ〉


〈知らなくていい世界だぞ〉


〈純粋すぎるwww〉


〈ソフィアに聞くなよ?絶対聞くなよ?〉


[晶空ソフィア]

〈今度ゆっくりお話ししましょ~〉


〈ヒエッ〉


〈本 人 登 場〉


〈お話(意味深)〉


『あっ、ソフィア先輩』

『私でよかったら、いつでも大丈夫ですよ……?』


〈やばい純粋なエリスちゃんが穢されてしまう〉


〈守れ守れ!〉


〈ディーフェンス!!〉


『あはは……』


 コメントがよくわからない方向にヒートアップしてしまった。


『次は、ナギさんの切り抜きを』


 気を取り直して、次の動画を表示する。

 タイトルは『煌陽ナギ神IGL集』。


〈やっぱそれよね〉


〈ナギちゃんといえば〉


〈頭でかすぎ集〉


『ナギさんとはたまに裏でエクプロ一緒にやるんですけど』

『本当に全てを見通しているみたいな』

『すごくかっこよくて、是非見てみたかったんですよね』


〈待って初情報じゃない?〉


〈このまえナギも言ってたぞ〉


〈実際ナギのIGLはプロも褒めるレベルだからね〉


『では、見ていきましょう』


 動画を再生する。

 映し出されたのはAPEXの大会スクリム中の様子だった。

 チームメイトはルミナ先輩とソフィア先輩だった。



『円決まったけど外れたかー!』

『ちょっとまってね今空いてるのは……』


〈ぐわー安置外〉


〈円きちー〉


〈これ入れるとこある?〉


『よし、”ちょっと待とう”』


『マジ?』

『空いてるとこ無くなっちゃわない?』


『私はナギちゃんを信じますよ~』


『すぐ出でれる準備はしといて』

『合図でヴァルジャン使うよ!』


 数秒の沈黙。

 円収縮と同時に近くのパーティが先にヴァルキリーのULTで空高く舞い上がった。


『今今今!!』

『ルミ!ULT使って!』

『行くよ!!!』


 ワンテンポ遅れてナギさんたちのチームも空高く舞い上がる。

 上空から旋回しながら、なんと最終安置のど真ん中の窪みに入り込んだ。


『はーここ入れんのぉ!?』


『ナギちゃんマジックですねぇ』


『いいから!//』

『ハイドいないか警戒して!』

『ソフィアはジブのULT警戒ね撃たれたらすぐULT返しちゃっていいから!』


〈なんで入れるんだよ〉


〈やばすぎ〉


〈うっま〉


 結局そのあとも二人への指示だし、周りの状況把握を完ぺきにこなし、チャンピオンを獲得してしまった。



『これ、本当にすごいです』

『ナギさんには何が見えてたんでしょうか』


〈ねー〉


〈まじ絶望状況からチーム救ってる〉


〈APEXも興味出てきた?〉


『うーん、確かにAPEXも楽しそうではあるんですけど』

『今はやっぱりエクプロですかね』


〈いつもの〉


〈知ってた〉


〈うーんこのエクプロ狂〉


〈てかその切り抜き見るなら大会後のやつも見てほしい〉


『大会後の切り抜き……あっこれですか?』


 サムネイルには、三人の一期生が並んで座っている姿。

 タイトルは、


『【V頂祭s4】涙のリベンジを誓うたまプロ一期生達』


 再生ボタンを押す。



 画面に映ったのは、大会直後の配信だった。

 

 普段より少しだけ静かな空気。

 誰もすぐには口を開かなかった。


 やがて、最初にナギさんが小さく笑う。


『悔しいね』


 その一言にルミナ先輩が応える。


『……ごめん』

『ウチがもっと』


 最後まで言葉にならない。

 VCには、小さく涙をすする音が聞こえていた。


 ソフィア先輩は少し鼻声になりならがらも、努めて明るく話していた。


『でも』

『楽しかったですねぇ』

『また、この三人で出たいです』


 ナギさんは大きく頷く。


『うん』

『私、二人と組めてよかった』

『二人とV頂出れてよかった』


 ナギさんだって悔しいはずなのに。

 その声はどこまでも前向きだった。


『次は、勝とう』

『絶対に』



 動画が終わる。


 コメント欄も、さっきまでとは違って静かだった。


〈これ好き〉


〈何回見ても泣く〉


〈たまプロを好きになった瞬間〉


〈この大会があったから今がある〉


〈ここから一年頑張ったんだよな〉


〈今年こそリベンジしてほしい〉


『こんなにも、参加者も視聴者も熱くなれる大会があるんですね』


〈V頂はマジでいい〉


〈ドラマが詰まってるよな〉


〈今年もそろそろありそうじゃね?〉


〈赤坂ナツいつもありがとう〉


 大会。

 それまでの努力も。

 終わったあとの悔しさも。

 全部ひっくるめて、たくさんの人が一緒に熱くなれる場所。


 画面越しなのに、その熱は少しだけ僕にも伝わってきた。


 ――いつか。

 こんな景色を、自分も見られる日が来るんだろうか。


 そんなことを、ほんの少しだけ考えた。


 もちろん、その時はまだ。

 それが、ずっと先の未来の話だと思っていた。


『……それじゃあ、気を取り直して次いきます』


〈切り替え早いw〉


〈感動したあとにルミナ寝坊集とか来そう〉


〈温度差で風邪引くぞw〉


 そのあとも。


 ナギさんの特大くしゃみ集切り抜き。


 ソフィア先輩がナギルミの際どい話題を語っているときにナギさんが配信に乱入する切り抜き。


 ルミナ先輩が配信6時間遅刻で現れた切り抜き。


 気付けば時間はあっという間に過ぎていた。


『……もうこんな時間なんですね』


〈早かった〉


〈楽しかった!〉


〈第二回も頼む!〉


〈まだ見足りない〉


『私もです』

『皆さんがおすすめしてくださった切り抜き、どれも面白くて』

『たまゆらプロジェクトって、素敵なグループなんだなって改めて思いました』


〈エリスちゃんもその一人なんだぞ〉


〈二期生も大好きだよ〉


〈たまプロ最高!〉


〈箱推しでよかった〉


 コメント欄を見て、思わず笑みがこぼれる。


『それじゃあ今日はこの辺で終わります』

『見に来てくださってありがとうございました』

『おつエリです』


〈おつエリ!〉


〈おつエリ!〉


〈次の配信も楽しみ!〉


 配信終了のボタンを押す。


 静かになった部屋で、ふとさっきの大会の映像を思い出した。

 悔し涙を流しながら、それでも笑って「次は勝とう」と言った三人。


 あんなふうに、誰かと一緒に一つの目標へ向かって走る景色は、少しだけ眩しく見えた。


 その時の僕は、まだ知らない。

 

 数か月後。


 自分もまた、その舞台へ立つことになるなんて。

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