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第1章-第11話 恩返し

 試験まで残り1週間。森林にて再び魔物たちに試験へ向けた鍛錬に付き合ってもらっていた。


 フリューゲルが振るってきた刺突をヴェラは刀でいなす。槍が弾かれた瞬間、ヴェラは刀身に風を纏わせ、彼の懐に向けて一線を振りかざした。


 風の刃を受けたフリューゲルは身体を仰け反らせて、地面に着地する。が、避けきれなかったようで胸部から血が噴き出した。

 

 ヴェラは刀を『宝物庫』に仕舞い、フリューゲルの傷を癒やすべく近づく。

 

「いや~、1週間でここまで伸びるとは。毎回思うんですけど、ポテンシャル高すぎませんか? 本当にどうなってるんです?」

「どうなってるって言われてもな……」


 戦闘の余波で地面に落ちた幹へと腰かけたフリューゲルが問うてくる。地面にしゃがんだヴェラは困惑しながら答えつつ、彼の受けた傷口に手を翳す。


 と、緑の淡い光が現れ、徐々に傷が塞がっていく。1分もしないうちにフリューゲルの傷を塞ぎ終え、ヴェラはその場から立ち上がる。


 すると、後ろの方で何かが地面に降り立つ音がした。振り返ってみると、そこには黒い翼を消すメフィスがいた。

 

「こちらにいらっしゃいましたか」

「よぉ、メフィス。どうしたんだ?」

 

 歩み寄って来たメフィスに対してヴェラは笑いかける。メフィスはフリューゲルを一瞥した後、ヴェラへと視線を戻した。

 

「少し様子を伺いに来たんですよ。もう試験まで1週間ですからね」

「戦闘に関してはまぁまぁ上手くいってるよ。このまま順当にいけばバラムと張り合えるぐらいにはなれるんじゃねぇかな」

 

 ヴェラはそう言いながら、バラムがいるであろう城を見た。


 フリューゲルたちとこの1週間戦っていたが、8割は勝てるようになっていた。フリューゲルは雷と嵐を操るため、少なくとも速さへの適応はかなりできてきている。


 後はまだ詰めの甘いところがあるので、そこは重点的に直していかなければならない。

 

「あら、でしたらわたしと一戦どうです? わたし、前からヴェラ様お手合わせしてみたかったのですよね」

「もちろん良いぜ。フリューゲル、審判頼めるか?」

「はい! お任せください!」

 

 ヴェラに声をかけられたフリューゲルは、腰を上げて立つとともに誇らしげな顔をして言った。

 

 制限時間は5分間。準備を終え、ヴェラとメフィスは互いに向かい合う形で武器を構える。

 

 ヴェラは金属生成魔術で造った刀を、メフィスは長柄の戦斧を手にしていた。辺りが静寂に包まれ、木々がそよ風によって揺れる。その刹那、フリューゲルの合図が森林に響いた。

 

 2人は彼の声を耳にすると同じくして地面を駆ける。互いに振りかざした刀と戦斧が交じり合い、金属音が鳴った。


 何度か攻撃した後、ヴェラの刀身を柄で弾いたメフィスはそのまま彼女の足に向けて戦斧を滑らせる。ヴェラはその場で飛んで回避し、離れた木の幹へと足をかけた。


 脚に魔力を回し、刀に炎を宿らせる。メフィスも腰を落として地面を踏みしめ、戦斧に風を纏わせた。


 直後、両者が足場としていた幹と地面が破壊され、赤と緑の閃光が森林を駆ける。刃と刃のぶつかり合い、空気を裂く音が辺りを支配する。

 

「おぉ、これは……」

 

 傍で見ていたフリューゲルが感嘆の声を漏らす中、飛空したヴェラは複数の魔法陣を起動させ、メフィスへと赤い光を放射した。


 メフィスは動じることなく、軽い身のこなしで降り注ぐ光線を避けていく。

 

「ふはははっ! メフィス、お前やるな!」

 

 ヴェラは笑い声を上げつつ、彼女に向かって刀を振るう。


 しかし、飛行体勢へ切り替えたメフィスに回避され、ヴェラの放った炎によって木々がなぎ倒される。

 

「ヴェラ様こそ。今の実力なら、バラム様打倒も夢ではありませんわね。ですが、これはどうです?」


 空を疾速したメフィスが口にした瞬間、何かに足を絡めとられ、ヴェラは転倒。そのまま地面を縦横無尽に引き摺られる。

 

「っ……!」


 地面に叩きつけられたヴェラは歯を食いしばりながら耐える。と、光の反射で足に絡みつく何かが見えた。


(これは鎖か)


 メフィスの手元を見てみると、確かに何かを握っていた。であればこちらにもやりようはある。


 ヴェラは降ってくる風の刃を刀で封殺しながら、鎖が絡みつく足に向けて魔力を回し、体勢を立て直して地面へ着地する。


 そして、足を大きく後ろへ退くと同時に鎖に向けて魔力を最大出力で放射。現れた炎が鎖を辿ってメフィスの元へたどり着いた直後、彼女の手にしていた鎖が大きくしなるとともに身体が宙に浮いた。


 主導権をこちらが握ったの感じ取ったヴェラは手を横に振って自らの背後に魔法陣を展開させる。


「『光明する七つの矢』(リヒト・シーセン)……!」

 

 ヴェラが唱えると、魔法陣から4つの光の矢が放たれた。矢を目にしたメフィスはすかさず手を前にして声を張り上げる。

 

「『暴風結界シュトゥルム・ヴァント』……!」

 

 メフィスの前に暴風の防壁が展開され、4本の矢が弾かれる。が、立て続けに5、6、7射目が襲いかかり、ヒビが入った。


 と、いつの間に来ていたのかヴェラが炎を纏った刀を振りかざして防壁を破壊。メフィスの首目掛けて振り、メフィスが手にしていた戦斧で迎撃しようとした瞬間――。

 

「両者そこまで!」


 フリューゲルの制止の声が響き渡った。


 ヴェラとメフィスは衝突する寸前でピタッと動きを止める。ヴェラの足に絡みついていた鎖が消え、2人は地面に降り立つ。

 

「もう5分経ったのか」

「わたしとしては、もう少しやりたかったですわね」

「これ以上我らの領域を荒らされるのはごめん被ります!」


 ヴェラとメフィスが武器を仕舞いつつ、不満そうに口を揃えて言うと、フリューゲルは大きな声で嘆く。


 ふと周囲を見渡してみれば、戦闘前まで立派に生えていた木々が折れまくり、足場となっていた地面が割れていた。

 

(流石にやりすぎたか……)

 

 つい戦いに熱が入ったヴェラは自省しつつ、倒れた木の幹に座って、自身の怪我を治すために回復魔術をかける。


 と、その横にメフィスが腰かけて回復魔術で自らの傷を癒やし始める。

 

「それにしても、この3週間ヴェラ様のことを見てきましたが、どうしてそこまで強いのです?」

「確かにそれは私も気になりますな」


 (どうして強いのか……か)

 

 メフィスとファウストに問い詰められ、ヴェラは視線を下に向けた。


 自分の強さの理由か……そういえば今まで考えたことも無かったな。


 ヴェラはそう思いながら自分の中にある答えを導きだそうと思考を巡らせる。


 単純な強さや戦闘における技術・兵法は生前、道場で培ってきたが、2人が求めているのはそこではないだろう。

 

 であるとするなら、別の面。そう例えば、己の信念みたいなものだろうか。それならば話は簡単だ。

 

「まぁ、前世で剣術を習ってたってのはもちろんあるだろうが、少しは人のために生きられるようになりたいって思いがあるからかな」

「人のためにですか?」

 

 ヴェラの応えにメフィスは眉を顰める。と、ヴェラは頷いて続けた。

 

「生前はひたすら自分のことばっかやってきたし、自分主体でその時のあたしにできることをやるっていうスタイルは多分これからも変わらないんだろうと思う。でも、ある時から他人のために何かをしてみたいって思ってな。自分が頑張ることによって受け手が喜ぶんならやってみるのも良いかなって思ったんだよ。まぁ、それも結局は最後まで成し遂げられなかったんだけどな」


 自分が7年間漫画を描き続けられたのも、読んで面白いと言ってくれる読者のおかげだった。

 

 最初は自分の思うままに描きたいものを描いていたのだが、それでは駄目だと真に自分の伝えたいことを伝えるには受け手と向き合わなければならないとひょっとしたことがきっかけで気づいたのだ。


 だったら自分の描きたいものはそのままに。けれど、読者とって分かりやすく面白いものを追求するようになったのだ。


 そうして描き続けること7年が経ったある日、漫画大賞を受賞した。受賞作品が漫画誌に掲載された後、単行本として出るはずだったのだが、その直前で車にはねられて死んでしまった。

 

 道半ばで命を落としてしまったが、そこまでできたのは受け手の喜ぶ姿があったからだ。


「それに、ここに来てからファウストやメフィスたちは何も分からないあたしに対して色々と良くしてくれてるだろ? そりゃあたしを試験に受からせたいからみたいなそれぞれの思惑はあるだろうよ。けど、それが何だろうと手を貸してくれてるのは事実だ。だから今度こそ受けた恩はきちんと返したい。お前らの手助けに報いることができるように頑張るってのが今の自分にできることだ」

 

 『受けた恩はできる限り返せ』と親父もよく言っていた。その言葉に自分も心から共感して返せるものは極力返してきた。一番大きなものは返せなかったが。

 

 だから前世で返せなかった分、今世では自分に寄り添ってくれた人たちに報いることができるよう、自分にやれることはすべてやる。


 持てる手札すべてを使って試験に受かる。そのためならば手段は問わないつもりだ。

 

「しかし、今度こそというのは?」

「あぁ。事故で車に轢かれてそのままぽっくり逝っちまって、今まで世話してもらった姉に恩を返せなかったからよ」

 

 もちろん姉だけではない。そこには今まで自分を応援してくれてた人たちも含まれている。


 だが、一番近くで支えてくれていたのはいつだって姉だった。

 

「だから自分が死んだあとの姉ちゃんが元気にやってるかどうかだけが心残りでな。流石に住んでる世界が違うから見に行くなんてことはできないだろうが――」

「いえ、バラム様の力ならば可能なのではないでしょうか」

「えっ? どういうことだ?」


 メフィスの発言にヴェラは思わず首を傾げる。


 住む世界の違う人間を見るなどという神の所業じみたことが本当に可能なのか……。

 

 目を見開いて唖然としていると、メフィスは語り出す。

 

「バラム様の持つ称号の権能には蒼炎を操るのともう1つ、現在を見通す魔眼がありますの。ですからひょっとしたら視ることができるのでは?」

「マ、マジかよ……」


 メフィスによると、称号の権能は自らを補助するものから、攻撃を与えるもの、そして中には神に等しい力を持つものまであるらしい。


 あのバラムが最後に位置するいうのなら、1000年もの間インフェルス領域を統治してきたのも頷ける。

 

 そして先ほどの戦闘でメフィスが見せた透明な鎖や防壁は彼女の称号に付与された風を物体やエネルギーに変換する権能によるものらしい。


 鎖が見えなかったのも風で生成していたせいなのだとか。

 

(改めて称号持ちってえげつないな……)

 

 ともあれ姉の姿を見られる可能性があるとすれば、早く向かうほかない。ヴェラとメフィスはフリューゲルに別れを告げ、バラムのいる魔王城へと戻るのだった。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 魔王城の謁見の間に着いたヴェラは玉座に座るバラムへ事情を説明する。

 

「というわけなんだが、どうだ?」

「ふむ。やろうと思えばできなくはない。が、嫌じゃ」

 

 ヴェラの話を一通り聞いたバラムはそっぽを向いて断った。

 

「ケチですね」

「今回ばかりはわたしも兄様と同意見です」

 

 玉座の下で聞いていたファウストとメフィスは、バラムに辛辣な言葉を投げかける。

 

「誰がケチじゃ! お主ら揃いも揃って我を非難するとはそれでも従者かの!?」


 席を立ったバラムは無礼な態度を取る2人に向かって反発する。ファウストとメフィスは慣れたようにあしらい、バラムへまだ続きがあるのだろうと話の先を促した。


 図星を突かれ、静まったバラムは椅子に腰を下ろすと、ヴェラへこう告げる。

 

「世界を越境するほどのものとなればその後、1週間は魔眼の力が行使できぬ。人に物事を頼むならそれに見合う対価を用意せよ」


 逆に1週間使えなくなるだけなのかと思わなくもないが、その間にインフェルス領域で何か起きればその制約は重大な枷となる。


 見合う対価を用意できるものなら用意したいが、そんなもの異世界に来てから1か月と経っていないヴェラは生憎と持ち合わせてはいない。


 どうするか頭を悩ませていると、何か閃いたようでバラムが口元を緩める。

 

「そうじゃな。今回の場合は我の隠居じゃ。すなわち試験に合格したら視てやってもよい」

「本当か!?」

 

 バラムの言葉にヴェラは驚いたように声を上げた。

 

「うむ。じゃから残り1週間、合格できるように努力せい」

「もちろん、言われなくてもそのつもりだ」

 

 試験に受かるための理由がまた1つ増え、ヴェラはやる気に満ちた笑顔でバラムを見るのだった。

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