第1章-第10話 敵情視察
魔王認定試験でバラムを倒すためには、日々の修練はもちろん、敵情視察も欠かせない。そういうわけで、ヴェラはバラムの動向を観察し、弱点を探るべく謁見の間の前まで来ていた。
「よーし、それじゃあ偵察開始と行きます――」
「ヴェラ様、こんなところで一体何をなされているのです?」
「うわあああ!?」
ヴェラが意気込んだ瞬間、後ろから急に呼びかけられ、その場で飛び上がる。後ろを振りむいてみると、メフィスが立っていた。
「あー、びっくりした……。気配消して後ろから声かけるなよ」
「あら、申し訳ありません。護衛をしている都合上、癖になっておりまして」
(えらく心臓に悪い癖だな……)
微笑んで言うメフィスにヴェラは苦笑交じりにそう思う。そういえばメフィスは使用人でありながら魔王の護衛役でもあったことを思い出す。果たしてあの傍若無人な魔王に護衛なんているのだろうか。
疑いの目で玉座にいるバラムを見ていると、メフィスが声をかけてくる。
「それで、何をなされていたのです?」
「あー、実はな……」
振り向きざまにメフィスへ事情を説明する。
「なるほど。なんだか面白そ……いえ、そういうことでしたら、このメフィスもお手伝いさせていただきますわ」
「お、おう。ありがとうな」
今、面白そうって言いかけたよな……。
そんな感想を抱くも、長年バラムの使用人兼護衛を務めているメフィスならば、弱点の1つや2つ知っていそうだ。
ヴェラとメフィスは謁見の間に設置された横の回廊から中の様子を伺う。
玉座に座ったバラムは現在、客人だろうか小柄な男性と何やら話をしていた。気になったヴェラは念話魔術でメフィスの脳へと語り掛ける。
『にしても、メフィス。今、バラムと話してるやつは誰なんだ?』
『彼はドワーフのアイゼンと言いまして、王都の中でも腕利きの鍛冶職人です。確か今日はバラム様に武器を献上しに来られる予定でしたね』
鍛冶職人のドワーフといえば、フリューゲルの槍を造った者も同じドワーフだった。もしかして今、バラムと話している彼がそうなのだろうか。
ひっそりと回廊の壁から覗いて注視していると、バラムが男性から上等な長剣を受け取った。どうやら武器を献上にし来たのは本当らしい。質のいい素材で作られているのが一目で分かる。
『そういう意味では、バラム様は武器収集が趣味でしたわね。後、単純に戦いを好まれます』
メフィスからそう告げられ、武器庫に一級品の武器が勢ぞろいしていたのはそういうことかとヴェラは納得する。
バラムは戦いを好むと聞いて今までの言動を振り返ってみる。召喚時にファウストから挑発を受けた時には何かと突っかかっていたし、怒りっぽい。そう言う意味では短気で挑発に乗りやすく、好戦的と言えよう。後はかなり図に乗っているところも見受けられる。
(もしかすると、これは使えるかもしれないな……)
いつの間にかドワーフの客人が出て行ったようで、バラムも謁見の間を後にする。ヴェラとメフィスは気配を消して後を追いかけてる。と、追いかけた先にあったのは修練場だった。
「よっと……」
2人して修練場の建物の屋根に飛び乗り、バラムを見下ろす形で観察する。バラムは先ほど受け取った剣を『宝物庫』から出して、鞘から抜く。バラムが指を鳴らした直後、石畳の地面に青の魔法陣が複数出現する。
『あれはなんだ?』
『召喚魔術です。バラム様の場合、自らの配下となったものを召喚できます』
メフィスから説明されると、召喚陣から大型の蛇とムカデが出て来た。
ヴェラはそれを見た途端、嫌そうに顔を歪める。そう虫が苦手なのだ。昔から大の苦手で、森林に行くときは必ずと言って良いほど全身を魔力で覆って保護している。
一方、戦闘中のバラムは向かってきたムカデを避け、すれ違いざまに硬い皮膚で覆われた胴へ斬撃を入れる。
(やっぱやり慣れてるな)
正直、目にしたくないがこれも弱点を知るために我慢だ。しかし、ムカデの的がデカい分、まだ対処のしようはあるなと自分がやるならどうするか頭の中でシミュレーションしつつ眺める。
ムカデがどんどん攻撃を受けて弱っていく中、バラムは手に蒼い炎を出してムカデへ放射する。避ける気力もなく、蒼い炎を喰らったムカデが消滅した。
『今のって?』
『バラム様の称号による権能の一種で、蒼炎を自由自在に操ることが可能です』
『なるほど、あれがバラムの権能か』
権能というのは、称号に書かれた特殊スキルのようなもので、ヴェラの場合は称号の所有者が笑ったり、その状況や言動などを面白いと認知すれば、その分だけ全てのステータスが上昇するというものだ。先日のフリューゲルとの戦いでも、ヴェラが笑みを浮かべた瞬間に力が湧いてきたので、それが権能の力という者だろう。
『もちろん、人によって権能の種類は異なりますが、権能の威力は魔法や魔術とは比にならないほどに強いものなので、まともに喰らえば致命傷は免れないかと』
『マジかよ……』
ヴェラの場合はステータスを上げる補助スキルのような意味合いが強いが、バラムの場合は完全に攻撃用途だ。
(これは何がなんでも避けるか、防がねぇとまずいな)
何か対策を考えておかなければならない。もし、知らずに試験に挑んでいたと思うとヒヤリとする。
メフィスに聞いてよかった……。
安堵している間にも、バラムは蒼炎を纏った長剣で大きな蛇を両断し、戦闘という名の試し切りを終えた。良いものが手に入って満足したのか、バラムは上機嫌な顔で修練場を後にする。
その後、自身の書斎にて溜まった書類を片づけるバラム。どうにも嫌なことや自分のやりたくないことは後回しにするようで、欠伸をしていた。
「うむぅ……飽きた」
しばらく羽ペンを走らせてはいたものの、そう呟いて机に置いてしまった。
(飽きたって何だよ。よくそれで魔王やれてるな)
ヴェラはバラムの持続性の無さを見て、呆れたように顔を引き攣らせる。
その後もバラムの様子を観察するが、これ以上見ていても何も分かることはなさそうだ。
敵情視察はお開きとなり、ヴェラとメフィスはバラムの書斎を後にするのだった。




